悪役令嬢が悪であるとは限らない
※この作品は『すなもり共通プロット企画』参加作品であり、提供されたプロットで創作した作品です※
の5作目です。
1~4はここではないどこかに掲載されております。
1作目はネタに全振り、2作目は王道よくあるパターン、3作目は完全に思い付き、4作目はギャグとなったら5作目はシリアスじゃい!
(ウザい……)
リシャールは、まとわりつく隣の女性に一瞥くれる。この女は先ほどから何やら喚いているようだ。確か名前は。
「聞いておりますか? リシャール様」
(ああ、そうだ。名前は確かファニー、だったか? 恐らくエスム男爵の娘と言っていたような。こんな下流の貴族の娘が、一体、俺に何の用だ?)
「セシル様が、私の教科書を、その……」
(だからか。先ほどから汚らしいそれを手にしているのは)
そこでやっとリシャールは読んでいた本から顔をあげた。今日は日差しが温かい。この学院の裏庭にある大木の下がリシャールの昼休憩時間の定位置でもあった。裏庭の隅に、ひっそりと、そして雄大にそびえ立つ大木。その隙間から落ちてくる木漏れ日。今日は、さわさわと吹き付ける風が心地良いのだが。
先ほどから耳障りな雑音。
「それで? 君は俺に何を求めるのだ?」
「え?」
まさか、そのような言葉が戻ってくるとは思ってもいなかったのだろう。ファニーは驚いたように目と口を開けている。
「酷いと思わないのですか? 私、何もしていないのに、セシル様が私の教科書を噴水に投げ捨てたのです」
「そうか……」
そこでリシャールは立ち上がる。そろそろ、午後の授業が始まる。この裏庭から建屋までは少し距離がある。だからこそ、一人になりたいときにはもってこいの場所であったのだが、どうやら溝鼠に見つかってしまったようだ。
リシャールは軽く息を吐いた。隣にいるファニーには目もくれず。
リシャールが教室に入ると、セシルと目が合った。だが、彼女の視線はすぐにリシャールの後方を見つめ、そして目を伏せた。
(俺の後ろに何がある?)
「リシャール様……」
ひっ、と思わずリシャールは声をあげそうになった。なんと、彼の後ろにはあのファニーがぴったりとくっついていたのだ。だが、無視を決め込む。このようなところをセシルに見られるわけにはいかない。いや、もう見られてしまった。
◇◆◇◆
リシャールはこのロシュフール王国の第一王子として生を受けた。そして、その第一王子としての立場を強固なものにするため、隣国エコノミド国の第二王女であるセシルと婚約をしたのは、お互いに五歳のとき。それから十一年、なんとなくそんな関係を続けている。学院に入学できる年になれば、セシルはわざわざ隣国からこの国へ留学という形を取ってくれた。遠すぎず近すぎず、お互い、心地よい距離感を保っていたのだが。その関係に水を差すような人物が現れた。
それがファニー・エスムという名の男爵令嬢。なぜ彼女のような人物がこの学院に入学できたのかはわからない。何か、特別な力でもあったのだろうか。
「リシャール様、どうかされましたか?」
名を呼ばれ、リシャールはハッとする。この名の呼び方はあのファニーではない。婚約者であるセシルだ。
今日の授業が終わり、生徒会室へとやってきたところ。これから、生徒会主催で毎年行っているパーティの打ち合わせをしようとしているところだったことに気付いた。
生徒会の役員には、リシャールとセシルの他に、宰相の息子でありリシャールの乳兄弟であるアルノー、騎士団団長の息子であるフィリップ、神官長の息子のマリック。そして、マシアス公爵の娘であるミアの計六人がいるのだが、今、この生徒会室にいるのは、なぜかリシャールとセシルの二人のみであった。
「いや。何でもない……。ただ、少々、気が滅入ることがあって」
「ああ、ファニー嬢のことですね」
「気付いていたのか……」
「ええ。もちろんです。わたくしがあなたのことに気付かないことがあって?」
そこでセシルはリシャールの前にお茶を置いた。
「ありがとう」
リシャールが口にすれば、セシルは柔らかく笑む。リシャールは彼女のこの雰囲気が好きだった。心が安らぐような感じがするから。
