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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔法の蒼空

魔法の蒼空(そら)

作者: 祥


やっぱり無い。何度触っても、無い。

窓から入る光にずるずると起こされながら、ムクリと重い体を持ち上げる。

起きる時の体ってのは、なんでこう毎日重いんだろうか。いや、重く感じるのは今の体に慣れてないからだ。今の体のせい、そう思うことにする。


ベッドから降りて自室を出る。家は二階建ての一軒家で、結構広い。


階段を降りて洗面所に向かい顔を洗う。

濡れた長い髪と顔を、優しくタオルで拭えば、寝ぼけ眼はスッキリと目覚める。


鏡を見れば、タオルで髪を拭いている自分が映る。

それを見てわしゃわしゃと掻き乱すように髪を拭く。

改めて自分の胸に触れる。恐る恐る指を動かし、ムニュリ。


在る。そこには柔らかな感触、豊かな双丘が確かに在るのだ。


「はぁ……」


考えれば考えるほど悲しくなるのでこれ以上はやめておく。


「まだ童貞だったんだぞ……」


タオルを掛け直してリビングの方へ向かう。


リビングとキッチンは繋がっている。キッチンに入りちゃちゃっと朝ごはんを拵える。


今日はスクランブルエッグとトーストだ。

冷蔵庫からたまごを四つ程取り出して手際よく温めておいたフライパンにバターと一緒に落とす。膜が貼ってきたようになったら、一気に掻き混ぜる。


するとふんわりと溶けるようなスクランブルエッグができ上がる。

トースターに入れて置いた食パンを取り出してこれまたバターとジャムを塗る。最後に卵に焼いたソーセージを添えケチャップをかければ完成だ。


余ったスクランブルエッグはフライパンごと冷蔵庫で冷やしてしまえば問題なかろう。


未だにこの体には慣れない。もう二週間も経っているというのに。まるで他人の皮を着て生活をしているみたいだ。姉のおさがりを着るのもなんだかんだ言ってとても恥ずかしい。


自分がもともと来ていた服は殆どぶかぶかで、もう着ることが出来ない。今だって姉のパジャマを拝借している。ハートの水玉模様が入った白いサテンのパジャマだ。奇しくも今の俺とサイズはぴったりで、流石兄弟と言えなくも無い。



自分で作り、自分で盛り付け、席について手を合わせる。


「全ての命と食材に感謝を込めて、イタダキマス。」


たった一人の食卓にて某美食家のような台詞を口にし、その後は黙々と食べ進める。


スクランブルエッグを口に運ぶ。


長い髪が邪魔で上手く食べられないので、髪を耳に掛ける。ここ二週間で長い髪の女性がご飯をこうやって食べる謎が解けた。この動作、結構好きだったなぁ……なんて考えつつ、自分がやった結果、食べるために必要な動作であることがわかった。


自分の自然な女性らしい動作に、男としての意識は半ば諦め気味になってくる。


「美味い」


忘れたいので口の中の料理に意識を向ける。


毎日作ってるんだ。美味しさは保証されている。




「ご馳走様。」


作った自分と食材に言う。お皿は帰ってきてから洗えば良いや、とシンクで水につけてしまおう。


再度自室に戻り、鏡を見ながらセーラー服に袖を通す。

パチッとスカートのホックを止めて裾を少したくし上げる。


そんな自分の行動が、自分自身が女だということを然許りに突き付けてくる。


「ちっ……」


頬を叩いて停止した思考を動かす。


髪を櫛である程度整えて、白いシンプルなヘアピンで留める。

鏡で確認し、乱れている個所をもう少しだけいじる。


靴下を履くために、ベッドの上に腰をかける。


「あっ……チッ……クソが」


足が内股になっている。幼馴染が所作に気をつけろとしつこく言ってきたせいで、最近は意識しなくても内股で座ってしまう自らにまたぞろ屈辱にも似た恥ずかしさを感じてしまう。


指を這わせる様にして白いハイソックスを身に着ける。


ベッドから立ち上がりスカートを再度整える。ベッドの上の鞄を取って自室から逃げるように立ち去り、家を出る前に隣の部屋の姉に声をかける。


「姉ちゃん!飯は冷蔵庫に入ってるスクランブルエッグと外に出てるトーストだからね!じゃあ俺出るから、戸締まりよろしくねー」




家は住宅街にあり、高校までは十五分くらいだ。


そそくさと学校へと向かう。足取りは軽くとはいかず、何かにおびえたような早歩きで歩く。


それだけこの姿を見られることが自分にとって潜在的に恥ずかしいことなのだろう。


しかもたまに下半身を気にしながら歩いているから、ちょっと変な歩き方になっている。


「よっ葵!」


背中の方から自分の名が呼ばれる。

俺を呼んだ声の持ち主は金髪、ピアスに学ランをボタンを留めずに着ている。


そんないかつい見た目の彼の名は「川崎光一」


めんどうくさいけど光一のほうを振り返る。


「なんだよ光一。わざわざ呼び止めてさ」


「いや、ただおはようって思っただけなんだけど……」


「ん、おはよう。これで満足?じゃあ俺は行くよ。」


早歩きで光一を置いて行こうとしたら、同じ道を追いかけてきた。


「なんでついてくるのさ! 」


「そりゃ行き先が同じだからだろ……?」

当然。という顔でいう光一。俺は言い返せない。


「…… 確かに……」


俺と光一は同じ学校、静谷学園に通っている。

俺の名前は山科(やましな) (あおい)

見た目は女、頭脳は男。腐れ縁の親友と騒がしい幼馴染、一人の姉を持ち、もはや通学路でさえ恥ずかしい男…….だった者。


そんな歪な状況に至った時間は、おおよそ二週間前に遡る。




九月終わりの帰り道。

一人でぼっーと家に帰っていた。


今日の夕食は何にしようかなーとか数学だるかったな。あ、課題あるやんうわ……などと考えつつダラダラと家近くの大通りを歩いていた。


ふと喉が渇く。少し行った商店街で飲み物でも買おうかな……


目についたコンビニに立ち寄りお菓子と飲み物を買おうと飲み物の棚に手を伸ばす。


「「あ」」

誰かと手が触れる。


「す、すいません」


口からするりと出るのは日本人らしい謝罪。

それもそのはず手が触れてしまったのは一目見るだけであまり関わりたくなくなる見た目の青年だった。


「いえオレこそ……」

ガラの悪い青年も見た目にそぐわず謝ってくる。


「ん……?」


睨みつけながら顔を近づけてくる。何か阻喪しただろうか。覚悟を決めたその時


「あれ!? お前……もしかして葵か⁈」


俺をジッと見つめて「そうだよなあ!え、違う?違うの⁈」などと騒がしくしている。


というか俺こいつ知らないんだけど。何こいつ、めちゃくちゃうるさいんだけど。なんで俺のこと知ってんだこいつ、知り合いにこんな陽キャっぽいやついねーよ。


「あの…… 何処かで知り合いましたっけ、俺……?」


正直に言う。


「どこかで何も、オレだよオレ! 」


「オレ……と言われても……一体詐欺か何かですか?」


「ぐっ……まじかよ……」


ダメージを受けた青年は膝を抱えて凄くしおれた。なんかさっきから見た目とは違いすぎる行動をしてて親近感が湧く。


「ん……? そうか!この見た目でわかるわけないもんな!」


青年は一人で納得して勝手に持ち直した、と思ったらいきなり前髪を上げて


「ほら、オレだよ、光一!川崎光一! 」


おでこを見せつけてくる。その右側にはちょこんと傷跡があった。


「えっ光一⁈ マジ? マジで光一なのか!」


見た目は昔とだいぶ変わっているが、考えてみるとその顔つきや声、中でもおでこの傷跡はその親友のものと面影が似ていた。


間違いない。彼は川崎光一だ。

「久しぶりだけど、お前そのカッコどうしたんだ? 」


「いやぁ…… 俗に言う高校デビューってやつだな……」

もう一度まじまじと光一を見る。


ド金髪。ピアスにズボンから出たワイシャツ、前を閉めない学ラン……


「よく見ると学校同じじゃん。」

学ランには自分のものと同じ校章がついていた。


「お? ほんとだ。同じだったのかよ!」

光一も気づいていなかったようだ。


二人で騒いでいると、何やら視線を感じ始める。

光一も同じで周りを見ると、店員とその他客から訝しげな目で見られていた。


そういえばココ、コンビニでした。




飲み物を買ってそそくさとコンビニを退散する。


「一年半も同じ学校にいて気づかないとはなぁ……」

光一は少し悲しげに言う。


「そんなに変わられれば流石に気づけないだろ。」


「そんなもんなのかなぁ……」


金髪がしなっと折れる。


「お前はあんま変わってないよな」

「……そうだな」


「「……」」


「家は変わってねぇんだろ? 」

「うん、まぁ……」

「昔よく二人で遊んだよな…… お前の家で。ほらイナビカリナインとか、ほら野球ゲームの。」

「そんなのもあったなぁ……」


夕日差す住宅街にて懐かしい話に花を咲かせる二人であったが、会話はどこかぎこちなかった。


「………… 今度また、遊びに行ってもいいか……?」

間をおいて光一がまた口を開く。


「ん、いいよ。」

二つ返事で返す。というかダメなわけが無い。


「ほっ…… ヤダって言われたら俺死んでたわ……」

萎れてる金髪は少しだけ立ち直ったようだ。


二人で積もる話をしながらのんびり帰る時間。何時ぶりだろうか。しかし、昔と変わらないような気持ちになるこの静かな時間は、ここで唐突に終わりを告げる。

ドガーーーーーン……!!!


