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光と残酷  作者: qumu
14/49

異世界の異国の人

その頭突きは早かった。


「ふぶぅっ!!?」


美人と肌と肌が触れあうと言えば聞えはいいだろう。男であれば皆喜ぶに違いない。だが…黒髪美女の頭突きは額を砕く勢いでぶつかり、俺はぐいんと仰け反りながら1mほど吹っ飛んだ。


よもや美女のファーストコミュニケーションが頭突きなどと誰が予想できようか。


俺はソコソコ石頭である自信があったが、それは慢心だと思い知る。意識こそ飛びはしなかったが一瞬星が見えたような気がした。


腫れて痛む額を押さえつつ起き上がりながら、恐る恐る黒髪の美女を見る。と、女は額を押さえ、プルプル震えうずくまっていた。

━━勝った。俺は少しだけ自分が石頭である自信を取り戻した。

いや、そういう話じゃない。


せっかく怪我を治して助けようとしてるのになにしてくれとるんじゃい!

…そう言いたいのをグッとこらえて黒髪の女へと声をかける。


「急に上から落ちてきて、怪我をしてるみたいだったから━━━、えーっと…その、治療を?」

そう言い、右手に復元(リバース)を発現させ見せる。


突然頭突きはされたが、向こうも寝起きで知らない男が目の前にいたのだ。混乱していたのかもしれない。なにせ今回は負けていない、痛み分けだ。


それにしても美人と話すのはちょっと緊張する。既婚でもする。


しかし、

呼びかけたのにも関わらず黒髪の美女は無言だ。


かなり警戒してるのか、こちらを怪訝な表情で観察するように見ている。


「あのー…」

居心地の悪さを感じながらも再度声をかけてみたのだが。


「『緑煌眼(りっこうがん)』」

黒髪の女が何かを呟く。


「!?」


そして黒髪の女の目は薄く緑色に輝いていた。


□□□□□□□□□□


黒髪の女は何も言わず、動かず、ただその光る緑色の瞳でこちらを見ている。


目が光ると言えば研究所にいたスウェイもそうだった。彼は看破系の魔眼を持っている。と、思う。たぶん…確信はない。


(スウェイは魔眼使う時、目が紫色に輝いていたよな、色で役割が変わったりするのだろうか?

ん?ってか待てよ、この女の人、翼生えてるし翼人だよな…あれ?翼人って魔力無いから魔眼も使えないのでは?

もしかしたらこれは魔眼じゃないのかもしれん)


とは言え、声を掛けているのにも関わらずこの反応。

ひたすらに居心地が悪い、だが俺は下手に動くことはしない。


俺に異世界の常識など無い。さもすれば普通に会話をしたやつすらいない。この状況下で下手に動けば、また研究所のように命の危機に合うかもしれない。もう同じ轍を踏まない。俺は社会性のある39歳だ。

研究所の奴らといい、さっきの道路での件といい、俺から見てこの世界の人間はみんな頭のヤバイ奴らだと認識したほうがいい。


などと偏見思考していたが、あることに気付く。

あれ?よく考えたら俺も見た目かなりヤバイ奴なのでは?

全身負傷し、服もボロボロ。ましてや来てる服は女性モノのためピッチピチ。

あ、ヤバイ奴だった俺。


ちょっと焦りつつ、相手に突っ込まれた時の弁明を考えようとしたのだが。


「私の名はアトラ。アトラ・ティーレルだ。外交官の仕事でこの国を訪れた」

唐突に自己紹介された。


「え?あ、はい」

いきなりの自己紹介に生返事になる俺。


「先ほどは…その…、目を覚ますと…目の前に…顔があったのでつい…本当にすまない」

どこか業務的と言うか、外交の仕事をしているせいか堅苦しい、でも少しモジモジしていて可愛い。

違う、これは浮気ではない。


気がつくとあの魔眼っぽい眼はもう使っていなかった。


「それで、いくら支払えば良いだろうか?治療、してくれていたのだろう?」


「え、あ、治療はしましたけど。特にお金とかは…」


急にお金の話しになったよ。大丈夫?この人、外交官向いていないのでは?


突然のことでこっちもつい金銭の受け取りを拒否してしまったが、ちょっと失敗したかもしれない。

現在無一文。この先のことも考えればお金はいくらあっても困らないはずだ。

”あなたの能力を生かして仕事をしなさい”と言われたら、俺の食いぶちは間違いなくリバース一択だ。そして逃亡者の俺は働けるわけがない。

あー貴重な収入を逃した。


アトラと名乗った女性は「そうか、助かる」と既に話を締め括っている。


内心ややショックを受けながらも、どうやらもう頭突きの延長戦は無さそうなのでとりあえず安心した。


「それで、悪いのだが…できればもう少し治療をお願いできないだろうか?その……まだ少し痛む」


アトラは切られた横腹に触れバツが悪そうにそう言ってきた。

まぁ頭突きしてしまった相手にこれは言いづらいか。でも初対面の男性の前で無防備を晒すのは抵抗あるだろうに…よっぽど傷の状態がよくないのかもしれない。どうしようかここからは有料にしようかな?


