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第24話 悪喰姫と幸せな結末


「新郎ルシオ、あなたはここにいるシェリムを

悲しみ深い時も 喜びに充ちた時も共に過ごし 愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」


「誓います」


「新婦シェリムあなたもまたここにいるルシオを悲しみ深い時も 喜びに充ちた時も

共に過ごし 愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」


「誓います」


 神父の言葉に続いてルシオとシェリムが誓いの言葉を口にする。


 その後、指輪の交換も滞りなく進み2人のキスに礼拝堂に甘く感動の空気が流れる。


 代々、皇族の結婚式に使われる礼拝堂は大勢の招待客が入れるように特別に広く造られている。


 そして、花嫁の親族側に座るマール王国、国王のマクガイル・マールとその妻であり王妃のアンジェラ・マールは青い顔をして震えている。 2人共、その顔に大粒の汗をかいている。 それは決して会場が暑いからとかでは無く…………


「あ、あなた……これは一体どう言う事なんですの? アルテラが帝国の皇太子妃になったと言うから喜んでやって来たのに……」


「わ、わからん……俺は何を見せられてるんだ……?」


 浅い呼吸を繰り返す2人の前には幸せそうに笑う娘の姿……


 ただし、溺愛していたアルテラではなく、不出来だと放置し迫害までしていたもう1人の娘であるシェリムだった。


 時折、マクガイルを伺うように見るシェリムの目は、新郎であるルシオに向けられる暖かいものでは無く、どこまでも冷たく暗い瞳である。 目が合う度にマクガイルは生きた心地がせず、どうやってこの場から離れようかとそればかりを考えている。



「それでは皆様、この後は皇城3階にある大広間にて披露宴が催されます。 速やかにご移動の方お願い致します!」


 挙式が終わり、このタイミングでこの場から帰ろうとするマクガイル夫妻に帝国の皇帝であるレオニールが声を掛ける。


「マール王国! ルシオに素晴らしい花嫁を迎える事が出来て感謝しているぞ!」


「こ、これはこれは……レオニール陛下……わ、私どもも帝国と縁を結べて……う、嬉しく思っております……それで、申し訳ありませんが火急の用がございまして……」


「ほぅ? 娘の結婚よりも大切な用事だと?」


 どうにか逃げだそうと考えるマクガイルにレオニールは目を細めて圧力をかける。


「あっ……いや、もちろん結婚式の方が大切なんですが……」


「フフフフフ、そうだろう? それならば最後まで一緒に楽しもうじゃないか? ん?」


「アハハハ……そ、そうですね……」


 レオニールの圧力に負けて抜け出す機会を逃すマクガイル。

 

 (シェリムのあの目は決して俺たちを許していない……きっとこの場で断罪するつもりだ……その前に逃げなければ!)


 隙を突いて逃げようと思うが、警護だと称して両サイドをガッチリと帝国兵に囲まれている……


 そんな時、外が騒がしくなった事に気付く。


「なんの騒ぎだ?」


「陛下! ご報告申し上げます! 歓喜の余り民衆の一部が皇城内に侵入しようとして警備隊と揉み合っている様です! 間もなく鎮静化すると思われます!」


「そうか、祝いの席だ余り厳しく処罰するなよ」


「はっ! わかりました!」


 皇帝レオニールの下に警備隊の隊長がやって来て騒ぎについての報告を上げる。


「きゃあっ!?」


 その時、式の参列者から悲鳴のような驚きの声が上がる。


「どうした!?」


 その声にレオニールと警備兵の注意が逸れる。 


(やった! この騒ぎに乗じて逃げるぞ!)


 そろりそろりと会場を後にしようとするマクガイル夫妻の耳にヒステリックな女性の声が届く。


「ルシオ殿下! 目を覚まして! 貴方様が愛するのはお姉様じゃなくて私のはずですわ!!」


「えっ!?」


 マクガイルは聞き慣れた声に思わず声が溢れてしまう。


 声のした方をよく見ると、ボロボロでボサボサで見る影がないが、髪を掻きむしるよく見知った娘の顔が見える……


「アルテラ!」


 アルテラの実母であるアンジェラが声を上げると、アルテラも気づいたようだ。


「お父様! お母様!! 見て下さい、私は帝国に不当な扱いを受けたんですの!! きっとお姉様が呪法でも使って洗脳してるんですわ!! それか色目を使って! お父様、どうにかして! 私をルシオ殿下のお妃にすると言って!」


「いやぁ、それは……」


「まぁ! なんて事!! あなた、アルテラがあんな見窄らしい格好に!! 酷いわ!」


 (まったくなんて事だ! タイミングが悪い! コイツら状況が分かってないのか? 今騒いだ所で悪手だろうがっ!! 帝国に逆らえば国が滅ぶぞ!)


