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第1話 悪喰姫と王国追放


 マール王国第1王女、シェリム・マール。 それが私の肩書きだ。

 周りを大国に囲まれた特産品といえば農作物しかない様な、長閑のどかなだけが取り柄の小国の王族。

 国土の殆どが農地と手付かずのままの自然の為、国民だって多くない。 けれど、そんな事言ったって王族は王族だ。


 だから……こんな仕事の出来ない侍女を1人だけ連れて追い出されるように隣の大国へ輿入れする事になるなんて!


「おかしいでしょう!! 私はこれでも第1王女なのよ! それなのにこんな……」


「あっ、姫様。 見えてきましたよー。 帝国の皇都!」


 荷物は最低限、馬車も一頭立ての小ぢんまりした物で乗り心地も最悪。 マールの城から早半月ほど、クッション性の無い馬車に揺られてお尻が痛すぎる……


「イタタタっ……エルマ、あんたお尻痛くないの?」


「えっ!? 痛くないですよー! 鍛えてますんで! エヘッ」


 エヘッじゃないわよ! なによ鍛えてるって。 お尻なんてどうやって鍛えるってのよ。 クソッ、こんな事ならもっと鉄でも食べておけば良かったわ。


 このくせっ毛を肩上で切り揃えた黒髪を風に靡かせて、キャビンの窓から頭を出しているアホ面の女が唯一、私についてきた侍女のエルマ。 何をやっても失敗ばっかりして侍女としてはいつクビになってもおかしくない女だけれど、ヘラヘラと笑っている姿を見ると何故か憎めないのよね。 アホだけど。


 どうして私がこのアホ侍女と2人で帝国へ向かっているかというと……


 あれは約1か月ほど前…………



「いやーウワサとは当てにならないものですね! シェリム王女殿下がこれほどお美しいとは! 殿下を公の場や夜会などでお見かけする事が殆ど無いので憶測ばかりが独り歩きしていたようですね!」


 目の前で鼻息荒く私を褒め称えるのはこの国の有力貴族の子息らしい。 らしいって言うのは興味がないから特に覚えていないから。

 精悍な顔立ちに綺麗なブロンドの髪。 一般的に見れば十分美男子と呼ばれるレベル。

 けれど私の心は動かない。 だって、この人もきっと……


「あの……そのウワサって言うのは……あの事かしら?」


 王城内にある庭園でお茶の入ったティーカップを手に取りながら私は最大限の作り笑いを見せる。 すると、目の前の男は顔を赤くして落ち着かない様子で早口で喋り始める。


「あ、あぁ。 まったくこんな可憐な王女殿下に対して無礼極まりないウワサですよ! なんでもシェリム王女はなんでも食べてしまう大食いの悪食女だって言うんですよ! こんなに華奢で可愛らしい王女殿下がそんな訳有りませんよね! 実は私もここに来る前に悪友から、『なんでも食べてしまうらしいからお前も食べられちゃうかもよ?』なんて揶揄われたりしまして……イヤイヤ、私は全然そんな話信じていませんよ! ……ただ、実際王女殿下を拝見いたしまして……その……食べられてもいいかな、なんて……フフフッ」


「ブッ!!?」


 キモっ!! ちょっと何、顔赤くして下らない下ネタぶっ込んでのよ! 吹いちゃったじゃない! 普通は王女にそんな事言って無事じゃすまないのよ! 


 けれど、こんな望まないお見合いをさせられるのも私が授かった【恩寵】のせい。


 【恩寵】っていうのはごく稀に本来人間が持ち得ない奇跡のような能力を持って生まれる事。 だから【恩寵】を授かる人はとても少なく貴重で恩寵による能力もとても凄いものばかり。

 って言うのが一般常識で私もそう思っていた。 そして、恩寵を授かった証として身体の一部に徐々に浮き出てくるアザのような紋章、それを発見した時は周りの人達はもう凄い騒ぎで。 今まで男子が継ぐしきたりの王座もこの子に継がせようだの、これでマール王国がもっと強国になれるだの散々騒いで、宴を開いては持てはやされたわ。


 【恩寵】を授かっただけではどんな能力かわからない。 紋章の形で何となくの方向性は分かるらしいけれど、私の手の甲に浮き出た紋章はどうやら口をかたどった模様のようだった。

 大昔に似たような口を模った紋章が出た人は、人に命令を強制する【王命キングスオーダー】なんていう凄い能力で強大な国を創り上げたらしい。 

 だからだろう、物凄〜く期待を受けて【神託】の能力を持つ司教様に私の能力を聞きに行ったのに………………その後、私に対する態度が180度変わってしまった。


 司教様が神の啓示を受けて私の能力を教えてくれた。 私の能力は……【なんでも食べれる】というものだった。 

 それを聞いた父王は怒りをあらわにして『だから何だ!!』って怒鳴っていたわ。


 そりゃあね……私だってなんでも食べれるって司教様に真面目な顔で言われた時同じ事思ったけれど……何でも食べれる能力って、例えば飢饉の時にでも私1人は飢えずに済むってぐらいで全く人々の役になんて立たない。 ましてや国を富ませる事なんて不可能な能力だろう。