日々の喧騒で、安らげる相手。それが婚約者のセシル。そして、安らげる時間。それが昼休みのあの時間。
にも関わらず。
「セシル。あのファニーという女性は何者なんだ? 最近、俺の周りをウロチョロしているのだが。今日なんて、君が教科書を噴水に投げ捨てたとか、そんなことを言っていたぞ?」
「まぁ。リシャール様は、ファニー嬢をご存知ないのですか? 同じクラスの方ではありませんか」
「そう、だったか?」
そこでリシャールは首を傾けた。だから、あのとき、彼女は自分の背後に立っていたのか、と。
「そうですよ」
セシルは静かに笑んだ。彼女の笑顔が、リシャールの心を揺さぶる。
「え、と。それで何でしたっけ? わたくしが、ファニー嬢の教科書を噴水の中に投げ入れた、でしたっけ?」
「ああ。確かそのようなことを口にしていた。だが、恐らく嘘だろう。自作自演というやつか? 何しろ君はそのようなことはしない。君ならば、彼女がこの学院に来ることができなくなるくらい、徹底的にやるはずだからな」
「さすが、リシャール様。わたくしのことをよくわかっていらっしゃいますのね」
「まあ、な。十年以上、伊達に君の婚約者をやっているわけではない。だが、なぜファニー嬢はそのような嘘を?」
「恐らく。わたくしのことが邪魔なのでしょうね……」
イベント、とセシルが呟いたような気がしたが、その言葉に心当たりのないリシャールは聞き流していた。
「そういえば。アルノーもフィリップもマリックも、ファニー嬢と共にいることが増えたようだな」
「だから、こちらの仕事にいらっしゃらないのでしょう? 今もファニー嬢と共に遊んでいらっしゃるのでは?」
「ったく、仕方のない奴らだな」
生徒会唯一の催しものである学生の交流パーティを間近に控え、生徒会の仕事は忙しい。というにも関わらず、あの三人はこちらに顔を出すことすらしなくなった。おかしい、と思っていたリシャールだが、まさかその原因がファニーにあるとは思ってもいなかった。
コトリとセシルがリシャールの目の前にガラスの小物入れを差し出した。
「なんだ? お菓子か?」
リシャールの言葉にセシルは口の端を持ち上げた。
「『真の姿をさらけ出す薬』と呼ばれているものです。今、巷で流行っているらしいですよ?」
「流行っている? どれ、味見をしてみようか……」
ガラスの小物入れには、セシルが口にした怪しげな名前のものが入っているようなのだが、リシャールからしたら金平糖と呼ばれる砂糖の塊にしか見えない。赤い色の金平糖がぎっしりと小物入れに入っているように見える。
「ダメです」
セシルは伸ばしかけたリシャールの手をそっと押さえた。
「リシャール様は、けしてこれを食べないでくださいね。これを覚えておいてください」
セシルの言葉にリシャールは目を細め、尋ねる。
「どういうことだ?」
「ですから、巷で流行っているのですが。裏でこっそりと流行っているらしいのです。つまり、公にできない何かがある、ということです」
「わかった。王宮薬師に成分分析の依頼を行う」
「さすがリシャール様です。万が一のときのためにこちらも覚えておいてください」
すっとセシルは、色違いのガラスの小物入れをリシャールに手渡した。こちらには青色の金平糖が入っている。
「念のための、解毒薬です」
「解毒薬?」
「はい。念のためです。もし、間違えてこちらを口にいれてしまったときは、この解毒薬を」
「金平糖にしか見えないな」
「はい。ですから、裏で流行っているのです。リシャール様、どうか気をつけて……」
セシルのその声が、少し寂しそうにも聞こえた。
◇◆◇◆
次の日。
珍しく生徒会室に、アルノーとフィリップとマリックが姿を現した。一体、どのような風の吹き回しかと思いきや、彼らの後ろからはひょっこりとあのファニーが顔を出してきたのである。
「リシャール様。ファニーを生徒会役員に加えていただけないでしょうか」
リシャールの乳兄弟であるアルノーがそんなことを言い出した。
リシャールはつい眉間に力を入れてしまう。
(こいつは、何を言っているんだ?)
