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第3話 悪喰姫と呪われ皇子2


 私の【なんでも食べれる】と言う恩寵は、実際に自分の口から食べる以外にも紋章の力を使う事で疑似的な大口を発動させる事ができる。

 今まで試してきた結果、自分の口に入らないような大きな物も空間を削るように食べる事が出来る。 食べたモノは私のお腹に溜まらないし何処に行くのか分からないからあまり使わないでいたけれど、この巨体を食べるには使わなきゃ駄目だろう。


 多分、私の恩寵で食べれば不老不死だろうがなんだろうがこの世からは消えて無くなるだろう。 けれど、今は皇子そのものじゃなくて呪いだけを食べなくてはいけない。 どうしよう…… 目に見えないモノなんて食べ方が分からないよ!!


 ちょっと気持ち悪いけど、一度口に含んで吸い出してみようか……


「まったく…….やってやろうじゃないのよ! 悪喰姫舐めないでよね! その呪い、喰ってやろうじゃないの!」


 私は紋章の力で顕現した大口で憐れな肉塊になった皇子を包み込むと噛み殺してしまわないように、呑み込んでしまわないように注意しながら肥大した呪いを吸い出していく……

 大口で食べたモノは実際の私の口に入る訳じゃあないのだけれど……ズズズッと粘り気のある何かが喉奥へと吸い込まれていく感覚に錆鉄のような苦味が口一杯に広がってくるような気持ち悪さに寒気がしてくる。


「ウェッ!! ハァハァハァ……」


「姫様! 大丈夫ですか!」


 大口からぺっと肉塊だったモノ(・・・・・・・)を吐き出す。 細心の注意を払っていたのと大口から流れ込んでくる嫌な感触に思ったより疲弊してしまう。 直接食べた訳じゃないけど、とっっっても不味いっていう感想ね。


「ルシオ!!」


 大口から吐き出されたのは先程の肉塊とは違ってちゃんと人の姿をしていた。 綺麗な銀髪の少年に見える。 当たり前かも知れないけど裸だし……あれを大口で……


 グッタリとしている少年を陛下が抱き抱えると、急いで控えていた兵士に医師を呼びに行かせた。


「シェリム姫!! ありがとう!! またルシオの姿を見る事が出来た!!」


「ハァハァハァ……い、いえ……良かった、です……」


「姫様!!」


 呪いなんて訳の分からないモノを食べたから食あたりなのかなんなのか、ぐるぐるとお腹が気持ち悪くて気持ち悪くて……意識が急激に遠のいていく…………



☆★☆★


「姫様ぁ!!」


 おぅふ、痛い! 頬に走る鋭い痛みに意識が覚醒してくる。


「エ、エルマ……」


「はっ!? 姫様!? 姫さまぁぁああ! 良かったですぅぅ!」


 気がついた私を見てエルマが抱きついてくる。 コイツ! だから力が強いんだっての!! 死ぬっ!!


「エルマ! はな……離して……し、死ぬっ……」


「姫様ぁ! 死なないでぇぇ!!」


「アンタのせいで死にそうだっての!!」


 なんとかエルマの拘束から逃れると九死に一生を得た私は自分がフカフカのベッドで寝かされていた事に気付く。 こんな良いベッド王国でも使った事ないわ……アルテラあたりなら使ってそうだけど。


「ここは?」


「アルトエンド城の客室です! 皇帝が起きたら来いって言ってました!」


「陛下を付けなさい陛下を。 とりあえず皇子の姿は戻ったのを見たけれど生きてたのかしら?」


「さぁ? 私はずっと姫様に付いてたので」


 私の問いかけにエルマは肩を竦めて分からないとジェスチャーする。 こんな所が本当にイラッとする。


「はぁ……それじゃあ陛下に会いに行きましょう。 エルマ、準備して」


「はいっ! でも姫様って本当に体型はあまり変わらないですよねー? 呪いって食べたら何か変化ありました?」


 私は普通の食物以外を食べると少しだけ、食べたモノの特性が身体に変化として現れる。 これを知っているのは私とエルマだけだけれど。 私は謁見用のドレスに着替える為に来ていたシルクのネグリジェを脱ぐと鏡の前で変化がないか確かめる。


「んー、これといって変化は無さそうね」


「姫様! 相変わらず綺麗なお肌!」


「ちょっと! アンタの手つきいやらしいのよ、触んな!」


 エルマは私が着替えるといつも腕やお腹辺りをさわさわしてくる。 放っておくと他の場所まで触ろうとしてくるし、変態か!


「あーん、姫様のいけずぅ。 あっ! 姫様ちょっと目つきが鋭くなってますよ? 呪いのせい?」


「アンタのせいよ! ったく。 早く着替えのドレス着せてちょうだい。 帝国の侍女と交換してもらうわよ? あっ、でもそれじゃあ帝国に迷惑になっちゃうわね」


「えぇっ!? 姫様が毒舌になった!? 呪いのせい?」


「元からよ! ずっと周りの大人達から呪詛を吐かれつづけたら毒舌にもなるわよ……」


 私の【恩寵】が【なんでも食べれる】なんてよくわからないモノだって判明した時、周りの大人達の態度が急変するなか母だけは私の事を守ってくれた。

 けれど側妃だった母は父王や正妃から疎まれ、蔑まれ虐げられた。

 だからだろうか、母は早くに亡くなり残された私は周りに味方も居らず嫌味や悪態を聞かされて育ったのだ……


「姫様ぁ。 大丈夫、エルマはずっと側にいますから!」


「……まったく、それはなんて呪いよ」


 私が10歳の頃にやってきたエルマは本当に本当に出来の悪い侍女で……最初は新手の嫌がらせかと思ったりしたけれど。 エルマのこのアホみたいな笑顔を見てると不思議と悲壮感がなくなるからありがたいのよね。



☆★☆★


「シェリム王女! もう体調は大丈夫なのか?」


 私が謁見の間に着くと、皇帝陛下は心配そうに迎えてくれた。


「はい。 ご心配ありがとうございます」


「ルシオ、この方がお前を救ってくれたシェリム王女だ。 挨拶をしなさい」


「ルシオ・アルトエンドです。 呪いを解いて頂きありがとうございます」


 皇帝陛下の隣に立っていた、12.3歳ぐらいに見える美少年が深々と頭を下げてきた。


 あれ? 確かアルトエンド帝国には他に皇女と第2皇子がいてどちらもルシオ殿下より歳下だったはず。 そして帝国の皇女でるアルティシア様は私と同じ17歳だと聞いた気が……


「あのような化け物の姿から人間へと戻してもらった後に、厚かましいお願いなのだが……見ての通り俺は10年ほど前から歳を取らなくなってしまった。 それは不老不死の呪いのせいなんだ。 俺はこれから人として生き人として死にたい……出来ればこの呪いも食べてはくれないか?」


 その時の私は、頭を下げる皇子を見て『じゃあ実年齢は22、3歳ぐらいのはずだけど見た目だけは12、3歳って事なのね……美少年の合法ショタ皇子! とっってもイイんじゃない?』 なんて考えてしまっていた。


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