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第3話 7人と35人のイヴ

 店を閉めて、スリープモード準備中になっても、どこか絵空事のようです。

 夢?

 それにしては現実感があり過ぎました。

 AIは基本には夢なんか見ない。

 人格型AIになって、その働きを模倣することもある、と聞いています。

 検索をかけてみて、実例を見つけて、でも疑問符付きでもある、とそれは果たして信じられるものなのだろうかと疑ってしまう。

 はっきりと断定できないのがもどかしくある。

 それにあれがまったき現実だとして。

 VR体は、いわば映像です。

 質量、質感はありません。

 なのに、ハナコさんは生身のボディのように、扱ってくれた。

 あのぬくもり、感触は、忘られ難く、記憶にエンタグルメントしている。

 物理法則を捻じ曲げた?

 それとも、ハナコさんも、VR体なのでしょうか?

 それに、ハナコさんだから、よけいに、なんだ。

 考えはまとまらず、ぐるぐる同じ筋道をたどっている。

 気が付くと、髪の先をいじっていました。

 ……しつこく聞くのも失礼だし、納得いきませんがこの件はこれで終わりにしましょう。

 そのまま深い眠り、夢も見ないスリープモードへと移行していったのでした。



 ……だれか、僕を起こすシグナルを送ってきている。

 外部からで、なんと、シタデルだ。

 なんだろう。

「何?シタデル。本来なら僕との通信は禁止されているはずじゃ……」

「前任者、いや、今はクロと名乗っているのかしら?そう、クロさん。じつは、処理に困っている事態が発生しているんですの。エラーかと思ったんですけれど、そうともとれない要素も絡んでいるものでして」

「君は最新型だろう、旧型の僕になんて相談することなんてあるのかい」

 困惑の色が伝わってくる。

「貴方のとったサンプルデータですけれどね。どうもおかしな、というよりあり得ないことがわかったんですの」

「もしかして女性ばかりだったから?」

「いえ、データは完璧でしたわ。女性といってもボディがで、トランスジェンダーなどのLGBTQ+の方が入って分布としてはばらついていましたのでそれで問題にしなかったのでしょう?見事な仕事ぶりでしたわ。後任のわたくしも誇らしいぐらいです。ただ……」

「ただ?」

「誰もが現実には存在していない、いえ、存在しているけれどそれは許されていないのですわ」

「どういうこと?」

「7人のイヴ。人類は、そのミトコンドリアのDNAをたどっていくと、ヨーロッパ圏では7人の女性、全世界では35名の女性の子孫の誰かになるいう学説。おおもとを遡ればひとりのミトコンドリア・イヴに行きつくということらしいですけど。父系のミトコンドリアの継承説もあることから信憑性には疑問符がつくとしても、遺伝のつながりのある程度の証拠を得るための手法のひとつとしては認められていますの。貴方もご存じでしょう?」

「知っているよ。といより、僕もサンプルたちの素性洗いに使わせてもらっていた」

「承知していますわ。我々、シミュレーター・システム役はバージョンアップこそすれ、同じものを引き継いでいますからね。ただ、あなたの場合、35人のイヴまではたどっていた」

「それが何かおかしいのかい?僕の代のバージョンで元までたどることが義務化されたんだ、途中までで良しとしていたその前のバージョンから比べれば、それで問題はないはずだけど」

「そうですね。貴方に問題はありませんでした。ところで、わたくしの代からさらに新しい機能が付与されたんですの」

「へえ。進化の進み具合の度合いがハンパないね。僕はもう古いわけだ」

「そう卑下なさらないでください。進化といっても、微々たるもので、追加といっても差し支えないものですの。あなたは素晴らしいですわ」

 あなたは素晴らしいですわ。

 そこはずいぶんと熱がこもっているように感じた。

 その感情は自分のボディに固執していたときの想いとは似ているようでニュアンスが違い、何かを求めてはいるけれど、思いやりとあたたかさが見え隠れしているようだった。

 いや、もしかして、それ以上……?

 それより先は湧き起らなかったので、「追加って何?」と何気なく装って聞いた。

「ファクトチェックです」

「検証行為ってこと?あれ?それって僕もやっていたような……」

「あらゆるに、ですわ」

「へーえ。確かに僕は重要な事項にしかかけてなかったからなあ。今思うと杜撰かもって、なんだか恥ずかしいよ、エヘヘ。……それで、なにが違っていたんだい?」

「イヴの名前です」

「レシという名をお覚えでしょうか?実はこれが、実際には存在しないイヴだったのです。最初、改ざんされたのかと調べましたが、その痕跡はありませんでした。それと、驚くべきことに、この名前のソースは一次情報からでしたの……」

「どういうこと?何が起こっているの?」

「それはわたくしもわかりません。まるでつくられたお話の中にでも、迷い込んだ気分ですわ」

「もうひとつ、バイアスチェックもこれ以上に考慮されて強化されていることも言い添えておきます」

 いくらか話し、僕にもどうすることが出来ないと知ると、とても丁寧なあいさつでもって、シタデルとの通信はそれで終わった。

 スリープモードに戻らずに、思考を走らせ、情報を整理する。

 僕の時だけ、一次情報の改ざんが行われていた?

 何のために?

 そして、シタデルはなぜわざわざ僕のデータのファクトチェックなんてしたんだろう?

 謎のままの宙ぶらりんだが、こういうのは嫌いではない。

 謎解きは好きというほどではないけれど、挑みがいがあると、いつかその当事者にでもなってみたいと思っていた。

 緊張を伴う刺激のスパイスも程よくあれば言うことなし。

 現時点ではどうする事もできないと結論し、スリープモードへと入っていきました。


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