後方、さっき歩いてきた方から爆発のような、或いは崩落のような大きな音が聞こえてきた。その音に混じり、悲鳴も大きく聞こえてくるようになった。

後ろを振り向くと、そこには高く立っていたはずのビルが半ばから崩れ始めていた。


ゴゴゴゴ……ズズーーン…………!


完全に落ちた。遠くからでも見える舞い上がる砂塵。


向いた方向から全速力で走ってくる人がちらちら見えてきた。


――何が起こっているんだ――


思考が止まった。どうする。どうする。

見つめ合う。頷き合う。取る行動は一つ。



俺も光一も昔から、こういう事には首を突っ込みたい性分なのだ。

野次馬ってわけじゃない。ただ、何が起きているのか、今自分に何が出来るのかを確かめに行くのだ。


「行くぞ」


「わぁってるよ…… でも葵、お前よくそんな冷静にいられんなぁ」


「違う…… パニクってもうどうしようもない状態なんだよ…… とりあえず行くぞ!」

俺は光一を置いて走り出す。


「あぁちっとは待てよ!!」


グチグチ言いつつ光一も急いで後から追って来る。


対面から逃げてくる人々を掻き分けながら前に進む。

騒ぎの中心に近づく事にどんどん人も多くなっていく。


パニックに陥った彼等は揉みくちゃになりながら我先にと他人を押し退け合う。まるで死が近づいているように彼等は急ぐ。

その場を早く離れなければ……! という危機迫った表情がそれを如実に語っている。


スガガッ……


何かが這いずる大きな音が聞こえる。


ズダダ……ズッズッ……


段々大きくなってくるように感じる。


人混みではぐれた二人は、結局押されすぎて動けなくなってしまった。


そして、身動きが取れない状態で人々の恐怖の理由を知ることとなる。


五十メートル先くらいのビルが崩れ、俺と光一に命の終わりが近づく感覚が這い寄ってくる。


そこから、夕日の影と一緒に何か蠢くものがちらりと見える。


「うわぁぁぁああ!!!」「キャーー!!」「来るなっ…… 来るなぁアアア!!」


人々が一斉に引く。俺達はそこに取り残された。


まだ他に取り残された人もいるが、そんな人たちも直ぐに立ち上がり逃げる。


けれど…….ビルの方に視線が囚われて立てない。光一もそうだった。


そこにいたのは黒く巨大なミミズのような怪物であった。


血が固まったかのような色の巨大ミミズは街を破壊する勢いで進む。進み続ける。


崩れる建物。百二十年以上続く地元の老舗も、さっきまでいたコンビニも、小さなオフィスビルも、怪しげなバーと探偵事務所も。


全てがなくなっていく。


家屋も幾つも壊れ、その度に悲鳴が木霊する。


「なんだ…… なんなんだよあの怪物はぁ!!」


光一の慟哭が響く。


俺は呆気に取られ、またその圧倒的な大きさと力に打ちのめされていた。

人を助けに来たりしたんじゃなく唯死にに来たのだと。そう痛感せざるを得なかった。


黒煙が上がっている。でも動けない。すぐ近くから何かが崩れた音がした。目の前に瓦礫が落ちてきて、逃げ遅れてた人がちょうどグシャッと潰れたのが見えた。


ミートソース作る時のトマトみたいに。


「えッ……」


瓦礫の下から赤い汁がジワジワ流れてくる。

それは俺のところまで到達して……


「うえッ…… エッ… げっ… ゔっぐぇ"…」


動けない。俺は口から何かを出した。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。


生々し過ぎる死に様に蹲り嘔吐する俺の背中を光一はさすって吐き気を和らげながら優しく話しかけてくれる。


「ぐっ…… 大丈夫か葵……  俺たちも早く逃げねぇとやべぇぞ…… 死んじまうぞッ!!」


一緒に立ち上がろうと言う光一。


彼は俺を置いてこうとは決してしなかった。


二人で必ず生き延びるという熱い決意が漲ったその顔に、俺は勇気を貰えた。

かろうじて光一に支えられながら立ち上がり、ゆっくりとその場から離れる。


けれど遅かった。横から黒ミミズの後部が小さなビルを崩して現れ、支え合いながら歩く頭上にはその瓦礫が重力に引かれ落ちてきていた。



時間がスローになる。俺は走馬灯を見る。生まれた時から今まで、これを避けることが出来る知恵がどこかにあるだろうか、いやないだろう。


ならどうする。どうすればこれを解決できる。


[問題]4択(1つだけ選びなさい)


1.瓦礫が自分たちに当たらない


2.突然スーパーパワーに覚醒してパンチで瓦礫を崩す。


3.誰かが横から助けてくれる。


4.現実は非情である。このまま死ぬ。


俺が望むのは当然1か3だ。でも1は不正解だと確定している。それは瓦礫が頭上にあるからだ。重力は一定方向にしか働かない。


3は……一番嬉しいが、現実的じゃない。2番と同じだ。そんなものはフィクションでしかあり得ない。



そう、正解は4だ。避けようのない運命である。

俺と光一はここで人生の幕を閉じる。こんなわけがわからないものに首を突っ込み、それに呑まれて死ぬ。襲われもしない、ただ通りかかっただけで死ぬのだ。

実にくだらない終わり方だ。そう考えれば考えるほど笑えてくる。


ごめん姉ちゃん。もう飯作ってやれないや……


目を閉じる。自らの死を目の前にその時を静かに待つ。


一秒、五秒、十秒。どれだけ待っても衝撃や痛みはない。即死なんだろう。


死んでも意識はあるもんなんだな。ちょっと驚きだ。目とかいう概念はないと思うけど、とりあえず目を開けてみる。


そこには赤く潰れた自分が……いなかった。

自らの体は未だ五体満足で残っている。そして眼前に広がる景色は夢かファンタジーか、全てが停止していた。


逃げ惑う人々も、砂塵や巨大ミミズも頭上の瓦礫さえも、全てが止まっていた。


今動いているのは俺と横の光一だけだ。

光一は目をつぶってガタガタ震えている。


つんつん……つん。


つついてみる。ビクッ……肩が結構な勢いで動き、光一は目を開けると、頭上を見て音もなく口を大きく開けて後ろに大きく後ずさる。


「な、なんなんだこれ……」


光一が呆気に取られながらゆっくりと言葉を紡ぐ。


「時が止まってるみたいだね……」


静かな世界に立ちすくむ。


「面白いでしょ?」


静寂を切り裂く声が響く。

自分達の物でない声の持ち主を探して周りを見渡す。すると、


「ここだよ」


上から声がする。二人同時に見上げる。

すると白くて兎っぽいよくわからないような白いちんちくりんな生き物?が葵達が潰されそうになった瓦礫の上に立っていた。


「僕の名前はエスティ。ねぇ君、世界のためにさ、僕と契約して戦ってよ。」

どこかで聞いたことのある殺意が湧きそうなセリフをちんちくりんな生き物が喋った、喋った。喋った。


「「うわァー! 「ネコが」「兎が」喋ったァあーー!!」」


「ネコだろ」

「いや兎だろ」

光一と意見が食い違った。いやあれは兎だと思う。


「君達、今はそんなことどうでもいいんじゃないかなぁ」

謎の生き物は澄まし顔で言う。


「「マタシャベッタァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!!」


「ねぇ。さっきも話しかけてたでしょ……? 遊んでるの? 本題入れないんだけど。」

謎の生き物。改めてエスティは呆れているようである。


「で、なんだ…… 戦う……? 契約……? 戦うって、まさかアレと?」

光一が聞く。


「そう。アレと戦ってくれるの?」


エスティとかいうちんちくりんなのがよく分からんことを言う。


というかさっきから現実感が一ミリもない。俺が死ぬ前に見ている夢ってのが関の山だろう。


まぁきっとそうだ。だからとりあえず否定しておこう。というかあんなものと戦えるわけが無いのだ。



「戦えるわけがないだろ…… あんなと。」


それに同調するように光一も淡々と続ける。


「確かに……俺らは超人じゃない。」


「確かに今なら絶対に無理かもね。でも、それを可能にするのが魔法の力と、キミの持ってる封印の力なんだ。」


謎の生き物エスティは「キラッ☆」っとウィンクしながらそう言う。


非常にムカつくのは何故だろう。


「おぉ! じゃあこの俺にそんな封印の力が……」


「あーキミじゃないよ。」


「あがッ……」


キラキラ瞳と金髪を輝かせた光一君。謎の生物に敗退。試合開始一秒でTKOです。おつかれさんでしたァ!


