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光と残酷  作者: qumu
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咲羽メア



少年となった男の顔面に膝蹴りをした女。咲羽メアはアースシュミラ王国、第五生態研究所第一研究室室長という肩書を持つ。


年齢は24歳、文武両道と誰もが羨む存在であり、歩けば男女問わず散歩中の犬ですら振り向くほどの眉目秀麗さである。そしてメアはそれを自覚している。


大学卒業後、第五生態研究所に配属されて僅か5年で室長まで登り詰めたのは、メアの才能と実力の賜物と言える。そこに色仕掛けがあったか無かったかは本人のみぞ知るところだろうが…今のところ関わって死んだ人間は両手で数えられる程度で収まっている、メアにとってはまだ慎ましいと言って差し障りなかった。

この分野で相手になるような人間は、恩師と呼べる一人だけだ。


そんな才覚に満ちた子供を持った両親はメアが4歳の時、翼人からの襲撃を受け死んだ。

その襲撃で航空戦艦が1隻、航空護衛機3機が落とされ、ものの数分で237人の人間が死んだ。

生存者はたったの3人、メアはその生存者の1人だった。


メアの母親は翼人研究者の第一人者であり、その異常な研究愛は留まることを知らない女だった。

嬉々としてあらゆる手段で翼人を殺し解剖し、その死体と眠り朝食を共にし、その臓物を愛でながらティータイムを過ごす程度には彼らに執心していた。 

そのくせ臆病で研究以外凡人だった母親は、誰よりも先に翼人に首をねじ切られあっさり殺された。


発端はメアのいるアースシュミラ王国と隣国である聖アルケレトス教会国が領有権を主張するとある島で両国の小競り合いの最中、王国の調査団が島へ乗り込んだことで起きた。

無許可で乗り込んだ調査団に対し、翼人達は抗議を伝えにきただけだった。そのはずだった。ただそこにメアの母親が居合わせていたことで数人の翼人が発狂、暴走した結果、虐殺へと繋がったのだ。


最初に暴走しメアの母親を殺した翼人は、自身の子供を剥製にされた挙句、王国の博物館に飾られていた。その子供の父親だった。

王国に潜伏していた聖アルケレトス教会国の間者からその内容を聞かされた男は絶望した。しかし怒りこそすれ、残った家族のため日々堪え続け、教会国の職務に没頭していた。しかしメアの母親を見た瞬間、男は狂喜乱舞して我を失なった。


仕方のないことだろう子供の剥製を作ったのは勿論メアの母親であり、教会国では周知の事実であったのだから。

母親が件の島に行こうとしなければ、このような惨事は起こらなかったかもしれないが。 


そして軍人でその場にたまたま護衛で居合わせただけの父親は、妻を殺されても顔色一つ変えない軍人前とした威厳のある堅物だったが、ただの一撃で膝を着いて最後は女のような悲鳴を上げながらあっさりと死んだ。


生き残ったのは親たちの都合で同伴していたメアを含めた子供3名だけ。翼人の男も子供に罪はないと思える程度の情が残っていたのかもしれない。


家にはあまり居着かない両親だったし、愛情らしいものも感じたこともなければ、当然親子の思い出もほとんどなかった。だからメアは全く悲しくはなかった。

むしろ孤児となって施設に入ったお陰で遊び相手が増えて嬉しかったし、何より大切な恩師とも出会えたのだから、メア自身襲撃した翼人に感謝すらしている。


そして親を含めた大量を見せられたメアは、翼人と言う種族に母と同じように強く興味を持つこととなった。


戦艦をたった一人で撃墜できる力、他の種族とは根本から違うその異質な能力に強く興味をそそられた、ときめいた。彼ら翼人の細胞一つに至るまで、全て知り尽くしたいと心から望んだのだ。


