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今日もよくある河川敷で特訓。
「いや、僕は無理だって」
「いけるいける、私がボールを調整するから。シンはフルスイングするだけ。こんな美味しい話ないよ?」
はあ、と言いつつ僕はバットを構え、お姉ちゃんの投げてきたボールにフルスイングする。が、空振り。
「あぁ」
情け無い声が出る。
バットに軸足を取られ、全身がふらつく。ボールの調整ってなんだよ。ムカついた僕はお姉ちゃんの方を睨みつける。
「あー、次はいけそう!」
お姉ちゃんは臆せずこちらに手を振っている。
威嚇は全く効いてない。
僕はもうバットを振りたくなかった。当たらんし。しんどいし。さっきからずっと小さい虫飛んでるし。
「ばっちこーい」
お姉ちゃんの気合いの籠った一声とともに第二球が投げられる。
ばっちこーい??
投げてんのお姉ちゃんなんだけどなあ。
そんな余念に構わず僕は再びバットを大きく振った。
パキン!
気持ちのいい金属音が鳴り響く。
僕は必死の形相である。振動で首の肉が揺れる。
ホームランとはいかなかったが、ボールは鋭く飛んでいった。お姉ちゃんの方に。
「きゃあ!」
お姉ちゃんは腕を前方に持ってきてガードする。幸いボールはお姉ちゃんの少し左を通過し、激しくバウンドし、20mほど奥で止まった。
「レン、あんた、謀ったね?」
「お姉ちゃんがばっちこーいとか言うからでしょ」
「関係ないだろ」
「ばっちこーいは、球を引き寄せるの。だから関係ある」
僕は適当なことを言う。お姉ちゃんの顔は拗ねた表情のままフリーズしている。
「・・・・・・」
「・・・・・。難しいことは置いといて」
逃げるようにお姉ちゃんはボールを取りに行く。
僕はバットに目を移す。ボールが当たったときの振動がまだ腕に残っている。それ自体は不快だった。のに。
お姉ちゃんが戻ってくる。
「じゃあ次あたし」
「もう一球だけ打たせて」
「お!レンもハマったな??」
「ハマってない」
「ふーーーん」