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第2話 悪喰姫と呪われ皇子


「姫様〜!! 見て下さいよ! すっごいですよ〜!!」


「はぁ、まったく何が凄いのよ……」


 私が王国を追い出された日の事を思い出してイライラとしている所に、エルマの能天気な声が飛んでくる。

 私は【恩寵】が判明してからほぼ軟禁状態だったから、もちろん国外に出るのは今回が初めてだけれど、帝国が王国よりも発展しているという話はよく聞いていた。

 とは言っても私が住んでいたマールの王城周辺もかなり賑わいのある城下町だったから、そこまで差は無いでしょう……


「えっーーーー!? 凄っ!? な、何あれ!?」


「ねーすっごいでしょう?」


 すっごいでしょう? じゃないわよ! このたまに敬語使えないのよね……って、そうじゃなくて……いったい何なの? これは……


 馬車の窓から外を眺めてみると、王国では見た事の無いような大きな建造物が建ち並んでいた。 けれど、それよりも目に留まったのは……


「アレは何? もしかしてアレが魔導船?」


「そうでっさ。 姫様は魔導船を見たのは初めてなんすか? 帝国はあんなものを何隻も持っているってんだぁから凄ぇすよ」


 今まで一度も話しかけて来なかった御者のおじさんが声を掛けてきた。

 魔導船なる空を飛ぶ船があるのは聞いた事があったけれど、実物を見るのは初めてだ。 それに、魔導船なんて高価な物、国に一隻有れば良い方らしい。 もちろんマール王国では見た事なんて無かったけど。


「あんなにいっぱい……てか、アンタ喋れたのね」


 見上げた空には何隻もの魔導船が飛び交っており、その光景は同じ世界のものとはとても思えなかった。


「そんじゃあアッシはこれで……」


 アルトエンドの皇城の前で私とエルマを下ろした御者はそのままUターンして帰って行った。 てか、アッシって……そんな山賊みたいな一人称の人って本当にいるのね。


 皇城に入るのに門兵にマール王国の王女だと言っても信じて貰えず、父王から預かった親書を渡すと暫く待たされた後、皇帝陛下との謁見が許された。


 豪奢ごうしゃな謁見の間に通されると数段高くなった玉座に座る険しい顔をした男性がいる。 この人が皇帝なのだろう、イケメンだし、ウチのアホ国王の何倍も威厳と威圧感がある。


「お初にお目にかかります、私はマール王国第1王女シェリム・マールと申します。 この度は皇帝陛下に拝謁する機会を賜り大変光栄に存じます」


「堅苦しい挨拶はいらん。 それで、マール国王からルシオの婚約者として娘はどうかといった話はあったが、丁重に断ったはずだぞ?」


「え゛っ!? えぇっとぉ……それは……」


 なによ断られてたじゃない! あんのアホ親父そんなに私が邪魔かぁ!


「あぁいや、シェリム王女が不足という事ではないのだ。 気を悪くしないでくれたまえ。 どちらかと言えばルシオの方がな……」


 驚き返事に窮した私に陛下は困った様にフォローを入れてくれる。 怖そうに見えて意外と良い人かも知れない。 ここは帰されるにしても一応頑張っておかないとアホ親父とアホ妹に嫌味を言われかねない。


「い、いえ……滅相もございませんわ。 けれど私も父から追い出さ……送り出された身、一度ルシオ殿下にもご挨拶させて欲しいですわ」


「ふぅむ。 遠路遥々来てもらって悪いのだが……ルシオのウワサ話は聞いた事があるだろう? とても人に会わせられるような状態ではないのだ」


「それならば平気です。 私も悪喰姫などと呼ばれて様々なウワサを立てられていますが、ご覧の通りただの人間ですので」


「悪喰姫……確かに聞いた事があるな。 あまり気にしていなかったが……そうか其方が悪喰姫だったか。 フフ、確かにウワサ話は当てにならないようだな。 その華奢な身体でどうしてそんなウワサが?」


