第6話 今川義元
1519年。
今川義元は産まれた。
今川家はまだ魔王に従えてはいなかった。
1538年。
今川義元はある女性に出会った。その者の名は海里。今川義元が生涯愛し続けた女である。
今川義元は彼女を嫁にし、魔王の進行をくい止め続けた。
どれだけの兵が来ようと命懸けで仲間を護った。
そんな今川義元の姿に、多くの者は惹かれていった。
1540年。
魔王は今川義元に牙をむける。
「魔王様。その件なのですが、今川義元という男が我々の兵を次々に倒してしまい、進もうにも進めないのです……」
「そうか。ではデュラハン、火攻めをしろ。その町を焼き払え」
魔王軍は今川義元の領土に攻め込み、火攻めを開始した。火攻めにより町が火の中に消えた。
やがて今川の城に着き、デュラハンは海里を拘束する。
デュラハンは海里を連れていこうとすると、後方にいたはずのスケルトン兵が骨の残骸となって床に転がっていた。
上を見ると、一人の男が刀を上段に構えてデュラハンに振るい下げた。
「死ねえええええ」
「あまい」
デュラハンはその男が振るう刀を剣で弾き、海里の首もとに剣を当てる。
「問おう。この女が死ぬか、お前が死ぬか。選べ」
「俺を殺せ」
「そうか。では、死ね」
その言葉を聞き、殺され欠けたスケルトン兵が槍を持って男の心臓を背中から突き刺そうとした。
だが……
「待て」
「デュラハン様!」
「そいつを仲間にする」
「ですが……」
「いや、こいつにとっては死より苦痛であろう。今まで信じてきた武士を裏切ることになるのだから」
デュラハンは笑みを浮かべながら、その男の頬に剣をかすらせる。
「…………」
「どうした?急に喋らなくなったじゃないか」
「あああああああ」
「義元さん」
海里は今川に声を掛けるも、今川はデュラハンに斬りかかる。
「その女が殺されたくなかったらとまれ」
デュラハンは今川の腹を蹴り、スケルトン兵に海里を囲ませた。
「お前らあああああああ」
今川は叫ぶも、その声はデュラハンにとっては負け犬の遠吠えに過ぎない。
「魔王軍に従うか?」
「従わないと海里を殺すんだろ」
「ああ。その上で従うかと聞いている」
「……ああ。従ってやる」
今川は屈辱であった。今まで敵であった魔王の仲間になるというのだから。
この一瞬があったせいで、今川は今まで何人もの武士を殺してきた。
「死にたい……」
今川はただ死にたかった。死に場所を探していた。
そして……
1560年6月12日。
今川義元と武士琉の一騎討ちが始まった。
武士琉の刃を今川はよける。今川は短刀で斬りかかるもよけられる。
今川は弓の名手である。つまり、接近戦は苦手である。
今川は戦う。
誰のため……
「海里のため。……負けられないんだ」
「お前など、今ここで討ち取ってやる。裏切り者よ。震え、恐れろ。この俺が最強の武士、武士琉である」
二人は負けられない。
お互いに護るものがある。
「うおおおおおお」
「うおおおおおお」
戦う。戦う。戦う。戦う……
「俺だって戦わないといけない理由がある。惚れた女のために命張ってんだ」
「なら、かっこいい姿見せたあげろよ。今のお前なんかじゃ、相手の女が苦しむだけだ」
短刀と刀は火花をあげてぶつかり合う。
「……うるせー。お前には分からない」
「じゃあ、今、お前が生きたいように生きろ。今からでも間に合う。だから、もう止めろ。ここがお前の新しい家だ」
「…………」
「まだ間に合う。始めようぜ。お前の新しい生活を」
武士琉は今川の短刀を刀で砕き、今川は武器を失った。
武士琉は今川の首に刀を向ける。
「今川義元。どうもお前からは悪役の臭いがしない。何というか、自分を何かで束縛している、そんな感じがする」
「俺は……」
「今川。もう少し、正直に生きたらどうだ?」
「そうだな……。少し、考える」
今川は今変わる。
今川義元という男は新しい世界を始めた。