表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

1

「どんとこい」


 僕はよくある河川敷でボールを投げている。もう日も暮れてきている。何時間、何球投げただろうか。もう肩が限界である。断っておくが僕は野球を習っているわけではない。


 今も、こうしてお姉ちゃんの特訓に付き合わされているのだ。


「どんとこいって、もうどんだけやってると思ってんの。そろそろ終わろうよ」


 意気揚々とバットを構えていたお姉ちゃんは眉をひそめ、威勢よく叫ぶ。


「終わる?まだホームラン打ってないのに?!

レンも見たいでしょ?!ホームラン!」


 ああだめだ。もう夢中になっている。きっと僕がこれ以上止めても無駄だろう。

 靴が土で汚れている。茂っていた足場は掘り出されて、人が長らく居た跡を形成している。


「じゃあ、早く、早く見せてよ、ホームラン」


「よっしゃこい」


 お姉ちゃんはヘルメットを被り直し、深呼吸をした。

 僕は早く帰りたい一心で言っているのだが、どうやらお姉ちゃんは勘違いしている。僕がホームランを待ち遠しくしていると思っているみたいだ。


「ふんっ!」


 僕は狙いを定めてなるべく打ちやすい球を心がける。それに呼応してその一球は絶妙な放物線を描いた。

 瞬間、とても心地良い秋の風が吹き、河川敷が靡く雑草によって揺れたように見えた。

 ヘルメットの陰から姉の左の口角が上がるのが見えた。


「良い」


 そう呟くとお姉ちゃんの腰の入ったフルスイングが決まった。ボールは吹っ飛んでいく。子供向けアニメの悪役が空の彼方へ吹っ飛ばされるあれに似ていた。


「レン!見たか!あれがホームランだ!」


「・・・」


 僕は視界から小さくなり、消えゆくボールを呆然と見ていた。空は夕焼けでとても綺麗だった。その時は何故か肩の痛みを感じなかった。


 特訓といえど、お姉ちゃんも野球を経験したことがなかった。というのもお姉ちゃんはもう中学1年生で、野球にハマったのはつい最近だった。


 プロ野球に没入してから呪われたようにバッティングに魅了されていった。初めの方に比べるとかなり上手くなったと思うが、それでも習い事をしている子よりは下手だった。


 それに関係してだが、多分、いまお姉ちゃんは学校でハブられている。バッティングについてたいして上手くもない、異常な熱量、無邪気な性格、そして女性であるという希少性は学校で妨げられるのに充分だったと思う。


 僕はその雰囲気をなんとなく感じていたが、あまり突っ込まなかった。しょうがないだろう、という気持ちと、僕があまりその深刻性を理解していなかったからだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