表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トラウマノコイ  作者: 沖田 ねてる
10/34

第九話 葬式は帝国のマーチと共に


 僕は今、ツギコのセーラー服を着たまま、中等部の校舎の屋上で寝そべっていた。断っておくが、妹の制服パチって授業をサボっている訳じゃない。バリバリの仕事中だ。


『今日はよろしくお願いいたしますわッ!』

『ええ、わたくしはこういう者です。運転手共々、お父様にはいつもお世話になっております』

「本当だったよ、あーもうッ!」


 耳に聞こえてくる盗聴器の音声を聞きながら、うつ伏せで寝そべってスナイパーライフルであるチェイタックM200の本物を構え、スコープを覗いていた。金網の向こう側に見えるのは、高等部の校舎のロータリーで車に乗り込んでいくマギーさんと、外部企業の担当者と偽る裏組織の人員だ。

 あの衝撃的な口パクから情報を得た僕は、すぐにベルさんに報告した。一週間後に何の学校のイベントがあるのか、参加者は誰か等の情報と共に武器を用意させる。同時にローズにも連絡し、金で叩いて不審な動きをしている組織はないかを同時並行で洗い出させた。


その結果、来週にマギーさんが企業訪問を予定しているという話と、とある組織に妙な動きがあることを掴んだ。ベルさんから得られた資料を元に、マギーさんと裏組織を追加調査。連日徹夜するハメにはなったが裏付けも取れ、クレハさんからのタレコミが真実だったと分かった。


「名刺と顔は同じだったけど、企業訪問に来る予定だった人間とは明らかに違う声の波形。おそらくは将来学院に入る前に襲って、成り代わったんだろうね」


 今マギーさんを案内している方と運転席にいる二人のおじさんは、おそらく敵だ。車に乗り込んだ彼らが早速出発しようとしたその時、僕の構えるチェイタックM200が火を噴いた。


「【弾丸凱旋(バレットパレード)】」

『な、なんだ、パンクか?』


 僕の放った弾丸は、タイヤの一つを撃ち抜いた。これで安易には発進できないだろう。運転席にいた一人がドアを開け、車から出てくる。その顔も事前情報にあったものと同じだったが、彼も声の波形が違った。彼も企業から派遣されてきたドライバーじゃないね。僕はもう一度、引き金を引いた。


「【弾丸凱旋(バレットパレード)】」

『あがッ!?』

『ど、どうしたんですの運転手様は?』

『ッ!? な、なんでもありません。少々お待ちください』


 彼の胸に麻痺弾が突き刺さり、ゆっくりとその場に倒れた。確保するから殺すな、と指示を受けていたからだ。マギーさんが狼狽えている中、助手席に座っていたもう一人が声を荒げている。彼はなかなか外に出てこなかった。警戒された、かな。


「じゃ、ベルさんよろしく」

『あらあら、どうしたんだい?』


 中にいる輩を狙うと、車の窓ガラスが割れるだろう。そうなってしまえばマギーさんに気づかれてしまうし、最悪なのは破片が飛び散って彼女に怪我をさせることだ。下手なことはできない。

