第67話 武士の挑
アクリスは武士琉の脇腹をつつくように角を振り上げた。武士琉は刀で受け止めるも、その一撃はとても重く、刀一本では到底止めることはかなわない。
武士琉はそれを察知し、咄嗟に後退して距離をとり、アクリスの足が上がった瞬間に武士琉は刀でアクリスの顎を斬り上げた。アクリスは体を後ろに倒してすってんころりん。それにとどめを刺そうと武士琉は刀を逆手に持ち変えるも、アクリスはガラスの足で何度も武士琉の腹を蹴り、吹き飛ばした。
(なるほど。蹴りか角での打突だけか、特に属性攻撃はなさそうだな)
武士琉は足をついて刀を構えると、アクリスの側面めがけて走り出す。だがそれを先読みし、アクリスは側面に蹴りをいれる。
(動きを読んできたか。相当な強者らしい)
武士琉はアクリスの蹴りを刀で受け流し、アクリスの首へ刀を進める。だが固い皮膚は簡単には刀を通さない。
武士琉はすぐに後退し、刀を盾のようにして構えてアクリスの攻撃へのカウンターを仕掛けようとする。だがそれを察したアクリスは前へは出ず、距離をとって武士琉の動きを観察する。
(この武士、人のにおいがあまりしないせいか、動きが読みづらい。おかげで鼻が狂ってきたようだ。それにこの男のにおいは明らかに魔族のものだ。だとするならば……どうりで怪我をしていないわけだ。この火炎の中から無傷で現れたのは納得がいく)
「アクリス。どうした?動きが鈍くなっているぞ」
「お前、人間か?」
「さあな。そんなのは自分でも解らないさ。ただ人間よりも再生が著しく速く、そして人一倍力もある。確かにこれは、人為らざる者と言っても過言ではないだろうな」
武士琉は自分の腕を斬る。もちろん腕からは血が出て地面には斬れた腕が転がる。だがしかし、武士琉の腕はすぐに再生した。
「それははっきりとは聞いていなかったが、どうやらそれも本当らしい。魔族の血を与えられた武士。それがお前か」
「ああ。忌まわしき魔族にこんな思いをさせられるとは、さすがに怒りが込み上げてくる」
武士琉は爪が食い込むほど刀を強く握りしめる。
「武士琉。貴様はここで殺していいと言われている。だから殺してしまおうか」
「構わないよ」
(ただし、殺せるのなら)
アクリスは武士琉へと一直線に駆け抜ける。
それは閃光の如く素早く、空気を振動させるほどに速い突進であった。その速さに誰もが目を疑い、そして次の瞬間、アクリスの頭部は硝子片を撒き散らしながら宙を舞っていた。
「……は!?」
斬られた本人ですら状況は呑み込めていなかった。
どうして自分の首が斬られているのか、それを理解できた頃には、既にアクリスは死んでいた。
「どうやらお前はあまり再生力をもたぬようだな。その証拠に、首が吹き飛んだだけで死にかけじゃないか」
「武士琉……。なんて強さだ…………」
「刀で斬れないのなら、素手で斬ればいいだけの話。だろ、アクリス」
アクリスは硝子片となって消失し、武士琉は純白の光に包まれた。
「あと二体か……。長いな」