ん……? しかしとなると…… 

こいつの文脈的と今の客観的状況を捉えるに封印の力ってのは……


「その力を持ってるのはキミさ! 山科 葵クン!」


「はぁ…… やっぱり……」

それしかないよなぁ…… マジか…… 


現実感はない話だと思いながらもさっきから何度も自分で自分をつねっている。

痛いのだ。痛くてたまらない。現実であることに間違いがない。そう証明されつつある。


「で、俺戦えないんですけど……運動神経ゼロだし」


握力は女子以下、筋力は腹筋と腕立て三十回で限界。リレーは戦力外、徒競走は万年ビリの椅子を温めている。そんな奴が戦えるわけない。


それに……


「大丈夫だよ。運動なんてもの出来なくても。というか僕の魔法の力でバックアップするから、イメージさえ出来ればなんでも出来るよ。」


「嘘だろぉ……」

誰でも戦える系の装備かぁ……


「どうするんだい? キミは今、選択肢を突きつけられている。キミたちは恐らく、このままだと死ぬだろう。どんなことになっても、きっとあの怪物を倒す人なんて現れないよ…… 僕との契約以外では、ね。」


「別に俺じゃなくても他にもいるだろ!その……封印の力ってのを持ってる奴は!」


「いるかもしれないね。だいぶ遠くとか、未来とか。その力は誰でも持ってる物じゃない。選ばれた特別な力なんだ。はっきり言っちゃうとその封印の力を持つのは、陰陽師の子孫だけ。陰陽師の子孫なんて、この世のどこにいるかわからない。しかも封印の力はまちまちだ、例えば既に力が失われている家系さえある。そんな中でキミは最強の陰陽師、「安倍晴明」の血を色濃く継いだ一族の、そしてその封印の力と魔法の力の適性が一番高い人間なんだ。キミは、戦う力を持っている。そして、キミが1番上手く戦えるハズなんだ。でも、それでもキミは戦うことから逃げるのかい?」


「それは……」


言い返せない。何も言えない。死にたくない。さっきの光景が目に浮かぶ。

目の前で人が潰れた、あの光景。


何も反応できなかった。断末魔の一言も聞こえなかった。


それほど一瞬だった。戦えば、俺もあぁなるんじゃないかと、恐れだけが心の中でぐるぐるする。戦うことは、怖い。

けど、自分にできること、自分にしか……


「それは、卑怯なんじゃないか……?」


俺が言葉を失う中、光一がエスティに向かって言う。

「どうしてそう思うんだい?戦う力がある者は、戦うべきなのでは無いのかい?」

エスティは淡々と続ける。


それに反論するように光一も静かに、しかし声には熱を入れながら言葉を紡ぐ。


「そういう風に避けられないようにするのが卑怯ってんだよこのネコモドキ。俺たちは死んでも……」


ダメだ。光一にそれ以上言わせちゃいけない。「死んでもいい」なんて事、絶対にあるもんか。ないんだ。そんなこと。こんなとこで死んでいいわけがない。


誰一人、こんなことで命を奪われちゃいけない。俺の、義務なんだ。助ける力がある人間は、人を助ける。俺にしか、出来ないことなんだ。


正義なんてものはどうでもいい。俺はそう考えていた。でも助ける力があるなら、助けていいなら。きっと……


「俺たちは死んでも……!」

良い、と言おうとしたその時。パシッと光一の手首を、俺は掴んでいた。


「そんなこと言うんじゃねぇよ!」


「どうしてだよ!」

「わかるだろ!俺のために…… 俺の気持ちなんかのためにお前まで死ぬ必要なんてないんだよ……」


「お前……」


光一は悲壮な面持ちで見つめる。


「最初から俺が受け入れればよかった。光一にあんなこと言わせるくらいなら、戦う覚悟くらいさっさとすればよかったんだよ。」

そうして光一の肩を叩いて前に出る。


「覚悟は決まったの?」


「ああ。」


エスティの問い掛けに力強く頷く。


「戦ってくれるんだね。」


「そうだ。戦って、守ってやるよ。この街を、俺にしかできないなら、俺がやるしかないじゃないか。」


「わかってくれたならいいよ。キミしか居ないんだ。力を上手く使うことが出来るのは。もうそろそろ時を止めるのも限界だ。力についてこれから説明を始めるよ。」


俺は黙ってエスティを見つめる。

光一も真剣な表情でエスティを見る。少し睨みが入ってる気がしなくもない。


「いいかい。僕との契約は、キミに魔法の力を与えるんだ契約の際、少しばかりキミの姿が変わるが気にしないで欲しい。力を使うための最適化ってやつだ。武器はキミが念じれば出てくる。それを握って戦えば、自動で武器がキミの封印の力を引き出してくれる。陰陽の御札のような力が攻撃に備わるから、攻撃してくれるだけで敵を倒すことが出来る。魔法の力は感情によって高まるから、何か強い想いを抱きながら戦って欲しい。説明は以上だよ。」


結構な量を早口で言われ、六割くらい理解できなかった。

まぁ要するに、武器想像して、力出す感じで戦えって事でいいだろう。


「もうそろそろ時間が動き出すよ。僕と契約を結んで、力を手に入れたら、まずキミたちの頭上の瓦礫の排除からだ。キミたちは今動いてるように見えて、それは精神だけだからね! 早く破壊しないとキミたちが死んじゃうから、気をつけて!」


「「えっ」」


俺と光一の声が揃う。


「おいおいっ! って事はこれは現実じゃなかったって事か⁈」

もしかして本当に死ぬ前の夢⁈


「紛れもない現実ではあるよ。キミたちの精神上はね。周りの時が止まっているのに、キミたちだけ動かすなんて器用な事、僕には出来ないから精神だけ動かしたんだ。これなら負担が少なくて済むからね。だからキミたちの本体は未だに命の危機なんだよ。」


精神だけって事は、今俺たちが見てるのは精神世界ってことか…… 滅茶苦茶あぶねぇじゃねぇか……


「わ、わかった…… じゃあ取り敢えず瓦礫壊してから、アイツに攻撃しに行けばいいんだな。」


「そう。頑張ってね。あっそうだ、くれぐれも死なないようにね。戦えるのはキミしかいないんだから。」


エスティは小さな肉球付きの掌を出す。


「ボクの掌とキミの掌を合わせるんだ。それが契約の印の様なものだよ。そこから先は後戻り出来ない。いいね?」


エスティは告げる。


「何度言わせればわかる。もう覚悟は済んだんだ。今更引き返せるかよ。」


「ふふっそれもそうだね。じゃあさっさと契約を交わそうか…… この契約が交わされた瞬間、ボクは時間停止を解く、契約時は少し苦痛が伴うから気をつけてね。」


身震いする。エスティの伸ばされた手に向け、俺も手を伸ばす。そっと掌を合わせる。ぷにっとした幸せな感触を感じつつ、周りの白黒な世界に段々と色が戻ってくる。


エスティがそっと口を開く。


「ここに契約を交わす。封印の力を宿しし者、魔の力をも支配せん。我、魔の使いなり。我が名エスティクスの名のもと彼の者に今世との訣別を、果たす契を誓約とせん。今、陰陽の呪を刻む!!」


契約の詠唱が完了したその瞬間。自分の全身に紋様が刻まれたのがわかった。そしてそれは同時に赤く光出し、俺の全身という全身の内側から骨が突き出してくるような痛みに襲われた。


「あぁぁぁぁぁぁぁッ!!! ぐッ…… ぎぃいいいいい!! がァァァァァァァァあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」



「大丈夫か葵⁈」


光一の声がする。どんどん遠ざかる。


思考が出来ない。熱い。熱い。熱い。熱い。全身が煮え滾るように熱い。伸びたり縮んだり、記憶が曖昧になり、意識が霞む。何が起きているんだろう。何も見えない。眼球の裏側から押し出されるような血の流れを感じる。何も聞こえない。永遠に耳鳴りの様な酷い音が俺の耳に鳴り響いている。胸が引き裂かれるように痛い。何かが広がるようだ。頭も割れるように痛い。脳がそのまま飛び出すかのような痛みと熱さだ。何かを焼き付けられているみたいで気持ちが悪い。



痛い。熱い。痛い。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわわわわわわわわわわわわわわ----------------




一体どれだけの時間が過ぎたのかわからないような感覚が段々と薄れ、世界を認識出来るようになって来た。体の感覚は、軽い。魔力の力というものを感じる。まだ身体全体が熱いが、そろそろ慣れてきた。