 僕はスコープから目を離さないまま、近くに潜ませていたベルさんにお願いすることにした。程なくして、何食わぬ顔で彼女が現れる。


『あれま。この人倒れているじゃないか。何があったんだい?』

『い、いえ。車のパンクを確認しようと出られたら、急に倒れてしまって』

『大変大変。アンタ、大丈夫かい?』


 助手席にいるおじさんがベルさんに応対しているが、車内から出ようとはしない。


『うーん、多分貧血だね。働き盛りだからって、無茶でもしたんじゃないかい? そこのアンタ、起こすから手伝っておくれ』

『えっ? い、いや、今はちょっと』

『何言ってんだい? こんな婆さん一人で運べる訳ないだろう?』


 おじさんは密かに連絡を取ろうとしてるっぽいが、それを許す程ベルさんも甘くはない。


『こ、こうなってしまえば企業訪問も難しいと思われますので、まずは上に報告をしないと』

『そんなのはマギーさんがやってあげな。お父さんに連絡するくらい、できるだろう?』

『そ、そうですわ。わたくしにお任せになってッ!』

『ほら、何を渋ってるんだい? 早く車を降りて、手伝っとくれ』


 あの様子だと、おじさんはおそらく狙撃されたことを解っているっぽいね。でもま、時間の問題だろう。この状況下でベルさんの追求から逃れようと思ったら。


『こ、こうなりゃ仕方ねえ、予定変更だッ!』


 実力行使しかないだろうね。予想通りだ。おじさんは声を上げたので。


「ベルさん、右胸。【弾丸凱旋(バレットパレード)】」


 仕方ないので、僕はベルさん目掛けて引き金を引いた。一直線に飛んでいった生命力イドの弾丸は、寸分の狂いもなくベルさんの右胸へと吸い寄せられていって。


『――【心的蓋章(トラウマ)盲目白鞭アザーティーテンタクルズ】』

『ガファッ!?』


 彼女の胸を穿つと思った次の瞬間、見えない何かにぶつかって跳ね返り、急激に方向を変えた。弾丸は開いていた運転席扉から車内へ侵入して、助手席にいたおじさんを撃ち抜く。うん、予定通り。


『ど、どうされたんですのッ!? き、急に声を上げられたかと思ったら』

『おや、この人まで気を失っているじゃないか。この人も貧血だね。全く、生涯現役も結構だけど、歳を考えて欲しいねえ』


 ベルさんが白々しすぎて、いっそ笑えてくる。


『ひ、貧血って、こんな急に倒れるものなんですの?』

『最近の貧血を侮っちゃいけないよ。こうなってしまった以上は、企業訪問は無理だね。教室に戻りなさい、マギーちゃん。この人達はワタシが何とかしておくから、お父さんに連絡しておくんだよ』

『は、はいですわ』


 何が何だか解らないといった様子のまま、マギーさんは校舎の中に戻っていった。


『聞こえているかい、クソガキ?』

「聞こえてるよ、クソババア」


 完全にいなくなったところで、ベルさんことクソババアから連絡が入る。つーか、スコープ越しにこっちを睨んできているのが分かる。嘘やん、目が合ってんだけど。


『よくもワタシ目掛けて撃ってくれたね?』

「窓ガラスを割らずに標的を狙うには、跳弾しかなかったので」

『だからってワタシを使うんじゃないよ。死んだらどうしてくれるんだい?』

「お葬式で帝国のマーチを流す」

『ワタシは暗黒面に落ちた黒仮面のジェダイかい?』


 正直彼女にはピッタリの曲だと思っているが、お気に召さなかったみたいだ。っていうか葬式であの曲を流したら、このクソババアなら怒りのあまり、棺から起きてくるかもな。怖い怖い。


『馬鹿言ってないで、さっさと手伝いに来なクソガキ。こいつら尋問して、組織から背後関係まで全部明るみにして、潰すよ』

「了解クソババア」


 連絡を終えたことで、僕はようやくスコープから目を離した。何はともあれ、マギーさんは無事だった。一安心だね。ちょうどその時、ローズから連絡が入る。


『そろそろ終わったかい? こっちは安心しな、ツギコちゃんは無事だぜ』


 スマートウォッチから飛び出してきた画面には可愛い寝息を立て、天使のような無垢な顔で眠りについているツギコの姿があった。ヤッベ、鼻血出そう。


「手を出してないだろうな?」

『ねーよ。せいぜい連れ出す時に背負ったくらいだ。そのくらいは不可抗力だよな?』

「何処までやった?」

『浮気を疑ってる夫かお前は? 背負ったくらいだっつってんだろうが。あとは頼まれてた卜部クレハの背景。一週間で調べられるだけ調べたから、あとでチャットを見ておいてくれ。もしこれ以上を望むなら追加料金をもらうぜ。今後ともご贔屓に』


 ローズとの通話が切れる。僕は盛大に息を吐き出していた。ツギコが無事で、本当に良かった。今回の事に当たって、クレハさんへの対応を考える時間がまるでなかった。妙案が思い浮かばず、結果としてツギコに入れ替わってもらうというクソババアからの提案しかなかったんだ。

 正直ツギコに心的蓋章(トラウマ)持ちの相手をさせるなんて、絶対に嫌だったんだけど。時間もなく代案が思い浮かばなかったこと。ローズに追加料金を払って警護レベルを最大にしてもらうことまで条件に出された為に、僕は断腸の思いで承諾した。


「ふーん」


 スマートウォッチに通知があり、ローズからのチャットを確認した。記載されていたのは、卜部さんの背景。ある程度予想していたが、やはり面白いものではなかった。


『私はもう嫌なの。解放されたいの』


 あの日、口パクで彼女が言っていた言葉は、本気だったんじゃないかと思う。僕は一つ息をついてからスマートウォッチを閉じると、スナイパーライフルを解体してカバンに詰め、ベルさんの元へと急いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