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6

 僕は河川敷でボールを投げていた。


 高架下にストライクゾーンを定め、そこになるべく全力投球して、当てる。この特訓の成果がやっと出てきた。


 これでやっとお姉ちゃんのホームランに貢献できる。ボロボロになったグローブにボールが入り込んでくる感覚。自らの肩の振りと手首の捻りに応じてボールが狙った場所へ飛んでいく快感。素晴らしかった。


「あー、バットも打ちてえなあ」


 バットはお姉ちゃんがいつも持っている。お姉ちゃんはまだ学校だから、帰ってくるまでお預けだった。


 河川敷にはお姉ちゃんと同じ制服の人たちが見える。


 まだかなあ。


 あ、お姉ちゃんのバットが見えた。


 え。


 あれってお姉ちゃんのバットだよな?


 ん?てかなんでこの時間に中学生が?


 僕は「彼」の持っているバットのグリップテープを確認する。やっぱり、お姉ちゃんが描いた黄色のにこちゃんマークがある。


「あー、あれ、弟じゃね?」


 「彼ら」がこちらへ来る。常に目はあっている。何か危ない雰囲気がするのはわかる。でも、動けない。何をしたらいいのか分からない。


「このバット、いいなぁ、使いやすいなぁ」


 彼らが近いてきてやっとわかったが、彼らはデカかった。


 そういえば

「奴らは身長、体格だけがデカいの。脳やら心はチビ。米粒ほど小さい。あ、今の米粒に失礼だったわ。自重しとく」

 とかお姉ちゃんが言ってたっけ。


 彼らは僕に何か用がある様子だ。僕に察して欲しそうにバットを振り続けている。


 彼らが目の前まで来る。目の前でバットが煽がれる。


 途端、僕は、あ、下手くそだ、と感じた。


 直感は素直だった。


「もっと水平に」


「え?」


 彼らが一斉に反応する。彼らの目は僕の知っている常人の目をしていなかった。もう大丈夫じゃない。

だから、僕は続けた。


「最後、もっと真横に降らないとボールが飛ばない。水平を意識する。体重移動もできてない」


「野球やってたらほんと当然の、初歩の知識だよ!」


 いつかのお姉ちゃんの声が蘇る。

 そうだ、これらはお姉ちゃんに教えてもらったっけ。

 比べて、こいつらは何も知らないじゃないか。野球も、お姉ちゃんの努力も、辛さも。


 僕の口はもう意地だけで動いていた。


「『お前』、野球やったことないだろ。へたくそ」


 お前、に反応したんだと思う。僕が言い終わったときにはもうすでににバットは僕のすぐ前まで来ていた。反射的に僕は目を瞑った。


 その後のことを僕は細かく覚えていない。ただそのあと分かったことは、お姉ちゃんが頭を強打されたことだった。

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