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結婚がすぐにできない。

「武士 霧崎(きりさき)(おさむ)よ。

今回の荒妖(あらよう)制圧ご苦労であった。

何を褒美に臨む。与えるからこの国に居てくれ。」


艶やかなに流されたら長い黒髪を一つに束ね後ろに流した切れ目の整った顔の男はこの国の王、天野 守。

その男がわたしに問いかける。

「糸野の三の姫、ツヅミ姫との結婚を望みます。」

わたしは正座から土下座の状態になり、頼み込む。

全身に巻いた包帯がずれないか気が気でない状態で土下座をする。

霧崎が人形だとバレれば全て水の泡になる。

全ては、ツヅミ姫を、私を救うため、5歳から十年かけてやってきたことだ。


わたしは霧崎でツヅミ姫だ。

生まれは、貴族で前世は庶民出身の女武士だった。

前世の死因はまあ、荒妖が原因だと考える。

荒妖は、汚れが溜まった結果現れる化け物だ。

汚れは、恨み、悲しみ、怒りなど負の感情が溜まった結果、体の異能力と反応して、出る黒い粘着質の液体だ。

負の感情を溜めすぎた人間の体から出てきて、放置すればするほど、消えにくくなり、集まり、感情に反映した化け物となる。

人間が異能を持ち始めたのと同時に現れ始めた。

そして、わたしは荒妖が現れ始めて、まだ原因が不明だった頃に荒妖と戦って犠牲になったものの一人だ。


なんの因果か転生を果たしたわけだが、転生したのが貴族。

お淑やかという名の腹芸が重要視される身分の方々である。

転生前の頃から、彼ら彼女らのあっぱれな腹芸を護衛がてら見続けた結果、転生するなら貴族は嫌だと思っていた。

実際、彼ら彼女ら自分の行動一つで、家の存続、親子孫の人生が決まるので常に気が張っている様子だった。

そのなりたくない貴族にわたしは転生したのである。

前世なしの生粋の姫である姉や妹たちは、腹芸を使いこなしている。

それに対して前世があるせいで少しガサツなところがあり、わたしはなんとか取り繕って腹芸をしているが、いつ何かやらかすか、気が張ってしまう。

私は貴族に向いていない、貴族を辞めたい。

どうすれば辞められるそう幼子ながら悩んだ時だった。


親を含む大人たちがある特定の内容で盛り上がっていた。

異能を使って荒妖退治で大活躍した武士が貴族の姫を望んで結婚したということだ。

その武士と姫は幼馴染だったそうで、幼い頃から思い会ってるもの同士と結婚できて幸せだと祝うものが多かった。

しかし、一部は武士の方に嫁いだことで姫は身分が武士になったことを憐れむものもいた。

その話を聞いて、私はこれだと思った。

活躍した武士と結婚すればいいんだ。


けれど都合よく、武士の家の強い幼馴染なんで現れるわけがない。


だから私は作ることにした。

幼馴染は無理でも、強い武士を私の異能で作ることを決めた。


私の異能は糸使い。

前世と同じ能力を授かったおかげで扱いがとてもわかっていた。

さらに前世の努力した分も引き継がれているという嬉しい結果だった。

糸を使って、人形を操り、人形に人のふりをさせ、人形で武功を立て、私との結婚を褒美と望み、わたしは武士人形の嫁となり、貴族社会から離れたところで暮らすんだ。


土下座から正座に戻り王の方を見る。

「そうか主は、糸野の三の姫を望むのか。ツヅミ姫は、あまり、いい噂も悪い噂も聞かぬ。

情報の少ない姫だが、主はなぜ望む?」

その声は、どこか脅しが効いた声だった。

返答によっては、私を救うことが出来ないかもしれない。

十年かけたんだ諦めるわけにいかない。

「わたしとツヅミ姫様は、恋仲にあります。ただ身分の差があり、今世で結ばれることは難しいと考えていました。

ですが、天野王の後押しがあらば、ツヅミ姫と結婚できると考えたからです」

しっかりと芯の入った男の声を糸で出す。

気配を把握するために人形から出していた見えないほど極細の糸が異常を捉える。

王の顔が見えないがどこか焦った様子だった。


「主の忍ぶ恋の噂は聞いたことがないが真か?」

先程と変わらぬ声の様子で、私に話しかける。

「真です。身分の差もありふみを交わすことはできません出したが、代わりに笛と琴で歌を交わしていました。」

私は用意したらセリフを吐く。

「歌で交わすとはどういうことだ?」

王は私を威圧する様に聞いてくる。

ただ褒美に自分を望むだけなのになぜこんなに威圧される。

王の傘下の家の姫と結婚することを望むのだから、王の願いも叶うはずなのに。

「満月と新月の晩に、私が笛を弾いて、その歌の返事を半月の晩にツヅミ姫様がするということを三年近くやっていました。」

私は嘘の忍ぶ恋の証拠を話す。

武士仲間の間では、有名な話だ。

満月と新月の晩に私が笛を吹くことは。



「そうかそれほど長い付き合いなのだな。

だが、人はものではない。

おいそれと褒美として与えることはできない。

主は貴族の姫を望むなら、主は貴族のしきたりで姫に近づけ。

その手助けを我が行うことも今回の褒美としよう。」

王はやはりどこか焦った様子だった。

そういえば、王はまだ独身だったな。

二十歳のような若そうな見た目をしているが、これでも七十歳。

王は二十歳の時に荒妖に襲われて持っていた異能が暴走して年を取らなくなったという公然の秘密がある。

結婚の言葉が出てきて、焦っているのだろうか。

それにしても、貴族をやめるための道のりは長そうだ。

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