廃棄翼人
誤って投稿をしてしまったため、何度か改稿と誤字脱字のチェックをしました。
話の内容は大きく変わっていませんが、主人公の保有知識に関わる追加内容です。
ご容赦くださいm(__)m
散々痛め付けられた日の翌日。
次の日も同じようにボコボコにされた。それが毎日続いた。
ボコボコにされた後は決まって翼人の能力発現の訓練、合間にまた殴られる。大体それの繰り返しだ。因みに能力訓練の成果は当然と言えば当然で、何度やっても俺には復元と収納しか使えなかった。
毎日ボコスカ殴られ蹴られ続け、最初は痛かったし悲観することもよくあった。逃走しようと試みもしたがあっさり見つかり、またボコボコにされる日々を繰り返す。死んだほうが楽だと何度も頭を過ぎったが、でもその度に家族の顔が思い浮かんで俺の弱い心を支えてくれた。
20日目。
なんだか殴られても大して痛くなくなってきたような気がする。人としての感覚が麻痺してきたのだろうか?とも思ったが、どうやら違うらしい、タフになってきたようだ。アザも少なくなった気がする。
グリナスタは相変わらず坦々と楽しくなさそうな顔で殴ってくるが、最近は俺が打たれ強くなって逃げ回る所為かやや疲労してるようにも見えた。
もし嫌々していることなら同情…は、まぁそれは絶対にないな。ボコボコにやり返そうと思う。
そんなことを考えれるくらいには余裕になってきた40日目。
その日、俺の目の前に立つグリナスタの手にはゴツゴツした金属の槌が握られていた。いわゆるモーニングスター的なやつだ。
「そ、それなにに使うんだよ…?」
なんとなくわかるが一応聞く。
「………」
聞かれたグリナスタは無言で近寄ってくる。
おいおいなんか言えよハゲ!と心のなかで叫びつつグリナスタからジリジリと距離を取る。
無言で近寄ってくるグリナスタ。顔はちっとも楽しくなさそうだが、それでもそれを使うのだろう。
俺はさすがにヤバいと思い、グリナスタに背を向け全力で逃げようとした。のだが…
「おいおい逃げちゃダメだよ」
スウェイの魔法らしきものが俺の右足を貫いた。
「ぐっあぁ…」
そのまま呻いて転びそうになる。踏ん張りが利かず前のめりに倒れかけたその右下から、
素早く俺の前まで移動してきたグリナスタの一撃が、下から上へ振り上げられた。
メシャッ!!
「ぎっっ!!!」
その振り上げをマトモに喰らった俺はろくに叫ぶことさえできずに、身体から嫌な音をたてながら吹っ飛ばされ地面に転がる。
身体の至る所から血を噴き出しながらも、俺は意識を失うことが無かった。
それは絶妙な力加減であり、且つ正確に急所を避けた卓越された一撃だった。
生かさず殺さず、ただただ痛ぶるためだけの一撃だった。
そして、
グシャッ
横たわる俺の左足は振り下ろされたグリナスタの槌で文字通りぺしゃんこになった。
「あ、あがぁぁぁぁあ!!!?」
俺はテンプレートのような絶叫を上げのたうち回る。
その日はポーション100本分。それを繰り返された。
41日目。
今日は何故か研究所の補修作業をやらされるらしい。
あ、あれ~なんで?どゆこと?
昨日まで激しい毎日だった。それなのにここにきて唐突な状況変化の所為で逆に不安になる。
急展開からのさらに急展開で混乱しそうだ。案外昨日の激しいやつは何か俺を解放する為の儀式だったのだろうか?
