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朧々一夜  作者: 菜箸
3/3

試験

こんな夢を見た。

私は汽車に揺られていて、朧げに車窓から飄々と流れる風景を見ていた。きめ細やかな春の雨が降っていて、雨というより靄というべきそれは汽車が走る都に乱立するビルジングを包み隠すように、覆っていた。私は恍惚としていた。車窓の先はモネの日の出であろうか、などと考えていた。愉快であった。やに判然としている俗界を曇らすこの景色は私の船漕ぎを加速させる一方であった。前を見ると、多少人があったが、無論眠気で視界が判然としなかったので、このまま眠ってしまおうと思った。

その時、空に稲妻が走った。


気づくと学校にいた。窓の外を見ると酷く雨が降っていた。先刻までの靄が固まって降ってきたような様であった。自分の体も濡れていたので、学校に向かう為に汽車に乗っていたことを思い出した。旋毛から足の先まで蒸し蒸しとする感じが至極不愉快であった。

先達てはすごい雨だったね、と隣の某君に話しかけると、こちらを一瞥して直ぐに視線を手元の本に移した。不思議に感じて、彼の本を見ると思い出した。今日は肝要な学術試験の日である。それに気づくと刹那の間に視界が晴れ、机に向かって勉学に励んでいる数多の級友が現れた。そこで、私は一切の勉強をしていないことにも気づいた。一度に不安に襲われた私は、また、隣の某君に、今日の科目はどんなものが出るんだい、と声を荒らげて聞いた。しかし、某君は私を一切気にとめていないようで、今度は見向きもしなかった。私はこれに腹を立てつつ、心臓の鼓動は速まるばかりであった。こうとなっては、誰も頼れんと思った私は、勢いよく鞄から、本を取り出して、勉強をし始めた。しかし、本に書いている内容はまったくの初見で、これはまた大いに狼狽した。それでも何とか覚えようと私は必死になった。試験までは四半時ほどあるらしい。よし、と意気込んで文面をかっと睨んだ。

しかし、文面の一文字一文字を綿密に読んでいても、内容が中々頭を通って入らない。桃の夭夭たるとは何だ。分からん箇所があると、それに苛立って、だんだん前のめりの姿勢になる。

前のめりになればなるほど、文面の喉を通る感触はするものの、味は全く感ぜられんことだ。じれったくなって、じっと座っているのが精一杯であった。身体の内に秘めたる大きな衝動を吐き出そうと焦れば焦るほど、その出口は細くなっていく残酷な様であった。そのうち、文面も歪み始めて、好い加減に座っていたようである。ところへ忽然、時計がカーンと軽快に鳴り始めた。

試験開始の合図である。

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