第62話 警戒体制
魔族が森に入ってから数分も経たずして、石田軍は既に二重の陣を引いていた。
「一成様。確認できるだけでも、千ほどの魔族がこの山に侵入している模様です」
「とうとう奪いに来たか。この城を」
一成は刀を抜き、馬に乗ったまま後続の兵たちへと喝と飛ばす。
「これより、魔族大名アクリスの率いる軍を殲滅し、魔王への傷の第一歩とする。さあ、進軍せよ」
一成が勢いよく馬を走らせるのに連なり、後続の兵たちはその足で山の中を駆け抜ける。たった一人で圧倒的先陣を進む一成を見送り、兵たちは既に一成を見失った。
「これぞ暴君ですか」
一成が進んだ道には、魔族の死体があちらこちらに転がり、何体もの魔族は体を吹き飛ばされて叫び声をあげる。
それを遠きに聞き、兵たちは勝利を確信しながら足を進めていた。
それを城の中から見ていた三成は、確信をして一人馬で山道を駆け抜ける。
その頃、二成は裏から攻めてくる魔族からの守備を担当していた。
「お前ら。今こそ魔族を打ち倒し、魔王への傷のために進めぇぇええええ」
二成が手を振り下げるとともに、大砲が山の中で響き渡る。魔族は跡形もなく吹き飛び、弾薬がなくなると、二成は刀を抜いて走って山道を駆ける。
二成は襲いかかってくる魔族を次々に刀で斬り伏せ、前線を少し前へと押し進めた。
「よし。前線はここで維持だ。何かあったらすぐに報告をするように」
「了解です」
小幡信世の視線を受けながら、二成は馬を走らせてさらに前線へと向かう。その理由とはーー
「すまんな。少し遅くなった」
「やっと来たか。二成」
二成は馬を止め、馬に乗った一人の男の前で動きを止めた。
視線を自ずとその男へ向ける二成。その男の名はーー
「三成。こんな戦いの最中、俺を呼び出してどうした?」
「君にはここで死んでもらうよ」
「は!?」
「二成。前田忠康を殺したのはね、俺なんだよ。真横を歩いている忠康の脳天目掛けて、真横から打ち抜いたんだよ。さすがに忠康も驚いていたみたいだけどね。あれはまじ爆笑したわ」
「何を……言っている!?」
二成は蒼白した表情をし、強く握りしめていたはずの刀を地に落とした。
「ごめんね。でもさ、俺が石田家当主になった場合、逆らうかもしれない勢力を潰さないと石田家を独占できないだろ。だから仕方なく二成には死んでもらうことにしたよ」
「ふざけるな。じゃあ三成は何もしていなかったのか?」
「当然だ。だが多くの者が三成を疑ってくれたおかげで、容易に魔族を山へと入れることができた」
「まさかお前……」
先ほどまで蒼白していた顔が、一層青ざめていく。
全ては一成の手のひらの上。何もかもが、一成の予想通りだった。いや、計画通りだった。
「ふざけるな。お前は、仲間を何だと思っているんだ」
「自分以外は必要ない。それだけだよ」
一成の発言に堪忍袋の緒が切れる二成。
二成が刀を拾おうとした途端、背後から小幡信世が現れた。
「小幡、聞いてくれ。一成が……」
言葉を吐き出そうにも、出たのは赤い液体のみだった。
腹には熱い感覚が広がり、そのまま痛みで馬から転がり落ちた。ところどころの骨が折れ、絶望の中で頭を仲間であるはずの小幡に踏まれる。
「魔族への内通者は一成だけではない。もちろん僕もさ」
「信世……」
「今までお世話になりました。けど、そんなに楽しい人生じゃなかったよ。だからここでいっそのこと全て終わらせてやるのさ」
小幡は自然と一成の横へと並ぶ。
「一成。これであとは三成だけですね」
「あいつは戦闘においては素人だ。だから放っておいても死ぬだろう」
「ですね」
「じゃああとはお前の首を跳ねればおしまいかな」
一成は刀を抜き、転がる二成へと歩みを進める。
「せめて安らかに死ね。石田二成」
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山道を必死に駆け抜けた三成が発見したのは、血を纏って転がった二成の首であった。
「全部……遅かったんだ。せめてもう少し速く行動していれば、せめてあと少し速く気づいていれば……」
後悔と苦悩。
「二成。安らかに眠れ」
三成は二成へと拝んだ。
と、そこへ、兵が数人その光景を目撃した。
「まさか三成様が……二成を殺した!?」
その情報は一瞬にして兵たちの中へと広まった。
怒りは魔族、そして三成へと向いた。
「一成様。さらに予想外なことが起きていますね」
「ああ。終わりだな。三成も」