孤児院を出てからは常に翼人の生態や能力について調べ、日々情報集めと考察に没頭しはじめる。

並行し普段の学業も卒無くこなせたのはメアの才能ゆえだろう。そのまま順調に進学し、大学生になる頃には翼人(よくじん)の生態と能力に関する論文を幾つか発表し称号も得れるほどメアの翼人熱は高ぶっていた。しかし学生の身分では研究できる規模が限られていたことと、何より翼人の国『聖アルケレトス教会国』との国交正常化条約が研究への足枷となり、学生時代の終わりには悶々と燻る日々を送ることとなった。


ここ王国にも多くの翼人種が生活を送っている。

一度、大学生の頃に身元不明の翼人遺体を解剖をさせてもらえないかと国に掛け合ってみた。しかし即刻却下された挙句、周囲からも道徳やら倫理だの神罰が落ちるなどと色々と責められる結果で終わった。


翼人は説明のつかない事があまりに多い、多すぎる。


彼らのその能力を解明し再現し、実用化することができれば国どころか世界を豊かにすることも夢ではないだろう。だから国のその返答と周囲の反応に本当にバカばっかりね。とメアは呆れた。

 

そんな最中メアに転機が訪れる。

第五生態研究所から翼人研究をしてほしいと大学にスカウトがきた。もちろんメア個人にである。

生態研究所。その研究内容は表向きはまるで慈善団体のようにまともで、メアも就職先として候補には入れていたものの、ボランティアの様な活動内容に興味を湧くことがなかった、大それた研究や実験などできない組織だと思っていた。

ましてや国交正常化を行ってからまだ日が浅く彼の国の目も厳しい。

だから研究を諦め、恩師が部隊を纏める特殊工作部隊へ進路を決めようとしていたのだが。

生態研究所では国主導のもと裏で非人道的な実験や、罪人などに限りだが生きたままの解剖も行っていることを聞かされメアは面食らった。

なるほどこれまで無駄な時間を過ごしたわと一人嘆息する。

メアは既に内定が決まっていた暗部への配属を蹴り、第五生態研究所へと就職をした。そしてその手腕を発揮し瞬く間に室長まで上り詰めた。

 



□□□□□□□□□□



 

今日は先日捕獲したモルモットちゃんとのお勉強。

別に色々教える必要もないけれど、まぁなにもわからないのも可哀想よね。とただの暇つぶしに理由をつけ一人納得する、と前日まで拷問していた相手へと視線を向けた。


メアは赤く縁取った眼鏡を軽く持ち上げながら口を開く。


「それじゃあ、何もわかんないモルモットちゃんに私が講義してあげるわね、ありがたくお聞きなさい」


「…」


高らかと宣言しメアの講義が始まった。



□□□□□□□□□□



「自己紹介は既にしたけれど初日から色々あったもんねぇ?もう一度名乗ってあげるわ。私の名前は咲羽メア。ここ第5研究所第一研究室室長をしている咲羽メアよ。あなたのご主人様にあたるのだからメア様って呼びなさい」


モルモットちゃんとの付き合いは今日でまだ3日目だが、入所手続きやらなんやらで忙しかった為再度名乗りをあげつつ、そしてじゃあ始めるわねと話を進めた。


「生態研究所はアースシュミラ王国お抱えの6つの生態研究機関の集まりよ。ここ第五生態研究所もそれに属しているわ。ちなみに生態研究以外の研究機関もあるのだけど、ま、それは今回関係ないから機会があればまた教えてあげるわ」


「…」


相手は何の反応もない。とは言っても椅子にくくりつけられ猿ぐつわもされているのだからそれも仕方のないことだがメアは気にせず続ける。


「第一研究所は”人種”の研究ね、つまり私たち人間が主な研究対象としている機関よ。第一では人の魔力発生原理や魔力性質変化などの研究と、生態研究所とは別の機関、魔研や装備研、軍部とかとも連携して研究してる所ね。

軍部が絡んで機密が多いから、ちょっと調子に乗っててムカつくけど、まぁその気になれば情報は集められるし別にいいわ。そのうちコンタクトをとって共同研究する必要もあるから、モルモット…もうモルモルでいいわね、モルモルちゃんも覚えときなさい」