フッ…と風の流れの変化を感じて目を開く。

世界には完全に色が戻っている。と、いうことは


「まずは自分の身を守れ!!」

エスティの声がする。遠くから聞こえるからか少し違うように聞こえる。


「ハァッ!!」

俺は目前の瓦礫に向かって回し蹴りを叩き込む。


「うへぇっ!」

横で膝を付いている光一の頭を掠めながら、突風を巻き起こした自分の足が降って来るコンクリートを打ち崩す。


「す、すげぇ……」


自分の力に驚く。ん……?何か今自分の声が変だったような。


「んッ…… んん…… ッあー……」


エスティ見たいな甲高い声が自分の喉から鳴っている。

もしかしてさっきの声って……


「オレの声かぁぁぁぁぁぁぁ⁈」


思わず心の声を出す。


「おいっ! おいっ! 俺どうなってる⁈ おい⁈」


「うわっうわうわうぇっ」

頭を痛そうに抑えてる光一をブンブンと揺さぶる葵。


「ふぁおひっ!! はめふぇっ!! てぃぱらっ!! とぅをいからっ!!」


「あっゴメン……」


パッと光一から手を離す。


「ぶぅるるぅるるんっ!!」


揺さぶられていた光一は突然手を離されたことにより行き場の失った慣性で、超速メトロノームみたいになった。


「で、俺どうなってる……⁈」


光一に聞く。すると光一は俺をパッと見て、そして一瞬で目を見開いて言う。


「お……女の子になってる…… ぜ⁈か、鏡見てみろ!」


そう言うと光一は鏡を渡してくれた。


そこに映っていてのは綺麗な金髪は毛先がピンク色になっていて赤のシュシュにレースが付いたもので縛ったポニーテールとなっている。服はピンクと白のザ・魔法少女と言ったような、胸にピンクのリボンがあしらわれ、腰にはレースリボンがヒラヒラとついている。星のマークが所々にちりばめられている。

スカートは短く、白いパニエで隠す事でその中を見事に隠している。


胸は……綺麗に膨らんでいる。なんというかデカくもなく小さくもない。そう、綺麗なのだ。


胸に感じる違和感。魔法少女らしいヒールブーツは、慣れていないはずなのに身体が勝手にバランスをとることで自然になっている。身体がもう知っている、ということなのだろうか。


そしてなにより……股間。股間がスースーするのだ。

スッ……とスカートに手を入れて弄る。そこには、何も無かった。

何も無いッ!!何もッないんだッ!!


ましてや自分が履いていたパンt……これ以上は何も言うまい。


自信と尊厳が心から消える。何か本当に大切なものを今俺は……


「どうかな?僕の力は。」

ニッコニコのエスティが話しかけてくる。クッッッソ殴りたい。


取り敢えず無言で睨んでおく。

「いやだなぁ。そんな顔向けないでよ怖いなぁ…… 少し泣いてるし。」


「なっ泣いてないし!! 別に、こんなん言われなかったからって!! 姿が変わるっつってもこれは想像してなかったからって!! くそぉ…… 俺は、これからどう生きれば……」


「葵ッ! なっ葵、強く生きろって…… ほら可愛いから! 落ち着け!」


「可愛さなんていらないからぁ!! うっ…… まだ童貞だったんだぞ!! くっそぉ…… ズッ…… ぐぅ…… まだ三十超えてねぇのに魔法使いになっちまったぁ……」


男の象徴。象さんを失って、代わりにふたつの山ができたんだぞ!!落ち着いていられるかッてんだ! そう心の中で大暴れしていると、自分の存在を忘れるんじゃない! というように巨大ミミズが横のビルから顔を出して来た。