「それは、私の【恩寵】のせいですわ。 【なんでも食べれる】と言う恩寵を授かってしまって……」


「【なんでも食べれる】? そ、それは、本当に何でも食べれるのか?」

 

 私の話を聞いた皇帝陛下は驚いた顔で聞いてくる。 まぁ、金属でも毒でも何でも食べれるって聞いたらびっくり人間だと思うわよね。 もういっそのこと帝国でびっくり人間として生きて行こうかしら? 王国で嫌味を言われながら幽閉されているよりは良さそうね。


「え、えぇ。 何でも、ですわ。 鉄でも毒でも食べれるんですわ。 よろしかったらご覧に入れましょうか?」


「そ、それは呪いもか? 呪いも食べれるのか?」


 さっきまでの威厳が霧散して何か縋るような顔で私を見る。 けれど、呪いなんて食べた事ないのだけれど……


「呪い? 呪いは……ちょっと……今まで食べたことがなくてですね……出会った事がなかったので……」


「……試してはくれぬか?」


「へっ?」


「【恩寵】とは本来人智を超えた神の祝福。 どんなにくだらなそうに思える能力だとて奇跡を起こす力を持っているものだ……頼む。 ルシオの呪いを食べれるかどうか一度試してはくれぬか?」


 陛下は私の前まで降りてくると私の手を握って頼んで来る。 その真剣さに思わず了承してしまったけれど……もし食べれなくても怒らないでね?



☆★☆★


「ここがルシオのいる部屋だ。 見た目はアレだが襲ってくる事はない……もう自我も残っていないだろう」


 陛下に連れられてやって来たのは、皇城から少し離れた離宮。 かなりの広さがあり、ここに来るまでの警備も厳重だった。


「中に入っても?」


「あぁ。 少し……驚くかも知れないが」


 分厚い鋼鉄製の扉の鍵を陛下が開けると、私は恐る恐る扉を押していく……あ、開かない……重すぎでしょこの扉ぁ!?


「姫様〜もっと押さないと開きませんよ〜?」


 エルマがニヘラと笑い軽く押すと分厚い扉が勢いよく開き、ガシャーンと金属音が鳴る。 コイツ! この無駄に馬鹿力のせいでしょっちゅう失敗してるくせにまるで学ばない! 中に皇子が居るのにそんな大きな音立てたらビックリしちゃうでしょうが!


 その音に反応したのか暗い部屋の中にモゾモゾと動く影がある……ただ、ソレ(・・)は人というにはあまりに大きいような……


「ひぃ!?」


「姫様! 下がって!」


 エルマが急に真面目な顔になり私を庇うように立つ。 


「大丈夫だ。 少しビックリしただけだろう。 害意はない。 ルシオ、おいで」


 影がもぞりと動いた。

ゆっくりと、這うように……いや、まるで巨大な芋虫だ。

人の姿はそこにはなく、ただただ肉塊がうごめいているだけだった。 そしてソレ(・・)はのそのそと蠕動ぜんどうしながら近づいてくる。


「ひぃ……」


「……怖がらなくても大丈夫だ。 こんな見た目だが、人は襲わない」


 陛下はとても悲しそうにその巨大な芋虫の様な肉塊を撫でる。 どこが頭かわからないが身体の一部を陛下の手に擦り付けている様子を見ると、なんとなく嬉しそうに見える。


「永劫辛苦の呪い、魍魎変化の呪い、自我喪失の呪い、幻影夢我の呪い、心身別離の呪い……分かっているだけでこれだけの呪いがかけられている。 どうだ? 食べれそうか?」


「や、やってみます……」


 名前を聞いただけでヤバそうな呪いの数々……そんな呪いが複数かかっていてよく生きていられるものだ……あれ? 不老不死とかいうウワサもあったけど、そのせいかしら……


 とりあえず、見えない呪いなんてモノが食べれるかわかんない。 けど、やるしかない。


 そう覚悟を決めると私の手の甲の紋章が薄く光り出す……


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