「くくっ、そう言えばあの女もマールの王女でしたな? ルシオとその婚約者であるシェリムに対しての不敬罪で投獄していたんでした。 2人の結婚を祝して恩赦を出したをだがな……」


 レオニールの言葉にマクガイルは気が遠くなる。 既にアルテラがやらかしていた……これはもう確実に自分達がシェリムに対して行っていた事が知られていると……


「そ、そのような事があったのですな……」


「あなた! こんな事許されませんわ! 正式に帝国に抗議するべきだわ!! アルテラが可哀想よ!」


「お母様!! そうよ! この私を不当に投獄までしたのだから、相応の対価を支払って頂きますわ!!」


「ちょ、ちょっと待てアンジェラ! アルテラも! 待て! 落ち着くんだ!」


 (コイツら馬鹿か!? 帝国とマールの国力の差を考えた事がないのか!? 周辺国が帝国に飲み込まれる中、下手に出る事でなんとか侵略を受けずに済んでいたのに……)


「ほぅ? 不当だと? 相応の対価だと?」


 アルテラとアンジェラのヒステリックな声が響く中、レオニールの顔からは完全に笑みが消え能面の様な顔になっている。


「ええ! そうよ! 先ずはあのアバズレお姉様を投獄……いいえ、奴隷落ちさせるのよ! それで私を本当の皇太子妃として迎えるなら許してあげるわ!」


「……なるほど、妹はああ言っているが何か言う事はあるか?」


 レオニールはルシオの隣で庇われるように立つ赤毛の少女──シェリムに声をかける。


「陛下……それじゃあ一言だけ……」


 シェリムはルシオと繋いだ手をほどいてアルテラの前まで歩いて行く。


「な、何よ! いまさらだ謝ったって許さないんだからね! お姉様なんて奴隷落ちよ!」


「アルテラ…………アンタって馬鹿?」


「はっ……!?」


 シェリムは最大限嘲るように言うと、踵を返してルシオの下へと戻る。


 アルテラは何を言われたのか理解できず、素っ頓狂な声をあげると、ルシオが笑い、それに釣られるようにレオニールもエルマもその他の参列者達も笑い始め……会場は一気に笑いの渦に巻き込まれた。


「…………さない、許さないッ!!」


 アルテラは嘲笑の中、シェリムに掴み掛かろうと走り出す──が、シェリムの目前でエルマに拘束されてしまう。


「アルテラ様、お久しぶりですぅ」


「くっ、アンタ! 侍女のバカ女じゃない! 退きなさいよバカ女!!」


「あはっ、バカって言う方がカバなんですよぉ?」


「カバって……本当にバカじゃない! 私は絶対に許さない! シェリム! アンタを絶対にっ……」


 その瞬間、アルテラの頭が上下から押さえつけらる……とても硬い歯の様な感触が頭頂部と顎に感じられてアルテラは押し黙る。


「許さない? それは私のセリフなんだけど?」


 アルテラがシェリムを見ればその手の甲に紋章が輝いている……


 シェリムが少しだけ力を入れれば、ミシリっとアルテラの頭蓋が悲鳴を上げる。


「ヒィ……」


 この力は簡単に自分の頭を噛み砕く事ができると感じたアルテラは地下牢獄での恐怖を思い出してまたも失禁してしまう。


「アルテラ!! あなた! アルテラがっ! こんな横暴許されませんわ!」


「ええい! うるさい! 騒ぐな、今考えている!」


 アンジェラがアルテラを心配し、更にヒステリックな声を上げると、とうとうマクガイルもキレて大声を張り上げる。


「ふっ、何を考える事がある? またしても不敬を働く娘に、状況が分かっていない王妃。 お前たちがシェリムにして来た事、全て聞いているぞ? ……俺が許すと思うか?」


 (終わった……マール王国はこれで……)


 レオニールの冷たい視線を受けてマクガイルは膝から崩れ落ちる。 その耳にはいつまでも騒ぎ立てるアンジェラの声と初夏を告げる蝉の鳴き声だけが聞こえていた。



 その日、マール王国マクガイルはマール王国を帝国の属国として恭順する事を選ぶ。 臨時的に帝国から司令官を送り、その後の国家元首は選挙で選ぶ事になった。 マール王家は解体し、平民へと落とされた。




 そして、ルシオとシェリムは無事に夫婦となり、多くの祝福の中穏やかに暮らしましたとさ。



いつもお読み頂きありがとうございます。

とりあえずはこれでおしまいです。

もう1話、夜に更新致しますので良かったらお読みください。

ブックマークや評価頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

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