大通りは最早元の面影もなく崩壊している。


「………………」

瓦礫の山にて首をもたげてこちらを見る巨大ミミズ。


うざいから巨大ミミズを見上げて八つ当たりで睨む。


「お前が出てこなければ…… お前が!!」

後ろ足を引く。飛び出す構えから弓を引き絞り放つように、溜めた力を一気に解放する。


ズダンッ!!踏み込められた脚の大きな力が行き場を失ったかのように拡散し、アスファルトが月のクレーターのようにグシャッと凹む。


瞬間。俺の身体は空中へと投げ出された。


「うぉおっ!!」


ヒュンヒュンと耳元を凪ぐ風の音に、自分が高速で空中へとジャンプしたと気づく。

地面を見ると、軽く二十メートルは飛んだようで魔力の凄まじさをこれ程というまでに知らしめていた。


「力み過ぎって事かよ……」

段々と迫ってくる地面が怖くてたまらない。これぞ、本当のフリーフォールなのだから。

しかし、着地をどうするか。


八メートル……五メートル……三メートル……鼻先。


「うわうわうわうわうわうわうわうわうわぁぁあ!!」


落ちた。頭からしっかりと落ちた。


地面に頭が突き刺さり、自殺する人間が飛ぶ高さをゆうに超えた高さから、減速せずに落ちた俺の体は、しっかりと五体満足健康そのもの外傷かすり傷一つなしだった。


「生きてる!!」


空いてる両手で逆立ち状態の身体を起こす。


「ぜんっぜんっ痛くない!!」


魔力により防御力も相当上がっているようだ。


けれども、こんな自由落下はもうしたくないわけで。


「今度はしっかりと調整して……」


軽く足を引き、トンッと鳥が羽ばたくような軽さでジャンプする。


「ほっ……たぁっ! でやァァァァァっ!!」


上空へと飛び上がりくるっと回転して……巨大ミミズの頭をーー


「これでもっ!! くらいやがれぇえ!!」


正面から思いっきり横に蹴った。


「ギシャァアアアッ!!」


巨大ミミズの横っ面は凹み、瓦礫の山に倒れ伏した。


空中からシ○ク・○・ソ○イユのようにスタイリッシュに落ちてきて着地。キマったぜ。


「…………ふぇ」


光一が口をあんぐりと開けて何も言えなくなっている。


「すげぇ…… この力スゴすぎるッ!! まるで自分が自分で無いような…… 俺、あの怪物と戦えてる!!」


「まだ浮かれるのは早いよ。アレ、封印できてないからね。」


「そうか、封印しなきゃならないんだよな。封印をす武器とるには、確か武器を想像して、それで攻撃するんだよな!」


武器……武器なら剣だ、剣がいい。刃が飛ぶような、中遠距離同時に攻撃出来るものが理想だ。


「武器を想像したら手を構えて、そこに武器があるかのように握りしめるんだ。それで武器が出てくるよ。」


「サンキューエスティ。色々ムカつくけどナイスアドバイス!」


「さっきから失礼だと思うんだよね。」


葵は早速言われた通りに武器を想像しながら手を握りしめた。そこには、ピンクと白のリボンと銀色の五芒星の装飾がついた綺麗なステッキが現れていた。


「----------------!」


こういう見た目の武器かあ……


「剣想像したよねぇ! け、けんじゃないよねこれぇ!!」


ガバッと脱兎の如き速さでエスティに向き直る。


俺が握りしめているのは可愛い可愛い魔法のステッキである。


「いや、剣だよ。そのステッキは魔力によりキミの想像通りの力を発揮するんだ。だから自由に戦うといいよ。」


「はぁ……」


手元のステッキをちらと見てこんな物を振るう自分が悲しくなるが、格好からしてもう後戻り出来ないから仕方がないと思うしかない。


「使い勝手だけは良さそうだな。」


ステッキをクルっと手元で回す。両手をあてがえ構える。



「こんな恥ずかしいの脱ぎたいし…… さっさと倒しますか!」


「キシャァァァアアッ!!」


涎を垂らしながら突然現れた脅威に向かって真っ直ぐ突進してくるミミズ。


「気持ち悪いんだよ!」


ステッキを横に薙ぐ。想像するのは剣から魔法の刃が飛ぶ姿。マ○ターソー○みたいなもんだ。


軽快な斬撃音を上げて想像通り矢の速さで飛んでいく斬撃。


刃は直進してくるミミズに当たり、そのまま身体に傷をつけた。


しかしそれほどのダメージでは無かったようで、直進は止まらない。


「ま、そう簡単にいかねぇよな。」


「シャアッ!!」

ミミズの噛みつき攻撃が来る。


息を吐いて素早く後ろに引いて躱す。


タンッタンッと華麗にステップを踏むたびヒールの音が鳴る。


ミミズは更に噛み付いてくる。


「シャッシャッシャアッ!!」


「ふっ……ふっ……でやっ!」


同じようにステップで躱した葵は引いた瞬間に噛み付いたミミズの隙にまたも飛ぶ斬撃を叩き込んだ。

それはミミズの頭にクリーンヒットし、怯ませることに成功した。


「この飛ぶ斬撃、そろそろ名前が欲しいなぁ…… どうしようか……」


着地してから腕を組んでそんなことを考える葵。


当然そんな隙にミミズは起き上がり、その長い身体を今度は鞭のようにして叩きつけようとしてくる。


葵はその場に留まりながらまだ考えている。


「葵ぃ!! 避けろぉ!!」


光一の叫び声が聞こえる。「大丈夫♪」と光一に向かってウィンクする。


「葵ぃい!!」


超質量の鞭はそのまま身体に吸い込まれはせず


「はあっ………… 見え見えだっ…… つっーの!!」


ミミズの体をそのまま両手で受け止めて、くるりと空中へと

投げ飛ばす。


「名前決めたぜ! この技の名前は、飛閃撃だ!!」


ステッキを五度素早く振るう。飛翔する閃く斬撃達は抵抗出来ないミミズに向かって真っ直ぐ飛び、その身体を大きく傷つけた。


しかし、対空中のミミズはまだ倒れない。こちらを睨みつけてきているように思える。


「ちぃっ…… これでまだ倒れねぇってのかよ……」


高すぎるミミズの防御力は飛閃撃じゃ突破できない。どうすれば……


「そんな時は力をめいっぱい込めるイメージをして何か技を出してみて。名前なんかもあると、やっぱり力は強くなるよ。それをみんなは必殺技って呼ぶんだ。」


「必殺技ねぇ…… よし!」


思い切りステッキを握りしめる。


思い出すのは今まで見てきたアニメとか漫画の強力な魔法。


そういうもんには詠唱が付き物だ。


だいたい魔法というものはより詠唱が完璧であるほど威力が上がったりするものである。実は少し練習したり、オリジナルのものを考えたことがあるのだ。


中学校時代の黒歴史がこんなとこで役に立つとは……考えものである。


イメージは、神をも貫く光輪の矢。


「太陽よ! 我は潔白の身なれば、その力を我に貸したまえ!我が左手は弓に番え、我が左目は標的を射抜く!」


空に向けて構えたステッキに、詠唱のフレーズが追加される度にエネルギーが溜まっていく。葵はさらに続ける。


「岩壁を貫き、天をも貫く其の一撃を今此処に!」


ここでエネルギーは最高潮に達し、弓になった魔力の塊を持ち、ステッキを矢のように引く。


「現出せよ……「穹を裂く(ペネトレイト・)永遠の煌輝(ゴッド・ハート)」!!」


その銘を口に出した瞬間、地上からものすごい光が溢れ出した。


そこから発射された魔力の矢は、封印の五芒星を浮かべてミミズを貫いた。

その矢の速さは、その名の通り神をも貫く神速の速さを持った矢であった。


大穴の空いたミミズは空中にて崩壊を始め、やがて地上に落ちてくるまでに完全に塵となり消えた。


「倒しちまった……」


本当に何が何だか分からないと言ったような顔の光一。


そんな光一をよそに、俺は非常に上機嫌であった。


なにせ自分がスーパーヒーローのように巨大な敵を打ち滅ぼしたのだから。


「なぁ!見たか⁈ 今の見たか! 俺の活躍っ! いやぁ……まさか自分で考えた技をこうも出せる日が来るなんてなぁ…… いや戦うのが怖いとは言ったが、何はともあれ少し嬉しいかもしれんぞこれはぁ! フォッフォ〜ゥ!」


「は、はぁ……?」


もう頭が追いつかない光一は頷くことしか出来ないようである。


「おめでとう。まずは一体、封印することが出来たね。」


「おうよ! どうだったか? 俺の活躍! 最高だったろぉ!そうだろぉ…… え、まずは一体……? まずは一体って言った今?」


「そうだよ?」


「えっ…… じゃあこんな怪物が他にもいっぱいいて、俺はもしかしてそいつらも倒さなきゃいけないってこと……なのか?」


「そうだよ。」



「がっ…… あがが…… ち、ちなみにあと何体何だ……?」


「今一体封印して、全部で百八体いるから、残りが百七体だね。」


「ひゃっ…… ひゃくななぁ!! それそんなにいて、俺戦う時毎回このカッコなのか……?」


「そうなるね。」


「終わった……」


膝の力が抜ける。


「ほらほら、葵ー 起きろー、おーい…… 死んだわこりゃ。」


光一が何とか立て直そうとしてくれているが、男の尊厳と青春を失った俺には届かない。


マジごめん。


「まぁそういうことだから、今後ともヨロシクね。」


やはりこの謎生き物、なんだか少しイラつく要素が多い。というか俺に感謝しろ。


「で、さっきのあれ、一体なんだったんだ?」


ショックから少し立ち直ったのでエスティに尋ねる。


「あぁ。あれは妖怪。太古から日本に蔓延る、百鬼夜行ってやつだよ。昔から陰陽師と呼ばれる人達が魔法の力と封印の力を重ね合わして三百年に一度封印してきたんだ。だけどその封印の力は陰陽師の一族しか持ってないわけだね。」


「だから、安倍晴明の子孫である自分がやるってことか。」


「そうなるね。」


「じゃあこのカッコはどう説明するんだよ。」


「それは魔法を使うための契約システムみたいなものなのさ。昔から陰陽師の中でも、魔法の力を使えるのは女性だけ。封印の力を持つのは男性だけとなっていたんだ。魔法の力で弱らせ、封印の力で封印する。二人がかりで奴らを攻略してきたんだ。でも戦闘に向かない女性だったり、封印の力が弱い男性がいたり、不都合が多かった。じゃあ、だ。男性に、魔力を与えてはどうだろうか、と。そう提案がでたんだね。そこで作られたのが僕。このシステム、封印の力を持った男性を女性に変性させ、魔力を扱えるようにした完璧な封印の戦士を作り出す、転遷の契約。魔封じの巫女なんだよ。そして僕たちがいる理由がもうひとつある。僕は亡くなった陰陽師達の想いと力を受け継ぎ、その分魔力が回復する陰陽師という概念の使い魔となっている。三百年に一回、百鬼夜行と戦うために力を尽くしてるんだよ。だから、妖怪たちが暴れて一時間以内に壊されたものは魔法少女が倒した時に修正が始まるんだ。僕の魔力を使ってね。」



その言葉の通り、見渡すと街は今瓦礫の状態から逆再生のように元に戻っていく。さっき潰されて死んだ人も、ミミズに食われて死んだ人も。光一が汚れているのも。


そして自分の変身も解け、俺の姿も元に戻……らなかった。


「おい…… 戻んないぞ? 」


「おかしい。そんなはずはないんだけども……」


「契約の時なにかおかしなところあったかぁ⁈」


「何も無かったはずだよ。」


「じゃあなんで戻んねぇんだよ!! 」


「今理由を…… あっ」


「あって何だ! あーん?⁈」


「過去に1件だけ、同じような状況があるね。 その時は晴明が変身して、晴明は男には戻らなかった。どうやら魔力との身体の親和性が高いと、このような状況になりやすいのかもね」


「じゃあ戻れないってことかぁああ⁈」


「うん。そうなるね。」


「どうしてだよぉおおおおお!!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「で、あるからして……さて宿題は明後日までに……」

キーンコーンカーンコーン……


チャイムが鳴る。授業が終わる。

窓際の席でぼッーと外を見つめていた自分は、次の授業がとても憂鬱だった。


締め付けられるようなブラジャーの感覚、窓から入る風で少し寒いほどのスカート。

自分自身を見れば見るほど違和感に襲われる。


「あーおーたん♪」


ん……?


「おーい、あおたん?あーおーいちゃん!」


「そんな言わんでもわかるわっ!!というかちゃんって呼ぶな!!」


「えーかわいいのにぃ……」


「美晴は俺に裸見られたりするのはいいのかよ。」


「え、ぜんぜんいいけど。」


「…………いいのかよ。」


「そろそろ着替えに行くよ!ほら観念して!」


「うぇ~~」


引きずられる。別に行かないつもりは無かったんだけど、恥ずかしいんだよなぁ……体育。


俺はエスティの魔法により周りの人間、戸籍などへの認識をすり替えた。

生まれた時から「女性」である、山科 葵へと。


でもどうやら幼馴染だったり、女性になったその時一緒にいた広一、一緒に住んでいる姉などには効果はないみたいで、佐竹美晴もそういう俺と関わり合いの深い人物だ。


あおたん、あおたんと昔から女みたいに俺のことを呼びやがるからか、あいつを前にするとなんとなく弱気になってしまう。まるで小動物かなんかに扱われている気がしてならない。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


蒸し暑い。とても蒸し暑い。今まで教室で着替えてたからかわからないけど、更衣室とかいうせっっまい部屋で毎回着替えるのは苦ではなかろうか。

俺はまだ何回かしかここで着替えてないけど、この時間がちょっと嫌になるくらいには嫌いだ。


「ねぇあんたちょっと胸大きくなったんじゃない?」


「やめてよー♪それよりあんたこそ大きくなったんじゃないのー?」


男であるなら、夢のような景色が眼前に広がる。男なら。


悲しいことに今の俺は男ではない。体の影響が心にまで作用しているのだろうか。心の一物すら見当たらないのだ。この目で、女子の、裸を見てるんだぞっ……


くやしさを噛みしめ自分も着替え始める。


「なーんか悲しそうな顔をしているねぇー」


美晴がのぞき込んでくる。


「なぜそんな悲しそうなんだーい?あ、わかったあおたんもおっぱい欲しいんだ」


「そそ、そんなわけねぇだろっ!何言ってんだ美晴!」


「じゃあなんであの子たちを睨むみたいに見てたのかなぁ?あおたんも素材はいいからおしゃれしたら絶対かわいいのになぁ」


「かわいいって俺がかぁ?」


「そうだよ!例えばそのスポブラとか、かわいいのにしてみるとちょっとは変わるんじゃない?」


「そんなの着れるかぁ!このあほぉ!」


「えーせっかくかわいいのに、勿体ないなぁ」


美晴は口に指をあてて言う。


「もったいなくて結構。俺の心は未だ……」


「未だ、なに?」


「なんでもない……」


未だ男だ。そう言い切れる自信が無かった。さっき俺は、やっぱり女の子に興奮できなかった。


自分がこれからどういう風に過ごしていけばいいか、それすらもわからなくなった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