「ええまぁ…いいですよ、ですが…」

俺はすぐ承諾したが、一つ条件を付けた。


「こちらも治療、お願いしてもいいですか?」

そういって火傷した左手を持ち上げて見せる。まぁお金も大事だが正直この手は何とかしたい。相手が翼人ならリバースを使えるだろう。


アトラはほんの少し考えて「ああ、あまり得意ではないが、わかった」と答えてくれたのだった。




治療中、俺は終始無言だった。

どこの国の外交官なのか?何故怪我をしていたのか?何故上空から落ちてきたのか?さっきの魔眼らしき眼はなんなのか?

アトラには色々と聞きたかったが我慢した。


理由はある。

話を聞いて巻き込まれる可能性だ。外交官が外国で事件に巻き込まれた場合。国際問題に発展しかねない。マジで願い下げ案件である。既に関わっているがこれ以上先は死の臭いがする。

それと、アトラは丁寧に礼を述べこそしたが、まだ悪人なのか善人なのか判断ができていないし、初対面であれこれ尋ねるには少々内容が濃すぎる。


(それにどこに地雷があるかもわからないしな…)

地雷を踏み抜くのはしばらく控えたい。


それなのにだ。

「気になっているんじゃないか?何故空から落ちてきたのかとか」

アトラの方から話題を振ってきた。


こいつホントに外交官かよ普通他人に話そうとするか?と思いつつも「いえ。別に」とだけ返す。

アトラはそれに対して「フフフッ」と笑うだけだった。


フフフッじゃない正直巻き込まないでほしい。自分のことで結構一杯一杯だ。


アトラの治療が終わる。


「…ふむ、()()()凄いな君のリバースは…。助かった、そういえばまだそちらの名前を聞いていなかっ…」

そう言いこちらに向き直るアトラ。


そして、


「ドサッ」


俺ははまた倒れた。


アトラが攻撃したわけではない。


昼間に6時間寝たと言っても、メアとの一件で負傷し、能力を限界まで発動して、車に轢かれかけながらもボロボロの状態で研究所からここまで走って逃げてきた。

さらにここにきてからの瀕死のアトラの治療。

リバースは物質の補修などよりも人の治療で使用する方が遥かにルフトと体力を消耗する。

結果、倒れた。


「なっ!おい大丈夫か?」

アトラは驚き慌て、倒れた少年へと駆け寄る。だがそこに


「こっちで声がしたぞー!明かりを照らせ!!」

路地裏に怒号が走る。


「くっ、まずい!…」

アトラは切迫した時間の中で逡巡する。

(この少年はおいていくべきか、しかし…)

仕事のことを考えると、他者を見捨ててでも逃げるべきだろう。この少年には顔も見られている。もっと回復してもらうために誠意を見せて名前も職業も正直に言ってしまった。

始末する方がリスクは少ない。しかし、瀕死を救ってくれた恩もある。頭突きしてしまった引け目もある。


「ああっ!もう!」


悩んだ挙げ句アトラは少年を担ぎ、翼を広げ夜の路地裏から飛び立ったのだった。


□□□□□□□□□□


アトラは後方から飛んで来る魔弾を避けつつ、少年を抱え都市の上空をもうスピードで飛び進む。


緑煌眼を発動して周囲360゜を見渡す。そして都市上空に張り巡らされている結界の隙間を見抜いた。


(あそこからならいける、か)

早く都市を脱出しなければ相性最悪の()()()()()()()()。見つかれば厄介だ。

逸る気持ちを押さえ、でも速やかに脱出を遂行した。


なんとか無事に都市から脱出したアトラ。さらに都市から距離を取り森に降りた。

少年を静かに地面へ下ろす。


「フゥ…。ふむ、さてどうするか」


今回の作戦…身バレこそしなかったが、私との相性が悪い強敵と遭遇した。…まさか、情報が漏れていたのだろうか?これはアプローチを練り直す必要があるかもしれない。

そう思案しつつ、もう一つの問題に目を向けた。


そこに寝かせていたはずの少年が、いつの間にか起き上がりこちらを見ていた。


少し驚きつつも

もう起きて大丈夫なのか?そう声をかけようとした。が、


「!?」


アトラは再び緑煌眼を発動させさっきまで少年だったものに問う。


「貴様はいったい何者だ?」


生ぬるい夜風がアトラの頬を撫でていった。

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