━プロローグ━ さよならの日
初投稿となります。
溜め込んでいた妄想をつらつら書いていくことにしました。
物語どころか文章作成スキルが壊滅的なため、お見苦しい物に仕上がる可能性がありますが薄目でみていただけると幸いです。
目も開けられぬほどの眩い光の中。 思い出す。
家族の声。
平凡で代わり映えのない日々。
幸せだった。
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俺は長距離トラックのドライバーだった。
「それ3K職じゃん!」と馬鹿にされることもあったが、事情も知らない周りの意見に振り回される必要はない。
まず稼ぎが良かった。昨今は下火に思われてる運送業ではあるが、当時勤めていた大手企業6年目に比べても倍は稼げた。再就職時に相手の面接官から「今まで良くその給料でやっていけたね」と気遣われるほどだったから、初めに就職した会社に問題がある可能性もあるが…。
まぁそういう経緯で俺は上場企業を辞めて運送業へ転職した。
それから10年間、黙々と運転だけをしてきた。
因みに「3K」とは、「きつい」「汚い」「危険」の「3つのK」のことだ。確かにそういう仕事ばかり引き受けている会社もあるだろうが運送業界すべてがそういう訳では無い。
実際俺はトラックへの荷物の積み卸しは見てるだけで肉体労働は無かったし、長距離の割には2日に一度は自宅に帰れた。実質週休3日ともなれば何が「きつい」のか逆に聞きたい。
それに綺麗好きの俺にとって清潔快適はモットーだ、車内はホテル並みに常に清潔。サービスエリアやガソリンスタンドで毎日シャワーにも入れるのだから「汚い」とも無縁だったと思う。正直楽な仕事だった。
これで日本人の平均年収がもらえるのだ。同業者からも妬まれるぐらいには良い職場環境に文句もなかった。
3Kとして唯一上げるとすれば、「危険」ぐらいだろうか。これは運送業全てにおいて平等だろう。
仕事が運転なのだから鉄の塊が行き交う道路を毎日運転すれば、一般人に比べて危険なのは当然。
そして自分が気を付けていても防ぎようがないのが交通事故だ。「危険」は向こうからもやって来る。
とまぁそんな仕事だった。
しかし、女性と交際するとなると少し話が変わってくる。
世論に染み付いた「3K」と言う言葉は根強い。その認識だけで異性はあまり寄り付かないのだ。こういう時は仕事の外聞も少し気になるところだった。正直結婚も諦めていた。
だがそんな俺にも運命の人はいたようだ。
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「やってる仕事と幸せってなにか関係あるの~?」と笑った彼女は眩しくて温かかった。
適齢期ギリギリという焦りの後押しもあったかもしれない。付き合った1年後に俺達二人は結婚した。
あれから6年。俺は39歳になった。イケオジかどうかはさておきアラフォーである。
最近は肩が上がりにくくなった気がする。
休憩中に肩をグリングリンと回しながら歳はとりたくないなとボヤく。
俺は相も変わらず長距離ドライバーの仕事をしていた。
明日は今年5歳の愛娘の参観日。勤めている会社は融通が利くよい会社だ。家族行事で休んでも、これまで特に嫌みを言われたこともない。
スマホがピロロンと鳴る。
届いたメッセージを見た。
サンタコスをしている娘の写真が妻から送られてきた。
思わず顔がほころんだ。
幸せだった。
人生に文句などなかった。
ずっと今の生活が続くと思っていた。
だから、トラック同士で正面衝突した時、これはきっと夢か何かなんだろうなと心の逃げ場を探した。
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意識が少しずつ浮上していく。
重い目蓋を少しだけ開けた。
眩しさのあまり開けた目をさらに細めた。
「…あれ、………俺は………なにが」
今まで何をしていたかすぐには思い出せない。
細めていた目を再度ゆっくりと開く。そこには吸い込まれそうなほど青い空が見えた。
目蓋はまだ重い。
再び意識を手放しそうになるが頭を回転させ堪える。
少しずつ、記憶が追い付いてくる。しかし先程まで見ていたはずのビジョンがやけに昔に感じる。
きっと、頭を強く打ったのかもしれない…。
さらに数秒後。
事故を起こしたことをようやく思い出せてきた。
「ここは…そとか…?」
シートベルトはしていたはずだが、強い衝撃で車外に投げ出されたのだろうか。
体に力が入らない、視界も思うように定まらない、耳鳴りも酷い。
「しぬ……のか…」
避けようがなかった。ハンドルを切ったが間に合わなかった。即死していてもおかしくない事故だった。こう思うのも仕方ない。
思うのは自分の死より残される家族の今後のことだった。
「保険とか…大丈夫…かな…」
妻は事務的なことが苦手だ、今後の心配が先に思い浮かぶ。
だから俺は思い出せない。
事故が起きた時、空は青空ではなく雨雲で覆われていたことを。
悲しむだろうな…
もう言葉を発する余力もない。死ぬ間際は走馬灯を見るとよく聞くが、頭に思い浮かぶのは悲しむ家族の姿だ。
だから俺は気付かない。
体は傷どころか、周囲に血一滴も、それどころか道路も車も何もないことにも。
もう一度…会いたいな。でも…早く忘れて幸せに…
意識が遠のいていく。
そして━━迎えが来たと思った。
仰向けで見た青い空。
瞼が降りるその間際。
白い翼を羽ばたかせ、優美に舞い降りる人を見た。そんな気がした。
そして目蓋はまた重い幕を下ろす。