「…」


「 第二、第三生態研究所は”魔物”ね。何故2つの研究所かというと、魔物はとにかく数が多いの、王国だけで1万種弱の魔物が確認されていて新種はまだまだいるらしいわ。人類にとって危険でキモい存在ではあるんだけど人類にとって有益でもあるの。魔物は体内に魔石を保有していて、強い魔物ほど魔力量の多い魔石を持っているわ。

魔石から出る魔力は生活に欠かせないモノ、王国だけじゃなく世界中で必要とされるエネルギー資源の一つになっているし、魔物の素材はあらゆる加工品に使用されているの。

彼らは危険な存在であるけれど、世界の恵みと発展に必要不可欠な存在といったところね。

第二第三研究所の連中は、生態の研究だけじゃなくて、素材の開発や転用研究とか、さらには魔物のクローンを作って魔石を人工的に生み出す実験も行ってるわ。ホント羨ましい。うちも翼人のクローンとか作りたいのにズルいと思わない?あの国をどうにかさえできればこんなコソコソしなくても済むのに…」


「…」


反応はない。“あの国”とも関係はないのだろう、それについては既に調べはついた。 はぁ…まぁモルモルちゃんには関係ないわねと呟き講義を続ける。


「第四研究所は”亜人”と”魔人”についての研究よ。外見的特徴は多岐に分かれるわ、人種と近くて二足歩行ではあるけど角が生えてたり獣耳が生えてたり、毛深かったり肌の色が違ってたり、とまぁ種族ごとに様々な特徴があるわ。人と比べてもわかんない亜人もいるから取り調べる際は携行型のスキャナーが必要なのよ、正直ここも研究所増やしたほうがいいと思うのだけれど、こちらに降りる予算が減るのも困るし、今後も貧乏研究所として頑張ってほしいところね。

あーでも共同研究したい話があるのよね〜研究予算の増額を王国に推薦してあげるって餌ぶら下げてみようかしら」


「…」


それにしても無反応な子だわ、私の講義を受けれることがどれだけ史上の誉れなのか分かってないようね。


モルモルちゃんには後で躾が必要かしらと考えながら再度眼鏡を持ち上げる。


そしてここからが本日の一番の目玉だと気合を入れた。


「そしてお待ちかねここ、第五研究所。ここでは”翼人”を研究しているわ、私の生涯のテーマであり世界の夜明けとなる場所よ!」


つい力んで声が上ずってしまうが仕方のないことだろう。メアにとって翼人研究は人生であり使命なのだ。


「外見的特徴は人種と全然かわらないけど、種族名にもあるように翼が生えてるところが一番の特徴よ。ただ翼は拡縮可能だから小さくすれば人種と見分けもつかないわ。

勿論翼は飛行の能力が付与されているんだけれど、鳥みたいに翼を羽ばたかせる必要がないわ。かと言って翼は飾りではなくて固有の能力が他にもあるのだけれど、まぁそれは後で教えてあげる」

 

翼人の話をすると気持ちが高ぶってしまいつい早口になってしまった。

息を整える。


 「ふぅ…そして彼らは人種や魔人、魔物が使う魔力がない代わりに『天力(ルフト)』という力を持っているの。

まず前提として天力(ルフト)はこの世界にある魔力とは全く異なる力と言うこと。能力や属性と例えるほうが分かりやすいかもしれないわね。その理由はこの天力(ルフト)、魔力と違って限られた力しか使えないわ。

どういうことかって言うとね。風の天力(ルフト)を持って生まれた翼人は一生風の能力しか使えないの。他の属性は使えないってことね。

普通、人や魔物は体内の魔力を放出する際に魔力の練り方とイメージで属性を変えることができるわ。やろうと思えば火・水・風・土の基本属性はもちろん他の特殊属性も時間を掛けて頑張ればなんとかって感じにね、まぁ相性があるから必ずって訳じゃないけど」