「殿下。ボクからもお願いします」
神官長の息子であるマリック。
「殿下。俺からも」
そして騎士団長の息子であるフィリップ。
(揃いも揃って、頭がイカれたのか?)
「君たちは、久しぶりにこちらに顔を出したかと思えば、言いたいことはそれだけか」
「リシャール様。ファニーはとても優秀な女性なのです」
アルノーが身を乗り出す。
「どんなところが?」
リシャールがすかさず尋ねれば、答え始めたのはマリック。
「計算が得意です」
「計算であれば、ミアがいる。間に合っている」
「資料をわかりやすくまとめてくれる」
フィリップが答える。
「それもセシルがいるから間に合っている」
「ですが、セシル様は……」
アルノーが彼女の名を口にすれば、リシャールはじろりと彼を睨んだ。いくら乳兄弟と言えど、セシルを侮辱することは許さない、と。
「なんだ、言いたいことがあるなら、はっきり言ってみろ」
「リシャール様は、ご存知ないのですか? セシル様がファニーを虐げていることを。ミアと共に彼女を苛めているのです」
「そうか」
リシャールの声は冷たい。セシルもミアも、そのようなことをする女性ではないことを一番知っているのは、アルノーではないのか、と問いたい。だが、やめた。あきらめ、とも言う。今、彼らに何を言っても無駄なような気がしたのだ。
「リシャール様」
少し甲高い声。いつもの耳障りな声だ。
「お茶にしませんか? 私、美味しいお菓子をお持ちしたんです」
(なぜ、このタイミングで。馬鹿なのか、この女は)
「そうです。リシャール様。お茶でも飲みながら、ボクたちの話を聞いてください」
マリックも言う。
これは受け入れるまで続きそうな流れだと思った彼は、仕方なく彼らを中に招き入れた。だが、セシルとミアがこの場にいないことに、なぜか不安になった。
「では、私がお茶を淹れますね」
――リシャール様。ファニー嬢には気を付けてください。
セシルの言葉が頭をよぎった。
――恐らく彼女はこの『真の姿をさらけ出す薬』を手に入れていることでしょう。そのための解毒薬です。
「どうぞ」
人数分のお茶を淹れたファニーは、いつもセシルが座っている場所に腰を落ち着けた。それすらリシャールにとっては、許しがたい行為。だが、それを顔に出すようなことはしない。怒りを表情に出してはいけないと、セシルがよく口にしていたから。
「リシャール様。こちら、とても美味しいお菓子なんですよ」
先ほどから手にしていたバスケットの中から出てきたお菓子。クッキーとそして。
「これは、金平糖か?」
リシャールは思わず尋ねていた。
「そうです」
ニコニコと笑いながらファニーがバスケットから取り出したのは、例の『真の姿をさらけ出す薬』とセシルが言っていたあれ。
「今、流行っているんですよ。これ。とても甘くて、美味しいのです。ね?」
ファニーが首を傾げて、アルノーとフィリップとマリックの方に視線を向ければ、三人とも同時に頷く。
(なんなんだ、これは……)
リシャールは非常に不安になった。珍しく、手の平に汗をかいている。ここにセシルがいないことも不安になる原因の一つでもある。
「リシャール様もどうぞ」
例の赤色の金平糖。それをファニーが差し出してくる。
アルノーもフィリップもマリックも、手を伸ばしてそれをボリボリと食べている。
「どうぞ、リシャール様」
これは、断ることができない雰囲気というもの。リシャールも恐る恐るそれに手を伸ばした。口に入れれば、しつこい甘さが口の中に広がる。ボリボリと奥歯で噛みしめ、ゴクリと飲み込む。
「ね? リシャール様。美味しいでしょ?」
「そうだな」
ドクン、と身体が大きく波打つような感じがした。頭がぼんやりとし始める。
(なんだ、これは……)
「ねぇ、リシャール様?」
鼻につく甘えたような声。
「セシル様が、私のことを苛めるのです。今日は、階段の上から私を押したのですよ。たまたまアルノーたちがいたから、怪我をせずに済みました」
ドクン、とリシャールの心臓が跳ねる。
「そうか。セシルがそのようなことを? 以前から、行き過ぎるところはあると思っていたのだが」
(違う、それは俺の言葉ではない)
「そうですよ、殿下。セシル様は悪魔のような女なのです。殿下の婚約者に相応しくありません」
マリックが言う。
「殿下。セシル様と婚約の解消をされたらどうですか?」
フィリップが提案する。
「そうだな……」
リシャールの口から、つい、そのような言葉が漏れた。
「リシャール様には、ファニーのような女性が相応しいのですよ」
「そうか……」
アルノーの言葉にリシャールがそう返事をすると、つい、その金平糖へと手を伸ばす。
癖になる。身体がもっと欲しいと、叫んでいる。
「ね、リシャール様。とっても、美味しいでしょ? これ」
「そうだな」
「ですから、私をリシャール様の婚約者にしてください」
(なんで、そうなる?)