 それから私はほぼ放置されるようになり、腹違いの妹であるアルテラが父王に溺愛されていった。 だから私はヤケ酒ならぬヤケ喰いで手当たり次第に何でも食べてみた。 けど、そのおかげで面白い事がわかった、鉄などの金属を食べたら少し身体が硬くなるし、スライムみたいなプルプルなのを食べると身体が柔らかくなったのだ。

 女の子なのにカチカチなのは嫌だったから金属類はあまり食べないようにしてスライムとかゴムとか食べてみたんだけど、とくに期待した部分(主に胸)のボリュームアップには効果無かったわね。


 その後、さっさと結婚させようとしてるのか何度かお見合いをさせられると、大抵は目の前にいる男のように最初は私を褒めてくれる。 おもに見た目を。 だから私は……


「まぁ、悪食だなんて酷いわ。 でも、銀製のカトラリーや陶器のお皿なんかも美味しいのですわよ。 ウフフ、ご希望でしたら貴方も食べてあげますわよ?」


 そう言ってバリバリとナイフや皿を食べて見せ、最後に大きめのソーセージを思いっきり齧って見せる。


「ヒ、ヒィィィ!? すすすすすいません! ちょっと急にお腹が痛くなってしまいました! ちょ、ちょっと失礼します!」


 これをすると皆んなお腹が痛くなったり、急用を思い出したりして帰ってしまうのよね。

 まったく、ちょっとカトラリーやら食器やら食べたぐらいで情けないわね! もっと骨のある男性じゃないと嫁ぐ気になれないわ。


 なんて、お見合い相手を追い返していたらある日父王に呼ばれたの。


「お姉様って本当に使えないのね! 食器だってタダじゃないのよ? 食べるしか能の無いくせに……せめて有力貴族と結婚して王家の力になってくれれば良いのに、誰にも相手にされないなんて。 本当に可哀想なお姉様。 アハハハ」


 この父王の横で嫌味たっぷりに高笑いしてるのが異母妹のアルテラ。 私とは違い豪奢なブロンドの髪をしており常にクルクルと巻いてある。 マール王国は男子が継ぐ決まりだから次期国王は私の兄がなるのが決まっていて、だからアルテラは隣国であるアルトエンド帝国の貴族と婚約したらしい。

 アルトエンド帝国はこの大陸で1番の国土と軍事力を持つ大国だから、そこの貴族と結婚する事はマール王国にとっても重要な外交になる。 普段は私の事を毛嫌いして話しかけても来ないのに、こんなに上機嫌に煽ってくるなんて嫌な予感がする。

 

「そんな可哀想なお姉様に私、とっっっても良い話を持って来ましたの! なんと私が婚約した帝国のコッパー伯爵様が面白いお話しをして下さったの。 なんでも帝国の第1皇子様がお妃様を募集しているのですってよ! あの帝国の第一皇子ですわよ! とっっっても優良物件! どう? お姉様、立候補してみない? ウフフ」


 あっ……やっぱり。 嫌な予感が当たった。 帝国の第1皇子……私の悪喰姫なんて悪名なんかよりよっぽど有名なウワサ(・・・)……


 ──第1皇子は呪われている。


 化け物の様な姿になって塔に幽閉されている。 夜な夜な不気味な声が聞こえてくる。 何人もの侍女を食い殺している。 不老不死だから殺す事も出来ない……などなど、普通なら信憑性を疑う様なウワサばかりだけれど、火のない所に煙は立たぬ、帝国の第1皇子なんて優良物件、誰もが結婚したいに決まっているのにそんな話が無いことが信憑性を高めている。


「えっとぉ……私は遠慮しておくわ。 そんな良い縁談なら貴女が立候補したらいいんじゃない?」


「はぁ!? あれぇ? あれれぇ? せっっっかくの私の提案を食べる事しか能の無いお姉様が断れると思っているの? そんなんじゃお姉様が欲しがっていたネックレスもあげれませんわよ? それに生憎、私にはコッパー伯爵様がいますし、何より……うふふ、化け物に食べられたくなーんてないのよ! アハハハハハ!」


 うぐぅ……これを言われると私はこの愚妹の言う事を聞かなければいけない……食べる事しか脳が無いってのは確かにそうだけど、それよりもアルテラの言うネックレス(・・・・・)だ……欲しがっていたも何もアレは元々お母様の物だ。 お母様が亡くなった後形見として大切に持っていたのに父に取り上げられてしまったものだ。 公費で買った物だとかなんだで私の懇願を無視して持っていかれたのだ。 きっと私が大切にしていたからアルテラが父に頼んだのだろう、次の日にはこれ見よがしにネックレスをかけていたから……


 最近はアルテラがあのネックレスを着けているのを見ていないけど、アレだけは絶対に取り戻さなくちゃ……その為にこんな居心地の悪い王宮に居座っているんだから。


「シェリムよ、アルテラの言う通りだ。 悪喰姫なんて悪名が広がったお前をいつまでも置いておくつもりはない。 国内の貴族とさっさと結婚してればよかったものを……ふぅ、直ぐに準備して帝国へ向かうのだ。 そして、もう帰って来るなよ」


 ようやく口を開いた父王は冷たい口調でそう言い放つと、もう話は無いとばかりに椅子から立ち上がると私を一瞥いちべつもせずに去っていく。


「ウフフ、もしかしたら食いしん坊同士意外と上手くいくかもしれないわよ? アッーハハハハハハ!」


 アルテラも人を馬鹿にしたような笑い声をあげて父王の後をついて出ていった。



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