2話 『俺TUYOKUNAI』
心のどこかで、期待していた。俺TUEEEってやつを。
刺された右手が元に戻っていたとき、思い上がってしまった。自分が強い、と。
「ギィャャッ」
「グギィァガァァ!」
ふと意識を取り戻したかの様に、ゴブリン共はこちらに向かってきた。
右手、いや、左手を犠牲にして――足のほうがいいか。足で牽制しつつ――――
多分、ジャンプ攻撃の方のゴブリンが棍棒を振り上げる。同時に、石包丁のゴブが腹に飛んでくる。
「えっちょっ、うわぁぁぁっ!」
思いもよらぬ連携プレイに不意をつかれ、対応する暇なく腹を抉られる。
腹の不快感の、遅れてやってくる痛みより一瞬早く。振りかぶられた棍棒が、俺の脇腹にある骨を砕いた音がした。
「ぁああぁあぁっっっッ!」
人間には、動物にない知性がある。
動物には、人間にない力がある。
こいつらは、何なんだ
痛みに悶えながら、自分の血が目に入る。
垂れ落ちた血は、逆流して傷口へ戻っていった。折れた音がした骨は、元の形に変形した。
「死ぬほど痛かった――――のに、全然痛くねぇ」
しかし、こいつらと戦える気がしない。
前を見て対峙した瞬間、恐怖で冷や汗が吹き出る。
惨めだ。地面に血は残っていない。この力は多分、再生能力だろう。全力で戦えば最後は俺が勝てる勝負なはずだ。なのに
「うあァァァァァっ ハァッ ハァッ」
俺は後ろを向いて、逃げ出していた。