と、頭ではわかっているはずなのに、自分の意思とは反対の言葉が出てくる。これが、セシルが口にしていた『真の姿をさらけ出す薬』の効果だというのか。
これのどこが真の姿なのか。ただ、ファニーのいいようにされているだけではないのか。
「リシャール様。セシル様よりファニーの方が、リシャール様の婚約者に相応しいと思うのです」
アルノーがそう言うのであれば、そのような気さえしてくる。
「ね、リシャール様。セシル様はリシャール様の婚約者として相応しくないのです。私の方が、お似合いだと思いませんか?」
「そうだな」
「となれば、早速、婚約解消の手続きを取りましょう」
神官長の息子であるマリックであれば、その辺の手続きにも詳しい。
「ねぇ、リシャール。私に誓いの口づけを」
ニヤリと笑ったファニーが左手を差し出す。
(嫌だ)
とリシャールの頭は言っているのに、身体が言うことをきかない。不本意ながら、彼女の手をとり、唇を落とそうとしたところ。
「そこまでです」
凛とした声と同時に、乱暴に生徒会室の扉が開いた。そこにいたのは、もちろんセシル。そして、ミア。
「ファニー・エスム。あなた、リシャール様に何を食べさせたのかしら?」
きりっと目を吊り上げ、ファニーを睨みつけるセシル。
「きゃ」
わざとか弱い悲鳴をあげ、リシャールたちの背に隠れようとするファニー。
「失礼します」
そう言って部屋に入ってきたのは、ローブを纏った男たち。彼らは王宮薬師と呼ばれる人間で、主に薬について研究、開発をしている者たちである。
彼らはテーブルの上に置いてある、赤色の金平糖が入ったガラス瓶を手にした。そしてそれの中身を取り出し、においを嗅いでペロリと舐める。
「セシル様。やはり、これは……」
彼らが言わんとすることをセシルは察す。
「そう。ファニー嬢。あなた、その偽の『真の姿をさらけ出す薬』を、リシャール様たちに食べさせましたね? 美味しいお菓子、金平糖ですとか、そのようなことを口にして」
「た、助けてください。リシャール様……。セシル様はこうやって、私を追い詰めるのです」
セシルと王宮薬師の間を走って抜けたのは、ミア。リシャールに張り付いているファニーを無理矢理引きはがして、リシャールの口に何かを押し込んだ。
「何をする、ミア」
無理矢理押し込まれたものをゴクリと飲み干してから、リシャールは口にした。
「殿下。そのような薬にのまれないでください」
(そうだ。これはセシルが解毒薬と言っていたアレだ)
シャリシャリと口の中に、仄かな甘さが広がっていた。
さらにミアは、鷲掴みにした青色の金平糖を、無理矢理ファニーの口の中へと押し込んだ。ゲホゲホとむせ返るファニーだが、いくつかはそのまま喉元を通り過ぎていったようだ。右手で喉を押さえ、苦しそうにしている。
「今、あなたが食べたのが本当の『真の姿をさらけ出す薬』よ。つまり、自白剤ね。連れていきなさい」
セシルは、後ろに控えていた騎士たちに命じる。彼らは暴れるファニーを取り押さえ、引きずるようにして連れ出していく。
「ミア。恐らく、アルノーもフィリップもマリックも、やられているわ。それを」
「はい」
セシルが解毒剤と呼んでいた青色の金平糖。それが本当の『真の姿をさらけ出す薬』。だが偽のそれを摂取したものからしたら、解毒剤。
「ミア」
我を取り戻したアルノーが、彼女へと抱き着いた。
「情けない」
「う、すまない」