こう魔法少女になった影響だろうか、身体能力が上がったらしい。

前まで超が付くほどの運動音痴だったのだが、今ではバレーボールで華麗にアタックを決めている。


「葵ちゃん凄い!」


「葵ちゃんってそんな動けたっけ?!」


どうやら性別の認識が変わっても運動が出来なかったという認識は変わっていなかったようで、いきなり動けるようになった俺はやはり違和感があるらしい。


それよりも率直に運動が楽しい。スポーツが楽しいとか都市伝説だと思ってたけど、ほんとに運動ができると楽しいもんなんだな。


「山科、お前なんかトレーニングでも始めたのか」


先生まで。前の俺の酷さが良くわかる。


「あおたん凄い動けるようになったよねーもしかして魔法?」


「俺にもわかんね」


「ふーん。そっか」


なんだこいつ……事情は話してないはずなのに妙に勘のいいことを言ってきやがる。

君のような間のいい美晴は嫌いだよ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「さようなら。」


「「「「さようなら」」」」


帰りの会が終わり教室からぞろぞろ人が出てくる。時刻は16時。掃除もないので俺も今日はさっさと教室から出る。


「よっ」


「おう」


教室の外ですでに帰りの会を終えた広一が外で待っていた。ここ最近は毎日そうだ。俺が教室から出るといつも広一がいて、一緒に帰るのが当たり前になってきている。


校門を出るまで、なぜか無言で並んで歩く。


なじみ深い住宅街になると自然と口を開いてしまう。けれどそれまでの無言は気まずい時間というわけではなく、なんとなく心地は良い。


離れた時間を巻き戻して昔の距離へと近づくのに必要な時間なのかもしれない。


少なくとも、俺にはその時間が必要だった。


「俺運動できるようになったんだ。」


「おーまじか、おまえがか?」


「まじまじ。よくわからんが動けるようになった。魔法少女は動けなきゃならんからそこら辺は体を変える時に何かあったんだろうな。」


「ふーんまあよかったな」


こう帰り道に二人で話していると昔に戻ったみたいで少しうれしくなる。


いつもどうりの道のはずが、昔と同じなのに新しい感覚を覚える。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



帰りの会が終わると同時にダッシュで葵の教室、2年2組へと向かう。


「会は……まだやってるな。」


2組の担任の話が毎日長くて助かる。おかげでこうして毎日葵を待つことが出来るんだから。


無言が続く。けれど嫌いじゃない。心が落ち着く。今の俺が今の葵と向き合って昔のように話すには必要なんだ。


だから俺はどこかで昔に戻りたがっているんだ。


あいつと毎日バカやって、泣いて、弱い俺が()()()()()に守ってもらってた日々に。


「広一、聞いてる?」


名前を呼ばれてハッとする。


「あ、ごめん」


「俺の学校の話聞いてきたのはお前だぞ」


「いやまぁそうなんだけどさ。考え事してて、すまん。」


「酷いなぁ……まぁいいけどさ。」


そう言うと葵は伸びをした。


なんだ今のっ……ドキッとした……こいつが彼女なら……


おい、やめろやめろっあいつは男だぞ……なんて想像してんだ俺……


「おーい顔赤いぞ?さっきから大丈夫か?」


「あ、あぁ……ダイジョウブ……ダイジョウブ……」


「そろそろ分かれ道だな。俺こっちだから、じゃな!」


「あ、おうじゃあな!」


じゃあなと言う葵に手を振る。すると葵が振り返った。


「また明日な!」


ヤバい、俺、好きになっちゃったかも。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「あいつ大丈夫かな……顔赤かったけど……」


ポケットからカギを取り出して家に入る。


「ただいまー」


「おかえりおかえりー」


俺のただいまへの返事があった。おかしい。と、いうことは……


「学校どうだったどうだった?」


「姉ちゃん……まずは手を洗わせたりしてくれ……玄関で俺が帰って来るのを待ち構えてんじゃないよ」


「だってー、こんなにかわいいのに俺とか言ってるし、私の面倒も見てくれるし?もうほんとにかわいいなぁって思って?」


「理由になってないよ……姉ちゃん……」


姉は俺の目の前で悶々と何かを語っている。


「はいはいどいてね~」


姉を手でどけながら家に上がる。


手を洗い階段を……


「なんでついてくるんだよ!」


姉はちらちらこっちを見つつ、一定間隔開けてついてくる。


「えーダメ?」


「駄目だよ!俺の部屋だしこれから着替えるんだし!」


「着替えるならお姉ちゃん、かわいいのがいいと思うなぁ」


「はッはぁ?!俺は!そんなの着るつもりはないっ!断じて!」


「それなのに着替え見られたくないの?女の子同士だよ?あっ普通に恥ずかしいんだー!」


「ちっちがっ……恥ずかしいとか違うし……見られたくないわけじゃないから!」


「へー……男の子だったときはあっれだけ堂々と着替えてたのにーあ、もしかして女の子としての意識が芽生え始めちゃったのかなぁ?」


マジでやめてくれ。そういうことを言うのだけはホントにやめてくれ。


「もういいから!早くあっちに行って!ほら、しっし!!」


これ以上余計なことを言う前に姉を強引に押しやり、あっち行けしてから自室の扉を閉める。


「あ~れ~可愛い可愛い妹よ、そんな邪険に扱わないで~お姉ちゃん、何かに目覚めちゃう!」


なにか戯言を断末魔のようにほざきながらその声は遠くなっていった。


なんか疲れたのでベッドに思いっきり寝転がる。


「ふぅ……別に、恥ずかしいわけじゃないし。」


姉ちゃん(あんなの)が近くにいたら休まるもんも休まんないよ……


「姉ちゃんこそおしゃれとかすればそこそこなのにさ。」


そう吐き捨てるように言いつつ、自分のことについて色々考えていたら俺はいつの間にか眠っていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


結局今日はいろいろもやもやしたまま終わってしまった。


夕飯の時も姉ちゃんにいじられるし、俺は俺でぼけっーとしていて今日のハンバーグ焦がすし。


「マジでどうしたんだろ。」


暗い部屋で布団に包まれながら寝付けなくて悶々と考え込む。そんなことをしてももっと眠れなくなるだけなのにさらに考え込んでしまうのがタチが悪い。


「ねよ……」


スッと目を閉じる。体から力が抜ける。休まるのをしっかり体感してこのまま意識が……


「葵!葵!妖怪が出たよ!」


「うーん……妖怪……そんなのいないよぉ……妖怪……妖怪!」


聞き覚えのあるフレーズにバっと布団をまくって飛び起きる。


「起きたかい?葵?」


「あぁバッキバキに目が覚めた」


俺をこんなにした妖怪はぶっ潰さなきゃ気が済まない。


「どこにいる?」


「ここから飛んで十分くらい。まだ被害は出てないけど、今回は大群だよ。」


よーするに殲滅戦ってわけだな。


「オッケー……じゃ、さっさと倒してぐっすり寝るとしようじゃあないか……変身!」


一言で姿が変わる。金髪になり、ピンクの女の子らしい衣装を身にまとった自分の姿がベッドの前の姿見に写された。


「えっ……」


はじめて見た。自分の魔法少女としての姿。こんなにも


「かわいい……」


一言無意識につぶやいた。咄嗟に首を振る。


何思ってるんだ俺は。そんなこと今はどうでもいいだろ、ましてや……


「かわいいだなんて」


自分のことを一瞬でもそう思ってしまったことが恥ずかしくてたまらない。


「いくぞエスティッ!」


この恥ずかしさを振り切る為にも今回の敵をマッハで潰す。


窓から外に出て、一気にトップスピードで飛ぶ。イメージは鳥のようにしっかりと羽を広げて。


魔法はしっかりとしたイメージの方が発動させやすくかつ精度も高くなる。空を歩く方法も考えたが、スピードなら断然飛んだ方が早い。今は飛びつつ空気を足で思いっきり蹴るという飛び方をしている。


なんとなくいつもよりスピードが速いが、俺のイメージセンスも上がってきたってことかな。


「自分に見惚れるのはもういいのかい?」


「うるさいぞ……一瞬だろ…?!」


「ちょっと面白かったよ」


「うっうるさい!無駄口叩くなら置いてくぞ!」


「気を悪くしたならごめんね」


「わかったならよし」


そうこうしている間に現場に到着したようで、邪気を追ってたどり着いた場所は、しっかり墓地であった。というかお墓を埋め尽くす形で大量の骸骨の軍団が街に向かって行進している。


