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光と残酷  作者: qumu
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『黒龍の墓場』攻防戦 アトラ



『黒龍の墓場』元拠点から300m地点

━━━━その上空。



激しい剣撃の音が響く。


「シッ!!」

天崩刀(てんびょうとう)を手に握り、アトラは短く一声を発した。


その握られた漆黒の刀から繰り出される美しい連撃は風を切り敵を追い攻め立てる。


バンジャルはその猛攻に対し防戦一方になっていた。


「くっそ!なんつーイカれた剣速だ!しかも片手なのになんて馬鹿力だよっ!ったく!!」

悪態を吐きつつも迫る切っ先を辛うじて躱し距離を取る。


重力を無効化されたとて、アトラの武器は何もそれ一つではない。この凄まじい剣撃は積み重ねてきた日々の鍛練の成果であり、アトラの実力なのだ。


バンジャルは迫る刀身へと意識を集中する。振り切った瞬間を見極め、カウンターでの一撃を狙った。しかし


「はっ!」

「おわっ!!」

唐突に軌道が変わり、アトラの刺突が目を貫かんと迫る。体をのけ反りながら再度回避するも、切っ先がこめかみをかすめ血が噴き出した。落ちるように間合いから逃げる。


血が滴り落ちるが気にする余裕はない。


(おい!誰だよ!手をかざして能力使うだけの傲慢姫様って言った野郎わっ!!そこら辺の師範やってる剣士よりつぇーぞこりゃ)


バンジャルは知らない風を装っていたが、アトラの情報は聖アルケレトスに潜伏している間者経由で既に知っていた。王国暗部と第五生態研究所との情報も合わせて、仮面の翼人がアトラであることはとっくに調べがついていた。


(事前に情報仕入れて、反重力(アンチグラビティ)装甲の魔導鎧まで用意したってのにっ!糞が!)

簡単に勝てるとは思っていなかったが、想像以上のアトラ実力に、この場にいない相手へ心の中で文句を叫んだ。


アトラは四歳の頃から今日まで毎日剣を振り続けている。己が信念のため家のため、高みに至らんと研鑽を積み重ねてきた。さらに天眼『緑煌眼』の所持者でもある。最早その辺の剣士など相手にはならない。たとえアトラが慢心しようがしまいがそれが現実だ。

故に剣術は使う相手を選んで使っていた。

雑魚相手には纏めて処理ができる「under G ----」が効率がよく、普段はこれに頼りっぱなしだった。アトラからすれば適材適所の感覚であり、敢えて刀を抜かない自分も誇らしかった。決してズボラだからではないのだ。

が、一流の剣術をあえて使わず天力(ルフト)を連発した結果、グラビティの知名度だけが先行し「血花姫」などと呼ばれることとなった。


ここまで剣術が優れていたなどバンジャルに取っては寝耳に水だ。しかし情報が違っていたからと逃げ帰ることはできない。

既に特別報酬は前払い済。この報酬を酒と女に使うには生きて帰らなければならない。

バンジャルはすぐさま次のカードを切った。

「んじゃあ!これはどうよ!」

バンジャルの持つ剣が激しく発光し、青白く放電する。


雷属性の剣に、更に自身が得意とする雷属性の魔力を乗せ、魔導鎧の効果を使ってブーストを掛けた。

蓄えられたその威力は最上級魔法に匹敵するレベルにまで達している。


バチバチと激しい放電音を鳴らす剣を握りながらバンジャルは空を翔けた。

この技は剣への負担が大きい。直ぐに剣が限界を迎える。勝負は早めに付けたい。


勢い良く飛び出し、斬りかかると思いきや、バンジャルはその剣をアトラへと投擲した。




□■□■□■□■□■□■□■□■□




(投擲?)


アトラはその行動をいぶかしんだ。

少ない時間だが互いに剣を交え、バンジャルと言う男は慎重で機転の利く男だとアトラはそう思っている。そんな男がここに来て武器を捨てる。

違和感しかない。


緑煌眼(りっこうがん)を発動させ、全ての眼を使い、投擲された武器を観察する。


(弾くか、それとも避けるか…)

観察しても雷を纏った剣と言うこと以外特別なことはない。

それなりに速い速度の投擲ではあったが、アトラはそれを余裕で避けた。


剣はそのままアトラを素通りしていき。


『バリリリィ!!!』


直後、激しい放電とともに爆発飛散した。


「!?」


剣の破片はアトラのグラビティアーマーをものともせず、その白い肌へと到達する。

肉を切り裂き、めり込む。更に強力な電撃が体を駆けた。


「あぐぅっ!」


激痛と電撃からの痺れによりアトラは滞空出来ず墜ちる。


またも油断。

メアの時も相手の力を見誤り、油断したが故に深手を追った。

今回も同じだ。

メアよりも弱い相手だと思い込んでいた。奥の手が鎧のアンチグラビティだけだと勝手に決めつけていた。雷を付与した剣を投擲しただけだと…違和感があったのに、見抜けなかった。


