第7話 生きろ
1560年6月12日。14時10分。
今川義元は武士琉の説得を受け、織田信長の軍勢に寝返った。
「今、我が軍が君たちの砦を攻めている。もう死んでいるかもしれない」
「それでも行く。あいつらはしぶとく生きてるから……。あいつらは、絶対に諦めてないから……」
今川は前を向く武士琉の姿を見て、織田信長と武士琉を重ね合わせていた。
「行くぞ。まだ間に合う」
「蘭丸。利家。ありがとう。次はあいつらを助けに行くぞ」
「あー、武士琉。任せとけ」
「僕も戦う。救う。彼らは、武士だから」
武士琉たちは地を駆け、丸根砦を目指す。
1560年6月12日。14時20分。
織田信長率いる軍勢は鷲津砦に向かっていた。彼らは滅ぶわけにはいかない、
だから砦を護るため、撤退という名の進軍を開始していた。
「もっと速く、速く、速く……」
1560年6月12日。14時25分。丸根砦前の野原にて。
「はあーー。はあーー」
佐久間盛重の周りには、多くの死体が転がっていた。
血が錯乱し、土の大地には千以上の刀傷が散りばめられている。
「ばっ、化け物!」
今川軍の兵は誰もが恐れた。
何百何千という兵を倒したのだ。誰も戦いたくない。
だが……
「なかなかやるな。だが、次は俺だ」
「酒井忠次か。お前と戦うなんて…最悪だ」
酒井忠次。彼は変人として恐れられていた。
彼の戦いは不思議で、戦いづらいと噂されていた。
彼は十刀流という二つ名がつけられていた。彼は刀をばらまきその刀を自在に操る。たとえ刀が遠くにあろうとも。
「始めようか。佐久間盛重」
「来いよ。酒井忠次」
鷲津砦の前の野原。草花が咲き誇り、虫たちも静かに地を這いつくばっている。
その野原に、酒井忠次は刀をばらまく。
中には名刀と呼ばれるべき刀もあった。
「聞いてはいたが、実際に見ると面白いな」
佐久間盛重は少し笑みをこぼすが、戦場では一切の油断すら許されるはずもない。
酒井忠次が指を動かすと、遠くにあるはずの刀が佐久間盛重の頭上を通る。
「危ね!」
「いつまで耐えられるかな」
その攻撃が仕掛けられたすぐ後、再び刀が宙を舞い佐久間盛重に斬りかかる。何度も……何度も……何度も……。
その度に佐久間盛重は避ける。避ける。避ける。
「……勝てない」
「終わりだ……」
体に何百を越える切り傷を負った佐久間盛重。
彼の筋肉は既に悲鳴をあげており、さらには脳が疲れを感じて動きを停止しようとしている。
呆然状態となった佐久間盛重に、刀は宙を進んで佐久間盛重へと進む。
くそっ。信長様……