(いや、なんでだ?わからん。考えてもわからんし、とりあえず痛い思いしないなら甘んじて受けよう。)
今日の予定を聞かされてからずっと考え続けていたが結局何もわからない。俺は思考を停止させた。
案外ただいいように使われただけだったのかもしれない。
エレベーターに乗りボタンが押される。
乗り込んだときに表示されていた階数はB-3、地下3階だった。
今までは自室と拷問部屋(俺がそう思ってる)、講義をした部屋にしか行ったことがなかった。全て同じフロアにあり、窓もなかったのである程度予想はしていた。
(やっぱりあそこは地下だったんだな)
拷問を行うような場所だ。外に叫び声が漏れるのは、やはりよろしくないのだろう。故に今までずっと地下だった。
(世界が変わっても、人から見られたくないものはやっぱり地下に押し込むものなんだな)
エレベーターが開き窓のある通路へと出ると、そこに広がっている光景に目を見開く。
俺は異世界にきて今日初めて外を見た。
「すごいな…思っていた以上にデカイ街だ…」
外に広がるのは正に都市そのものだ。前の世界よりも発展しているように見える。
背の高い建造物、整理された区画、広い道路、行き交う車両と人々。
よく見ると車にはタイヤが付いていない。
「浮いてるのか?」
まるでSFだ。
魔法と言う、前の世界にはなかった法則を上手く社会に取り入れているのだろうか?
王国って言ってたからなんかもっとファンタジーなんだと勝手に想像していた。見慣れた光景に近くてがっかりでもあり、少しホッともする。
「やっぱりなんか異世界に来た感じがしないな…」
1人そう感想を漏らした。
ここは20階、エレベーターのボタンから推察するに最上階のフロアのようだ。
「あっちだ」
窓から見える都市を立ち止まって眺めていると、唐突にグイッと襟首を引っ張られる。
同伴するのはエグリ…ではなくグリナスタだ。
「あ、ああ…」
俺はビビっているのを隠しながら返事を返す。
(こわっ!やっぱりこわいよ!よりによって何でこの人やねん!ゆっくり景色も楽しめんわ!)
昨日のこともあり俺はスッカリグリナスタに怯えていた。
グリナスタの容姿は簡単に言えば、ガチムチスキン色黒グラサンである。高級クラブの用心棒とかやってそうな感じだ。
(威圧感ぱねぇよ!振り向き様に殴ったりしないよな?)
初日から昨日までの間散々いたぶられてきたのだ。しかも暴力のバージョンアップが昨日だ。記憶も濃いままなのだ。
そんなガチムチと行動を共にしているのに、平常心を保てと言う方が酷だろう。察してほしい。
ともあれ今日はグリナスタ付き添いのもと能力を使う許可が出ている。
「…リ、復元」
俺は床のタイルのヒビに手を当て唱えた。ペキペキパキパキと音をたてながらヒビ割れた床のタイルが修復されていく。
ヒビは完全になくなり、心なしか周りよりも輝きが増した気がする。
いつ見ても不思議な力だ。
メアから話は聞いていたし、ここへ来てから毎日恥ずかしい呪文を言いながら何度も使った力。
結局使えた能力はこの復元と収納の2つだけだった。
(能力4つ使えるって話は、まぁ俺みたいな凡人はこの程度が関の山か…)
少しがっかりしたものの、2つとは言え魔法はもちろん特殊能力などない世界から来た俺にとって異能力が使える事はやっぱりちょっと嬉しい。
(子持ちのアラフォーでも童心に帰ると言うか。やっぱり俺も男の子だったわけだ)
などとグリナスタのことも忘れ意味不明な悦に入り、廊下の角を曲がった直後。
「ごほぉあ!!」
俺は正面から来た何かに吹っ飛ばされた。
盛大に10メートルほど吹っ飛ばされ、廊下の奥に積み上がっていた段ボールの山に突っ込む。
「あたた、一体なんだ?」
痛む頭を押さえ周囲を確認すると横倒しになった段ボールに埋まっていた。そのお陰か幸い怪我はしてないが、治りきっていないアザに響いてあちこち痛い。