(ホントに未熟者でバカだ私は…)


だが今は反省している時間はない。

地面が迫る。


痺れはまだあるが、全く動かない程ではない。手を突き出し重力を反転させようとした。が

「な、天力(ルフト)が!?」


天力(ルフト)が上手く発動しない。

「ぐぅぅぅ…!」

辛うじて、絞り出すようにグラビティを発動させる。


ドン、ドサッ

「がはっ!ぐっ…う…」

勢いは少し殺せたものの、それなりの衝撃で左肩を痛めた。この戦いではもう使えそうもない。


だが今は痛がっている場合ではない。直ぐに起き上がって敵へ対処しないと。

そう思い、僅かに残る痺れに耐えながらも無事な右手で体を起こす。



ザシュッ

「わ?」


途中まで起き上がった体がぐらりと横へ倒れる。


ドサッ


横になりながら右手を見ると、さっきまでそこにあったはずのものが失くなっていた。

斬られたのだ、見て直ぐに理解した。


「あ、ああああぁー!!」


叫んだのは痛いからではない。

刀を握れない、その絶望からだった。あまりの不甲斐なさに自分に失望する。

(本当になんて様だ!!こんなことで私は…このままではお祖父様と父上に顔向けできない)


だが叫んだお陰で少し冷静にもなれた。気力を振り絞る。


「よぅ姫様、どうだったよ地面とのキスの味は?」


自分の右腕を切り落とした相手。

声の主へと目を向ける。


「………」

アトラは問いに応じずバンジャルを睨んだ。


「おお、怖っ。美人にそんな目で睨まれるとさすがの俺も滅入るぜ。笑ってくれよ、なぁ姫様」


そう茶化しながら近付いてきたバンジャルは、アトラの髪の毛を鷲掴みして顔を持ち上げる。


天力(ルフト)の力が出なくて焦っただろ?あの剣の欠片、一つでも体内に入れば翼人の天力(ルフト)発現を不安定にできるらしいぜ?」


(なるほど、翼人には非常に悪い情報だ。これは必ず国へ報告しないとな)

朦朧としながらもそんな事を考える。


「因みに剣が爆発したのはたまたまじゃないぜ?あんたに近付くと爆発する仕組みだ。あんたが剣撃を繰り出してる時に、仕込みも完了済みだったわけだ」

そう言いながらクックックと笑うバンジャル。

そしてマジマジと顔を覗き込んできた。


「それにしてもいやはや、ホント美人だわ~、あいつに渡さず俺が持って帰りてぇぜ。あいつも顔はいいんだけどやらせてくれねぇし。まぁこの辺でやる分には問題ないだろ、なぁ姫様ちょっと俺と楽しもうぜ?まずはチューだチュー」

「………」

バンジャルは下卑た笑みを浮かべ、目の前で舌舐めずりをした。


……普通に気持ちが悪い。

こんな奴とキスをするつもりも、犯されるつもりも、捕まるつもりもない。


「はっ…」

アトラは短く息を吐く。

天力(ルフト)はまだ発現しにくいが、必要な分は捻り出せそうだ。


息を漏らしたアトラを見て、バンジャルは観念したと思ったのかニヤニヤしながら顔を近付けてきた。どうやら本当にキスをするつもりらしい。


唇と唇がふれ合う、その直前。


固有武器創造(クリエーション)and forward G end」


バンジャルの顔は、下唇より上が跳ね飛んだ。




□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□



アトラは顔の半分が失くなったバンジャルの後方、数メートル先で天崩刀(てんびょうとう)を口に咥え転がっていた。


天力(ルフト)グラビティを全開で使用しても、たったの数メートルしか移動できなかった。

だが殺すのにはそれで十分だったろう。バンジャルはちゃんと死んでくれたのだから。


「死んどけ(うじ)

振り向き、動かなくなった男を蔑んだ目で見ながら、ポツリと吐き捨てる。


痛む体を何とか起こし、天崩刀(てんびょうとう)を消す。消した刀の代わりに、今度は切られた自身の右腕を口に咥えた。かなり猟奇的な絵面だが手が使えないのだから仕方ない。

周辺を見回す。船はもう移動してしまったようだ。

見失ったかと肩を落とすも、今の自分では何もできないのだ。逆に近くに居られても困るな、と考えを切り替えた。


「………ふぁ、しははない、ぐでしになほしてもらおう」


腕をはむはむと咥えながら、キューロの元へとゆっくりと歩を進める。

(どうか死んでいてくれるなよ…)

そう思いながら。



血花姫アトラと特殊工作員ハグレ部隊隊長バンジャルの戦いはアトラの辛勝で幕を下ろした。




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