指を3本立て、小さい火の玉と水の玉、石の玉をそれぞれの指先から出して見せた。


「魔法は頑張れば他属性が使える、対して天力は生まれ持った属性しか使えないってことよ。」


「…」


「じゃあ翼人ってなにが凄いのかって?話ではあるんだけど、まぁちゃんと教えてあげるから聞いていなさい。そして私に感謝しながら敬いなさい」


私は自分のことのようにフフンと得意気に鼻をならした。


「さっき教えたのは天力(ルフト)の『属性』についてね、これがまず一つ。


次に翼人の翼には固有の能力があるって言ったでしょ、それが二つ目の能力『収納(ストレージ)』よ。

これは翼の羽一枚一枚に物を収納することができる能力よ、収納できる大きさは個人差があるけど羽1枚につき約自動車一台分ほど収納可能なの。

それが羽の枚数だけなんだから一人で引っ越し業者ができちゃうレベルね。そのせいか知らないけど翼人はズボラで片付けが下手な者が多いっていう研究データもあるのよ。面白いでしょ?

魔法にも空間収納は存在するし、魔道具もあるにはあるけれど、魔力コスパが悪すぎて長時間収納するにはかなりのコストが掛かるの。しかも収納できる大きさは最大でも3立法メートルほどなんだから、翼人の空間収納がどれだけ有用なものかわかると思うわ」

 一息つく。


「次に復元の能力『復元(リバース)』ね。魔法にも怪我を癒す『ヒール』があるにはあるけど、翼人のソレと比べるとまるでお遊戯レベルね。

魔法の『ヒール』と違って、彼らが使う『復元(リバース)』は怪我だけじゃなくて病気にも効果があるし、それどころか()()()()()()()()()()と言った非常識な能力なのよ」

まぁ死んだ生き物は生き返らせないし、自分自身に使用できないし、個人差で得意不得意があるけれどね。と付け加えた。


「そして最後の3つめが『固有武器想像(クリエーション)』ね。

翼人の能力の中でも、コレが一番異質かもしれないわ」


そう、彼ら翼人は魔法とは違う力を使う。ただここまでなら人の魔法も翼人のルフトもできることはそんなに変わらない。

魔法を使えば空も飛べる。物を空間に収納できる。傷も癒せる。

決定的に違うとすれば『固有武器想像クリエーション』これなのだ。


「彼ら翼人は、なにもないところから物質を創造することができるわ。物質と言っても一種類だけの武器限定だけど、それが可能なのは翼人種だけ」


”無から有は作り出せない”


魔法のある世界であったとしても、その法則は大きな課題だ。水魔法や土魔法といった物質系の魔法も、大気中の水分や周囲に地面があることが基本的な使用条件となっている。

一応魔力を直接物質変換することも可能ではあるが、使用する魔力の量に対して生成できるのはごく少量であり実用できる者は極少数の者だけだ。そしてこの極少数が曲者だったりもする。


「昔の研究者は『収納(ストレージ)』の中に武器を隠し持っているだけではないか?と疑念を持ち、翼人を赤子から軟禁し育て14歳になるまで観察をしたそうよ。しかしある日、突然その翼人の子供が『固有武器想像(クリエーション)』で銃を発現したの。勿論育て上げた11年の間に銃を持たせたことも実物を見せたことは一度もなかったわ。そして仮説は否定されたのよ。

それから幾年もの間研究者達は実験と観察を繰り返し、多くの翼人達と共に人生を歩んできたの」


そこまで話して一度言葉を切る。掛けていた眼鏡を外し、今まで講義を受けていた者の前までゆっくり歩みを進めた。


メアはその者の顎をくいっと持ち上げ、その顔を暗い瞳で覗き込みながら言う。


「勿論あなたも私と共に歩んでくれるわよね?モルモル…いえ、()()()()()()()()()()()? うふふふ…」



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