段ボール箱の中に入っていたのだろう巻かれた羊皮紙が散乱している。
俺はふと手元に転がっている羊皮紙の中で一番小さなものを手に取った、そして巻かれたラベルの文字を見る。
「……」
少し考えた後、俺はその羊皮紙をサッと胸元へと隠した。
「それにしても一体何だったんだ」
俺は段ボール箱に埋もれながら隙間から事故現場の方を覗き込んだ。
そこには…
「知らないっ!聞いてないよこんなことっ!お家に返してっ!!」
泣き叫び、何かを言っている赤髪の翼人の少女とグリナスタが対峙していた。
「あれは…。もしかしてこの前言ってた廃棄翼人か…な??」
少女は軍服のようなジャケットを羽織っている。よく見ると翼は片翼しかない。欠損しているのだろう、もう片方は翼の根元辺りまでしか無く包帯が巻かれていて、出血が酷いのかそこから血が滲み滴り落ちている。
それにしても、
「ちょっと若すぎじゃ…?」
年の頃12歳前後といったところだろう。少しあどけなさが残る、程度ではない。あどけなさしかない少女だ。
「それに…なんとなく…うちの子に…」
一瞬どことなく自分の子供の面影と重なった、がここは異世界なのだ。あり得ないと言葉を飲み込む。
それにまだ軍人と確定したわけではない。さすがにあの見た目では違うだろうと思いたい。
しかし、
「あ、いたいた~!んもうっ、まだ話し終わってないわよー!軍人なら命令を守ってもらわないと困るわ。契約書もあるのよ」
血相を変えたメアがやってきて、信じたくなかった答えを教えてくれた。
「つっ!ほっといてよ!私帰るから!」
そう叫ぶと少女は残っている片方の翼を大きく広げ、臨戦態勢をとるように身構えた。
メアは面倒臭そうに溜め息を付き、グリナスタを見て一言。
「死なない程度なら治せるから、この子大人しくさせてちょうだい」と軽く言い放った。
「…はい」
言われたグリナスタは一瞬動揺したようにも見えたが構えを取りジリジリと少女へと詰め寄っていく。
少女はまるで猫が毛を逆立てるが如く、片翼を広げ威嚇するように対峙しているが、本調子ではないのか顔が真っ青だ。汗も大量にかいているようだ。
俺は自分以外の翼人を初めて見た、もちろん翼が大きく変形するのも初めて見たし、少女からはきっと翼人として学ぶことも多いだろう。
だが、そんなことはどうでもいい。
あり得ない。あんな年端も行かない子供が軍人だって?
軍人とは国を守り、敵を攻め、人を殺す仕事だ。
それをあの女の子にやらせてるのか?
この国の軍がどう言うものかはわからない、翼人の扱いもわからない、状況もわからない。だけど、
何度も言うが俺は本来なら39歳、既婚者で子持ち。娘は今年5歳の年長組だ。
自分の子供よりは大きいが、まだまだ子供だ。子を持つ親として絶句し、驚愕し、怒りを抱いた。きっと面影が重なった所為もあったのかもしれない。
あの小さな少女を守らねばと強く思った。
だからこれは仕方のない行動だ。
俺は段ボールの中から跳ねるように飛び起き、グリナスタから庇うように少女の前に躍り出た。
それを見たメアは初め目を丸くして驚いたような顔をした後、一変面白いものでも見つけたような顔で、ニヤニヤと見ながら俺に聞いてくる。
「あらら~モルモルちゃん、どういうつもりかしら?あれだけ痛ぶってあげてるのにまだ足りないの?」
「はっ、頭のおかしい下衆女に、いちいち説明してもわからんだろ」
吐き捨てる。
メアの顔からニヤケが消え、今度は氷のような冷たい眼差しを向けてきた。
背後の少女をチラリと見やると、警戒はしているものの目を合わせて頷いてくれた。よく見ると少女の体は震えていた。きっと心細かったんだろう。
「大丈夫。君の味方だ」
俺は安心させるためにそう言って笑って見せた。
さて、どうしようか