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光と残酷  作者: qumu
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脱出②

俺は今裸で廊下を歩いている。裸と言っても別に全裸とかではない。


「さすがに…これじゃあ…目立つよな」

あの首輪はかなりの電圧だった、前の世界のスタンガンどころの話ではない。

そして身体中から放電したせいで、首だけではなく全身火傷だらけだ。さらに放電の影響で服も穴だらけのボロボロ。


「よく…死ななかったよな俺…」


グリナスタにいたぶられた時も感じてはいたのだが、異世界に来たからか、それとも翼人になったからか、なんと言うか打たれ強くなっている気がする。

打たれ強くとは言っても痛いものは痛いし勿論走れる状態でもない、死に体を引きずりながら半裸で歩いていた。


現在俺がいるのは19階の廊下。


エレベーターは嫌な予感しかしないため、身体はかなり辛いが階段をよっこらしょと降りていった。19階の入口に差し掛かった時階下から声が聞こえてきたので慌ててこのフロアへ逃げ込んだのだ。


(追っ手は近い。あまり時間はないかもな)


聞き耳をたてながら慎重にフロアを探索する。


それにしても…

「あの子は無事に逃げれただろうか?」


さっき見たこの都市の街並みはかなり高度なものだった。国民の戸籍管理もそれなりにしっかりしてるだろう。


家に帰るとか言ってた…あの歳で何故軍人になったかはわからないけど、軍人ならここで逃げてもいずれまた…


自分が手助けできるのは例え命を掛けたとしても、精々ここから逃がすぐらいしかできなかった。仮に一緒に逃げたとしてもこの先も守れる力も自信もない…ってかあの子の方が絶対俺より強いと思うし、最後何故か見捨てられたし…でも怪しい人に付いていかないのはお利口な子だな…ははは。

力無く笑った。


首を突っ込んだ割に無力で無責任な自分に嫌気がする。変なネガティブ思考に陥り、悶々としながら廊下を進んだ。


(…それにしても職員が全く見当たらない。スウェイも今日はいなかったな)


知るよしもないが、幸いにも今日は休日だった。

建物内にいたのは研究に心血を注いでるメアとブラック勤務をさせられているグリナスタ、それと数人の警備兵ぐらいだろう。


「いたぞ!!おい貴様動くな!抵抗しなければ悪いようにはしない!」


にも関わらず俺はあっさり警備兵に見つかった。


そりゃ所々カメラあるし見つかるよねー、こんなペースだしまず上階に人が来るのは当たり前か。

ってかあいつらの所へ戻ったら確実に悪いようにされるんだよ…やだよ

などと心の中でぼやきつつも、抵抗しませんよとその場で腹這いになり、ひれ伏す俺。

そして…


復元(リバース)


5階下まで警備兵を落とした。


「はーい、お帰りはこちらです♪…ってこんなことしてる場合じゃないな…」


この様子だとすぐに新手が来るだろう。メアとグリナスタもいつセメントの中から這い出て来るかもわからない。あの二人相手に、いまの状態の俺では対処する手だてが少ない。

…まぁ生きていればの話だが。


(とにかく早くどこかで回復薬と羽織るものを見つけないと…)


昨日までの積み重なった傷も完全に治ってない中での更なる追加ダメージ、復元(リバース)も慣れてない状態で広範囲に使用したため、使った天力(ルフト)はかなりのものだった。

さらに追われながら気を張り詰め、周囲を警戒し移動している所為で体は緊張し続けている。正直疲労困憊だ。

意識が飛びそうな頭を振りながら前へと進んだ。


そして思わぬ部屋へとたどり着く。


 ”室長室(しつちょうしつ)”管理責任者『咲羽(さくば)メア』


□□□□□□□□□□


「失礼しまーす…」


室長なんだし何か有益なものがあるかも、と思いメアの自室に侵入した。扉には鍵がかかっていたが、復元(リバース)を使って鍵を壊し、室内に入って再度復元(リバース)で鍵を元通りに戻した。前の世界なら完全犯罪も可能だろう。

(めちゃ便利だわ復元(リバース)


室内は簡素ではあるが、それなりに整理整頓されている。ただあまり自宅へ帰らないのだろうか、部屋の一角にでかいベットと結構な量の私物があった。その一角だけは女の子らしさがある。

(あの辺下手に触ると後々なんかヤバいことになる気がする…)


他には本棚、薬品の置かれた棚、鉱石と何かのホルマリン漬けっぽいものが置かれた棚、そして少し大きめの金庫が鎮座していた。


本棚以外の棚は全てガラス戸が嵌まっていて鍵が付いている。

それを復元(リバース)で壊して物色する。


(どれも、回復薬じゃないな…)

鍵も付いているしそれなりに期待していたのだが、金庫を含めすべての棚を探しても回復薬は一つも見つからなかった。


「…ぐっぅ。そろそろ……ホントに…ヤバ…イ」

もういつ倒れてもおかしくない。


(仕方ない……あそこも探すしかないか)

ほぼ敵となった相手ではあるが、それでも女性のプライベートは極力荒らしたくはない。だが限界ギリギリだ、そこまで気を回せるほどの余裕もなかった。


クローゼットと冷蔵庫。


まずは無難に冷蔵庫を開ける。


…飲みかけのフルーツ・オレ、エネルギーバー、ワイン、芋焼酎2升瓶、チーズ、シュウマイのカラシ袋×9、寿司のガリ袋×27、寿司の醤油袋×3、寿司のワサビ袋×10、とろろ芋(半額)、冷えピタ、テレビのリモコン、マトリョーシカ、チョコパン、チョコドーナツ、チョコケーキチョコアイスチョコプリンチョコチョコチョコ……


パタン…

冷蔵庫を閉めた。

いるよ?そう言う人も。俺は理解力のある39歳だ。


なんか胃もたれまでしてきた…


次にクローゼットを開ける。


パタン…

閉めた。

いや、どうなんこれ。

俺は理解を捨てた。


人は誰でも他人に見られたくない趣味やあれとかこれとかあるものだ。でも職場に持ってくるなよ…


「うん、もうダメ…」

最後の希望も絶たれ、倒れこむ。


限界はもう過ぎた。このまま死んで、あとはメアに死体の解剖でもされるのだろう。


短い異世界人生だったが濃厚だった。もしかしたら、死んだらまた元の世界に帰れるかもしれない。


そう思いながら倒れたままベットの下に目をやる。


緑色の液体が入った瓶が一つ転がっていた。


巻かれたラベルには拙い文字でこう書かれている。


『☆はじめてのぽーしょん☆さく・めあ』


「………。」


俺は何も考えずその瓶を手に取ると無言で飲み干した。

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