第60話 石田家家督騒動
ーー佐和山城にて
不穏な空気が漂いつつ、誰もが誰もを信頼できなくなっているそんな警戒心が部屋を埋め尽くす中、石田守成は声を発した。
「はぁー」
それは深いため息であったが、初めて放たれた第一声に、皆の体からは緊張感が解かれた。
「守成様。石田一成様の直属の護衛である前田忠康。彼は脳天を矢で貫かれており、即死であったそうです。前田忠康が殺された場所は森の中。その時刻にこの城に居なかった者は二成様、三成様、小幡信世、そして私犬吉の四名。残りの兵は皆城内にて戦の準備をしておりました」
丁寧に状況を説明した犬吉。
だがしかし、この状況はその四名の中の誰かが前田忠康を殺したことに違いない。いや、正確には一成を殺そうとしたに違いない。
「なるほどな。で、自分から名乗り出る者はいないのか?」
すっとんきょうなその問いに、場は凍りつく。
石田守成という男が何を考えているのか、それは他の者には解るはずがなかろう問いであった。
「守成様。本当に我々の中に前田忠康を殺した者がいるのでしょうか?」
「どういうことだ?」
立ち上がって弁を成すは、石田家一の変わり者である石田三成。
だがその行動は最も首謀者がやるであろう行動だ。この一瞬で三成が殺ったのでは、とそう思い始めている者が増えているのは確かであった。
「これはあくまで憶測に過ぎませんが、もしかしたら、外部の者が前田忠康を殺したのではないでしょうか?」
「だがな、ここら一帯は我々の完璧な守備に護られている。というのに、どこから侵入できるだろうか?」
「ですよね」
そう言い残し、三成は座った。
一体彼が何を言おうとしていたのかは解らなかったが、彼は脇に置いてある本を手に取り、頁をめくる。
その姿を、周囲の者たちは静かに眺め、静観する。
「守成様。今日はここまでにしておきましょう。恐らくですが、話が進展することはないでしょうし」
「そうだな。一成、くれぐれも注意をするように。解ったか?」
「はい」
「では解散だ」
兵たちは立ち上がり、足早にその部屋を後にする。
その部屋に残ったのは守成、犬吉、そして本を読むことに集中している三成であった。
「犬吉。外してくれ」
「わ、解りました」
動揺しつつ犬吉は席を外し、その部屋には守成と三成の二人きりとなった。
「三成。察しがついているのか?」
「…………」
「消去法でいくと二成だが、そうなのか?」
「…………」
「少しは教えてくれないか?石田家の未来がかかっておるのだし」
その言葉を聞いた途端、三成は立ち上がって部屋をあとにする。だがその手前で足を止め、背中越しで守成に言った。
「僕が前田忠康を殺しました」
「……は!?」