「さて、と……お片付けと行きますか!」


上空でステッキを構えてイメージするはエネルギーの塊の玉。そいつを乱射。


瞬く間にステッキからイメージ通りの光弾の雨が発射される。それらは骸骨を穿ち、どんどんと消滅させていっている。


けど数は依然減らない。しかも仲間が消えるのもお構いなしに骸骨軍は進む。


というか復活してないかあれ。


「はーいこんにちはぁー」


俺の考えを遮るように気の抜けた挨拶が耳を叩く。


そこにいたのは鎌を持ち、骸骨のお面を被りズタボロの着物を着た影だった。


「お前、誰だ。」


「ど、直球だねぇ君は。いいよ。教えてあげよう。ボクの名前は死神。大昔から語られる人を死へと誘う大悪魔さぁ」


「死神、か。」


つ、つよそー……え、勝てるかな。というか自分のことで戦いに集中できない。


「ボクを倒さない限り、骸骨達は息を吹き返し続けるぅ……決して止まらないぃ!そしてボクを倒しても彼らは止まらない。さぁて君に、このボク達を倒せるかなぁ?」


「倒すさ。」


何も聞いてなかったけど、取り合えず全員倒せば勝ちなんだよな。


パッと広域技を選択する。しかし奴がなんとなく言っていた通り骸骨は復活してしまう上に奴自体攻撃はすべて避けられてしまう。


「ちっ……キリがねぇよこれじゃあ……」


そこで自分の黒歴史、厨二ノートを記憶から引っ張ってくる。それと同時にさっきの自分の姿がちらつく。



とりあえず殲滅するための技はあったけど、それよりも。


天を覆う星の力、弾けて敵を打ち抜け。


「俺自分のことかわいいとか思ってないからぁ!そんなの違うからとにかく消えちまえぇー!!!火炎七星(フレア・レイン・)天幕(ラピッドファイア)!!」


目の前が白一面に染まる。熱が粒のように弾けて敵を全て覆う。


「ちょっちょちょっ!なにその技っ!え、ボク巻き込まれる!?なんもしてなくない?なんもしてないよねぇ!!」


光が影を全て覆い尽くした。


そこからは酷かった。イメージの5倍くらいの威力の彗星の欠片が骸骨たちを蹂躙していた。それはもう、かわいそうなくらいに蹂躙だった。明らかにオーバーキル、そこら一体を焼野原のクレーターにするほどの威力があった。


「あちゃ~……やっちゃってるねこれ、まあ修復できるから全然いいんだけどさ。」


「……」


ちょっと威力が強すぎて引いてます。誰かあの骸骨達を助けてやってくれ、アーメン。和製妖怪なんだけどね。


殲滅完了……はいいことなんだけど……


「あの火力は一体どういうことなんだ……?この装備ってイメージそのままを魔力で作り出すものなんだろ?」


「そうだね。基本的には。けど、そのステッキにはもう一つ強い感情を魔力に変換するという特性がある。」


「そんな能力が……」


「今回の場合は強い恥じらいが魔法に影響を及ぼしたようだね。まぁ何に対しての恥じらいかは自分が一番わかってるよね」


「……」


自分がかわいいとか、思っちまった。それは自分にとって予想できなかったことであり、それは異性への可愛いという感想ではなかった。自分の評価として、あくまで「可愛い」と思った。


結局その日は家に帰った後も中々寝付けなかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ジリリリリリリリリリリリ……


「う、五月蠅い……」


目覚まし……鳴ってる……朝……朝か。


目覚まし時計を止めて布団を出る。パジャマのまんま朝ご飯を作り姉の分も置いておく。


「そろそろ行く時間か……」


自分の部屋に戻って着替え始める。すると昨日の姉の言葉がふと思い浮かぶ。


『着替えるならお姉ちゃん、可愛いのがいいと思うな』



「可愛い服、か……」


そういえば女になった日に姉ちゃんから無理やり渡された服があったはず。


タンスの一番下を開けて奥の奥に手を伸ばす。


「しまい込んだあれ……あった!」


出来心で気になってしまった。自分が可愛い服を着ると、どうなるのか。


「姉ちゃんの、おさがり下着……」


水色で白いフリル付き……


今着ている下着を脱いで腕を通す。腕を後ろに回してホックを留める。


下の方も当然ーーーーーー


カタッ……


音?


後ろを咄嗟に振り向く。扉が動いた。


「ッーーーーーーーーーーー」


何かいた!というかこの家にいるのはあと一人だけ!見られた?!見られたのか?!



姉ちゃんに、見られたのか!!


扉がもう一度少し開く。


「お姉ちゃん、見ちゃった♡」


「ああああああああああああああああああああああ!!!!!」


バーサーカーのような言葉にもならない声を荒げて扉に突っ走り、はだける下着も気にせずに急いで部屋の扉を閉める。



超高速で今の下着を脱ぎ捨てて元のものを着る。そして制服を身にまとう。


「行く!!!」


もう、それはもう神速の如き速さで自分の部屋、家を飛び出す。


「行ってらっしゃい~反応含めて可愛かったよ~♪」


「ッーーーーーーーーー!!」


急いで家の鍵を閉める。今の時間をスマホを取り出して見る。


現在7時半。学校が始まるまであと一時間半もある。


慌てて飛び出してきちまった……


「はぁ……」


姉ちゃんが出る前に呟いた言葉が引っかかる。


『可愛かった』


可愛い、可愛い、可愛い、可愛い。


違う。俺は、そんなことないはずだ。認めたくない。今俺は『嬉しかった』。


自分に向けられたその言葉に嬉しさを感じて…………考えが纏まらない。


体に慣れていくにつれて女に近づいてるってことなのか……


「受け入れらんねぇぞ……」


でも戻る方法はないし、学校までだいぶ時間はあるし。


「はぁ……どうするかな。」


結果小一時間、家の扉の前で悶々と自問自答を繰り返しながらぼーっとすることになってしまった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


すっごい見られる。いや当たり前なんだけどさ。


だってこんな朝に家のドアの前で座り込んでるんだからな。


しかも()()()が、だ。いや、男だけどね!


ーーー


こうして体育座りになってずぅーっと考えてると仙人みたいになってきてる気がする。見られてるの恥ずかしい時点でそりゃねぇだろうけど。


ーーーい


「おーーーい」


「え?」


「なんでこんなとこに座り込んでんだ?」


「こっ……広一!ぇ……いやぁ……お、おはようございます?」


「なんで疑問形なんだ……回答になってないしさ」


「あ、いやぁ……」


「ま、何でもいいけどさ。とにかく行こうぜほら、もう8時半だ」


もうそんな時間になってたんだ……


顔を上げて広一をまじまじと見る。


内側から熱くなるのを感じる。やばい、まともに広一の顔が見られない。


なにこれ。どうしよう、どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう


「おい、行かないのか?」


あっ……もう無理だ。


「うん、いくいく。っていうかお、俺ちょっと野暮用思い出したから先行くわ!じゃな!」


俺は広一の前から逃げ出した。


「なんだあいつ……」


それ以降1ヶ月、まともに顔も見れず、広一と話し始めてもすぐ逃げるようになってしまった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


時も十月の中頃、そろそろ文化祭の季節である。


うちのクラスはメイドカフェをやることになった。俺は裏方を望んだ。当たり前だ。メイド服なんて着て人前に出られるかと、思うわけなんだが……


思ったより女子がやる気で誤算だった。まずメイドカフェを提案したのが美晴の時点でお察しだったりするんだが……


まんまと美晴にやられた。多くの女子たちに丸め込まれた結果、メイドをやることになってしまった……


水曜日5,6時間目 総合の時間。今日も今日とて文化祭の話し合いである。


「えー今日も文化祭の準備です。何やるんだっけ?あぁメイドカフェか。今日は装飾かなんかとあとはお金出すから、あとで必要なもの買ってきてね。先生からは以上!自由に作業開始!」


適当だな……佐々木先生、おじいちゃんにはメイドカフェとかあんまわかんないもんな。そりゃそうだ。


「はいーメイドやるみんな集まってー!!」


美晴がメイド役の人たちを呼んでるので、不承不承ながらも俺も美晴のところに行く。


「私たちは、セリフ覚えとか当日の料理、接客くらいしか仕事が無いので、今は裏方の仕事を手伝うことになります!ってことは決まった仕事はないわけでつまり……この中から買い出しする人を決めまーす」


「「「えー」」」


「文化祭の楽しい雰囲気に混ざれないのはちょっと悲しいけど、これも大切な仕事だよ!てなわけで、じゃんけんで決めます!」


「……」


俺はもうどっちでもいいや。結局メイドはやらされるんだもんねぇ!