ミアとアルノーがそんなやり取りができるのも、二人が婚約者同士だからだ。
「フィリップもマリックも、大丈夫かしら?」
セシルは彼らを介抱していた薬師へと問いかける。
「はい。ですがこの二人は、摂取量が多かった様子。向こうで、少し治療を受ける必要があります」
そんな二人は解毒剤を口に含んだ途端、錯乱し、気を失ったらしい。
「リシャール様……」
「セシル。すまない。助かった、ありがとう」
「いえ、礼には及びません。むしろ、謝罪しなければならないのは、わたくしの方です」
ファニーは騎士団に連れていかれ、フィリップもマリックも薬師たちに連れていかれ、アルノーはミアに引っ張られるようにして連れていかれた。
つまり、この生徒会室にはリシャールとセシルの二人きり。
「ファニー嬢を捕まえるために、リシャール様を危険な目に合わせてしまいました」
「それは、俺が望んだこと。アルノーとフィリップとマリックを取り返すことができて良かった。だが、あの金平糖はなんなんだ?」
「ですから、巷で流行っている怪しい薬です。どうやら、出どころがあのエスム男爵という情報を得たのですが、なかなか証拠を掴むことができなくて。そのとき、彼らの様子がおかしいとリシャール様がおっしゃったものですから。もしかして、と思った次第です」
「そうだ。彼らは急にファニー嬢にかまい出した。アルノーなんてミア一筋だったにも関わらず。二人の間に何があったのか、と疑いたくなるほど」
「そう。ファニー嬢は、まずあの三人を手玉に取ろうとしていたのです」
それがゲームの流れだから。恐らく、あのファニーが狙っていたのは逆ハールートと思われる。だが、思うように事が運ばなかったのだろう。何しろ、それを邪魔していたのがあのゲームでは悪役令嬢と言われているこのセシルなのだから。もちろん、ファニーはそれに気が付いていない。
だから、手を出したのだ。人を思いのままに操ることができる、と言われている闇の薬に。それは本編には出てこないアイテム。思い通りのルートに進まないと思ったあのファニーは焦ったのだろう。まさかこのタイミングで、ファンディスクで追加アイテムとなったあの薬が出てくるとは、セシルも思わなかった。
ファンディスクのことを思い出してよかった、とセシルは思う。あのファンディスクは賛否両論あった。何しろヒロインが『相手を意のままに操る薬』で、追加の攻略対象を攻略していくのだから。無理矢理感もいいところだ、と。
「ところで。先ほどミアから無理矢理食べさせられたあの青色の金平糖。これは解毒剤ということで合っているのか?」
「はい、合っております。ですが『真の姿をさらけ出す薬』とも呼ばれております」
「なぜ?」
「赤色の金平糖で操られ、青色の金平糖でそれが解けるから。本来の自分に戻る、という意味ですね」
「なるほど……」
そこでリシャールはセシルをじっと見つめ、「セシル」と彼女の名を呼ぶ。
「なんでしょう?」
「愛している。これからも私の婚約者でいてもらいたい。いや、それは学院を卒業するまでだな。卒業したら、すぐにでも結婚したい」
「あら。リシャール様にはどうやら『真の姿をさらけ出す薬』が効きすぎたみたいですね」
セシルが微笑めば、リシャールも「そうかもな」と答えた。
【完】
とうとう共通プロットで5作も書いてしまいましたね。
〆切り直前に書き始めたため、こちらでの投稿です。
それではまた、次の作品でお会いしましょう。