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人間界では足のはやい子、走るのがはやい子は人気者。でも食べ物界では・・・・・・

作者: 明石竜

「明日の校内マラソン大会嫌だなぁ。私、走るのめちゃくちゃ遅いし。まあ、球技大会よりはマシ

なんだけど」

 ある日の夜、とある家庭の台所で呟かれた女子中学生の言葉である。

 その子が台所から立ち去った後、

 冷蔵庫の中では、

「ふふふ、人間は大変そうだな。お嬢ちゃん、頑張れ!」

 サバ、

「人間界では足が遅いひ弱な子はもやしっ子って呼ばれてるみたいだね。ボク自身は足のはやい食べ物って

言われてるけど」

 もやしが冷蔵庫の中でおしゃべりをし始めた。

「足がはやい。つまり走るのが速い子どもはクラスの人気者になれるけど、ボク達食べ物界では

足がはやい。腐りやすいからって必ずしも子どもに好かれる食べ物ってわけでもないんだよなぁ。

もやしが好きな子なんて聞いたことないよ」

 もやし君は苦笑いで言う。

「そうだよね。オイラ達サバが大好きな子どもってあまりいないよな。同じく足のはやい赤身魚の

マグロは好きって奴はわりといるだろうけど」

「オレも足のはやい食べ物って言われてるけど、確かに子ども達にはさほど人気はないなぁ。

長持ちさせる方法も広まったから昔ほどは足がはやいって言われなくなったけどね」

 豆腐も会話に参加。

「あの子は、わたしが一番好きみたいよ」

 ミートボールちゃんも会話に加わって、機嫌良さそうに言う。

「きみは冷凍食品だから足が遅いよね。賞味期限が何か月、下手すれば年単位だし」

 サバ君は羨ましそうに言う。

「冷凍食品は他にも餃子とか唐揚げとかフライドポテトとか、グラタンとか子供たちに

人気のものが多いよな」

 豆腐君も羨ましがる。

「でもわたしと同じ仲間の子達も、子ども達に好かれるから買われてから

食べられるまでの期間も意外と短いのよ。わたしもさっそくあの子の明日の朝食の

おかずにされちゃうみたいだし」

「そっか。今日の夕方に買われたばかりなのにご愁傷様。オイラの方が賞味期限すぐながら

食われるのはあとになりそうな感じか」

「カレーとかシチューとかインスタントラーメンとかのレトルトも、わたしとその仲間と賞味期限が

同じくらい長持ちするけど、子ども達に好かれるから、わりとすぐに食べられることも多いわね。

けど、調味料や香辛料はわたしとその仲間以上に長持ち出来る子も多いけど、使いきれないまま

いつの間にか賞味期限を迎えちゃう子も多いそうよ」

「それも食べ物的には不幸な末路だよな」

 捨てられる部分も多いサバ君は同情する。

「わたしと同じミートボールや、唐揚げとかでも、サバ君以上に足のはやいタイプもいるわよ。

どんなタイプの子か分かるかな?」

「分かった! お総菜コーナーの調理済みのやつでしょ」

「正解よ、もやしくん。あのタイプは当日限りが多いわね」

「食べ物界で足がはやくて子ども達にも人気の最強格ってなると、そのタイプになるかな」

 豆腐君は呟く。

「やぁ、みんな。足がはやいのとは正反対に、賞味期限すらなく、子ども達に大人気の俺のこと

を忘れちゃダメだぜ」

 冷凍室に保存されていた、抹茶アイスも会話に乗って来た。

「あなたには敵わないわ」

 ミートボールちゃんはてへっと笑う。

「食べ物界には足が遅くても子ども達に大人気のものは多いから、人間界でも

足が遅くても人気者になれる子が増えてくれるといいね」

 もやし君は微笑みながら言う。

「そうだな。ちなみに、人間界では長持ちする食べ物に足が遅いっていう言い方はしないそうだよ」

 サバ君は豆知識も伝えた。

 この冷蔵庫内での食べ物たちの会話と表情、人間には全く認識されることはなかったのだった。


 ちなみに例の中学生は、あのミートボールのおかげかマラソン大会で最下位は免れることが

出来たのだった。



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