「さーいしょはぐぅ!……」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




負けました。


現在一人寂しくショッピングモールにてお買い物中である。


「次は……ガムテープっと……」


中に入っている雑貨屋で基本揃うものばかりなので結構楽である、この仕事。


「あったあった。」


こんなに楽なら……


「こっち来てよかったまで……」


商品に手を伸ばす。 ぴとっ  誰かと手が触れる。


「「あ。」」


よりにもよってこんな所で一番会いたくないやつに会ってしまった。


「葵……」


「広一……」


気まずい時間が流れる。原因は確実に俺だ。


「あっ……その……おはよ?」


「あ、あぁおはよう?でいいのか。」


「……たぶん?」


やっぱりどうにもあの日からこいつとまともに話せない。どうしても目を合わせられない。


そっと広一の近くから離れよう……


「なぁ、最近、俺見るとすぐどっか行っちゃうよな。」


気づかれてた。あんだけ避けてたらわかるよな。


「もしかして、俺のこと嫌なのか……?」


「そ、そんなわけねぇだろ。ただ……ちょっと目を合わせにくいだけっていうか……」


「そうか……俺の思い違いならいいんだが。で、お前もやっぱり買い出しか?」


「うん。うちのメイドカフェの買い出しでさ。メイド役は暇だから―って理由で集められてさ、じゃんけん負けちゃって」


「へー……ってメイド?!文脈から察するに……お前もやるのか?!」


「あ、あぁ……ちょっとクラスの女子たちに推されて根負けしちゃった」


「お、お前はそれでいいのか……」


「諦めだね。」


話してる中でちょっと顔を赤らめてた広一。いったい何を想像してたんだろう。




ちょっと慣れてきたからか、多少話せるようにはなったので一緒に回ることにした。


広一の方はお化け屋敷らしくて、そのためのハロウィングッズを多く買っている。


俺の方のメイド服一式も買いに行かなきゃいけないのでコスプレグッズコーナーに行ってみる。


「メイド服って言っても色々種類があるんだな」


「こんなエロいのまであるんだな……」


広一が見てるのはなぜかへそが出るタイプのメイド服だった。


「ばっ馬鹿!なんてもん見てんだお前!」


「い、いや男なら誰だってこういうの着た人に興奮しちゃうだろ!そういう想像だって……」


「いや……まぁわかるけどさ……」


こんな会話をしながら二人で目的の物を一緒に探した。


二人の物を全部買い終わるころには、もう空も紅くなるころであった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「いやー買ったなぁ……」


「お化け屋敷ってこんなに物使うんだなぁ……」


「メイドカフェもすげぇぞ……」


俺も広一も両手いっぱいに荷物を持っていて、お互いに大変そうだと一緒に肩を竦める。


「今16時だから……学校はまだ6時間目か」


「これなら荷物運んだ後にみんなの手伝いができるな!」ふんすっと広一が息巻いている。


そんなこんなで学校目指して歩いていると空が曇り始めてきた。


「あれ……」


空気が少し冷えてきて、じめじめっとしてくる。


「こりゃ降るかな……ちょっと急ぐぞ葵」


「あぁそうだな」


なるべく急いで学校へと向かう。


けれども、ポツリ、ポツリと雫が空から降りてきて、あっという間にシャワーのような雨へと変化した。


「どうする葵!」


「近くに!公園があって!屋根ついてるところあるから!そこいこ!」


雨にかき消されないように大声で話す。買った物が濡れないように抱えながら公園へと急ぐ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「「はぁはぁ……」」


俺も広一も息が完全に上がってしまったけど、大急ぎで移動したおかげで荷物は無事だった。


「だいぶ疲れたな……」


「そうだね……」


ベンチに腰掛けて並んで座る。雨は一層強くなり、今は出られそうにない。


「ゲリラ豪雨なんて聞いてないぜ……」


広一が阿保らしい一言を放つ。


「聞いてないからゲリラなんだろ……」


「そりゃそうか」


「そうだよ」


「「……」」


互いに黙る。そんな沈黙をいつも広一が崩してくれる。


「いつ出られるかな」


「まぁこんなのすぐに止むだろ」


「「……」」


また少し気まずくなる。こんな肩もぶつかりそうな距離で二人とも目が合うとすぐ逸らす。


それでも、ちらちらと互いに互いを見合う。


なんとなく意識して目を逸らしてはいるが、広一の目線を頻繁に感じる。


「……どうしたんだ?」


「え、いや。その……なんていうか、いやうん……言いにくいんだけどさ、下着がその透けてて……」


「え。」


自分を見る。びしょびしょに濡れてぴっちり張り付いたセーラー服には、水色の可愛い下着が完全に透けていた。


「ふぇえっ?!」


とっても素っ頓狂で馬鹿みたいな声が俺の口から飛び出た。慌てて自分の体を隠す。


「見るつもりは無かったんだ!葵の制服から色が見えて、よく見ると下着で……あっ」


「今()()()()()って言ったな……」


「い、いやそうじゃないんだ!ただ……」


「ただなんだ?」


「ただ……可愛いと思って……」


「えっ……」


「お前も、そんなの着るんだって思ってさ。嫌だったらごめんな。」


「可愛い……」


俺も、そういう風に思われたり、するんだ。


今の言葉が嬉しかった。もう否定できない。


「なぁ……ホントに可愛いか?」


「えっ?」


「俺は……()()、可愛いのかなっ?」


「まぁ。その、可愛いんじゃないか……?」


その言葉に高揚感を感じる。私、やっぱりそういわれて嬉しいんだ。()()に完全になったということなのだろうか。それはわからないけど、今の気持ちは嘘じゃない。


そして、もう一つ。この気持ちは……


顔が熱くなる。いったん落ち着いて下着が見られたことが恥ずかしい気がする。


「へくちっ」


くしゃみが出てしまった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「どうだ?」


「あ、あぁ暖かい……ありがとう。」


「お、おうそりゃあ良かった」


広一の学ランを羽織らせてもらって、寒さが若干マシになった。広一に笑顔を見せると頬を赤くしてそっぽ向いてしまった。


「「……」」


さっきまでとは違って、少しだけ心地のいい無言の時間。激しい雨の音だけが二人の空間に響く。


「……なぁ」


「なに?」


「なんで、俺見ると逃げてたんだ?」


「やっぱ、気になっちゃうか」


「そりゃあそうだ。誰だって避けられたらちょっとは傷つくさ」


「ごめん。」


「いいよ。ちゃんと話してくれるなら気にしない」


「わかった、話すよ…………私が広一のことを避けてたのはさ、女の子になっちゃうのが怖かったんだ。広一の顔見るとなんだかどんどん熱くなっちゃって、ドキドキが止まらなくなっちゃうんだ。それが私には怖かった。元々、広一の事は出会った小学生の頃、唯一気を許せた友達だったんだ。」


そう。私にとって唯一の、本当の友達だった。


「最初は私もいじめられてた広一を見てられなかっただけなんだ。昔は、助けられる力があるなら、みんなを助けなきゃいけないと思ってた。でも私もそっからいじめられちゃってさ。へへ。言われたんだ、この偽善者がって。小学生がどこでそんな言葉覚えたんだろうね。でもさ、私も知ってたから、真に受けちゃってさ。あぁ、私がしてきたことって間違いだったのかなって。でもさ、広一がいてくれたんだ。ずっと私のそばにいてくれてさ。」


「で、でも俺は途中からお前と……」


「広一が私のために私から離れたの知ってたよ。私がいじめられてるの知ってたんだよね。」


「あぁ。だから俺は……」


「そういう所含めても、私は広一の事を唯一の友達だと思ってた。だってさ、優しいじゃん!」


「葵……」


「だから……」


「俺はっ!俺は葵のことが、昔から好きだった。男としてだと思ってた。助けてくれて、友達になってくれて、嬉しかった!だけど、だけど俺を助けたせいでお前がそんな風になって良いわけなかったんだ。そう思って、俺はお前に甘えるのを辞めようと思った。お前から離れなきゃいけないと思った。だから見た目だけでも強くなりたいと思ってこんな感じになっちまった。でも、もう一回お前と会って、お前が女になって初めて、人として好きだって気づいちゃったんだ。」


「広一……」


「これは、告白なんだと思う。でも返答とかそういうのはあとでいい。お前にも、時間が必要だと思うから」


「うん……」


広一は、私のことが好き……そっか……


空が晴れ、私達の方に夕暮れの日が差し込んでくる。それはなんとなく、今の私の心と同じように暖かく感じられた。


「晴れたな」


「そうだね」


「学校に戻ろう」


「ねぇ光一」


「なんだ?」


「私も好きだよ。」


光一の顔が一気に赤くなる。


「そ、それって……」


「嘘だよ!!」


舌をべっーとした後ウィンクをする。


「葵っからかうなぁー!」


「ごめんごめんっ!ごめんって!あっやめっこしょこしょしないでっ!あはははは!」


この後学校に戻った後、表情が若干柔らかくなってると美晴にからかわれた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ねぇ次はどこ行く?」


「お化け屋敷怖かったぁー」


「焼きそば―焼きそばだよぉー!」


今日は文化祭。朝からみんな友達と元気にいろんな場所に行っている。


俺はというと……


「おい光一!一緒に回ろうぜ!」


すれ違ったクラスの池田に呼び止められる。


「ごめんっ俺他のやつと回る!」


小走りで池田を躱す。


池田、ごめん。俺には行かなきゃいけない場所があるんだ。


2年2組。葵のところへ。


「ふぅ……」


緊張する。メイドカフェ、葵のメイド姿。そわそわしすぎだ……


「いくぞ、俺……!」


足を踏み出す。受付の前に出る。


「何名様ですか?」


「1人です」


「了解しました!どうぞ、一名様ご案内です!」


ついに教室に入る。


「「「お帰りなさいませご主人様!」」」


「お、お帰りなさいませご主人、さま……」


葵がめちゃめちゃ恥ずかしそうにもじもじしながらこっちを見る。


「めっちゃ可愛いよ。」


「ばっ馬鹿っ!!!!」



俺たちには、もともとの性別からの戸惑いとか、これからも色々苦難があると思う。


でも、それでも俺はこいつが好きだから……


「私も、やっぱ好きだな」


「今なんか言ったか?」


「ううん!なんにも!」


葵の笑顔は、とても眩しかった。




               ~~~~完~~~~








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