第54話 振る災厄
「どうすれば……?」
武士琉は混沌の中で困り果てていた。
「あの隕石からはさすがに逃げられないし、破壊することもほぼ不可能だ。もしあれが魔族の力によって創られたと仮定して、その場合は魔力の供給源である魔族をやれば消えるか?いや、そんな簡単なはずがない……」
「ああ。そんな簡単なはずがないだろ。なぜならこの僕ちゃんを倒すことは、誰にもできないんだから」
どことなく怪しい雰囲気が漂う森の中、一人の少年は木陰から姿を現した。その少年の容姿はまるで子供であり、腰からは黒く細い尻尾が一本生えているだけであった。
「誰だ?」
咄嗟に刀を抜いて牽制し、周囲への警戒を配る武士琉。
対して、武士琉の前に現れたその少年は平然と、そして冷静さを保ちつつ歩み寄っていく。
「止まれ」
「いいけど、あの隕石止められなくなっちゃうよ」
「どういうことだ?」
「実はあの隕石を降らしているのはとある魔族の力でね、もし僕ちゃんを倒せたら、隕石を解除してあげるそうだよ」
「それは本当か?」
「当然。そもそも嘘なんかつく必要ないし、それに君を多くの者が興味深く見ているということもついでに教えておこう」
「何を言っているか解らないが、ここでお前を斬ればいいだけだな。なら、行かせてもらう」
武士琉は強く刀を握りしめ、少年へと駆け抜ける。
「無駄無駄。それに武士は名を名乗るものと聞いたが、名を名乗りもしないとは礼儀がないのか」
少年が武士琉へと手をかざすと、暴風は武士琉へと向かって吹き荒れる。武士琉は呆気なくその暴風に弾き飛ばされ、そして背後の木に激突した。
痛み、それが武士琉の体を支配している中で、少年は嘲るように宙に浮いて足を組んだ。
「その程度?」
「舐めるな」
「そうだ。一応名乗るね」
少年へ武士琉が斬りかかろうとしているというのに、少年は平然と笑って体勢を後ろへと崩した。
「な!?」
武士琉の刀は空を切り地面を粉砕し、再び刀が振り上げられる前に少年は武士琉の腹に触る。
「燃えよ、獄炎の嵐」
少年の手からは熱く、そして体が浮き上がるほどに激しい火炎が武士琉を襲う。武士琉は再び宙へと身を浮かせ、そして地面へと体を打ち付けた。
「終わりかな?もう既に隕石は落ちるだろう。楽しみだね」
少年は勝利を確信しているのか、腕を頭の後ろで組んで上を見上げている。
「あ、そう言えば名乗ってなかったね。僕ちゃんはブエル。魔族大名の一角だよ」
目の前にはいつでも倒してきた魔族大名がいた。
だがしかし、今の彼では到底敵わない。
既に腕が折れている。だが魔族の血が入っているせいか、体はすぐに再生する。
刀は刃こぼれなどせず、ただ純白に輝いている。
いつか世界を震撼させた信長ですら、ブエルを倒すことは叶うのだろうか?
そんな思考を考えつつ、武士琉はぼろぼろの体を起き上がらせた。
何のために?ーーー戦うために。
「おや。まだ立てるのか!」
「俺は武士琉。魔王を倒し、この武士の國を、魔王から解放する者だ」
戦うのは苦手だ。
けれど、目の前の人一人護れず、自分のことを信じてくれた彼女すら救えず、この國を魔王から護れるはずがない。
さあ立て。
目の前にいるのは今まで倒してきた魔族大名だ。
さあ立て。
たとえ負けるとしても、戦わなければ何も変えられない。
さあ立て。
足掻きたいのなら、護りたいのなら、救いたいのなら、
ーー立て。
いつからだ。
こんなにも、戦場に身をおくことが当たり前になっていたのは。
最初は戦場などトラウマそのものであった。というのに、今では戦場にいることが当たり前になってしまっている。
どうして、人とはこんなにも簡単に変わるのだろうか。
「武士琉。そろそろ僕ちゃんにとどめ刺さないと、ここ山城国は終わっちゃうよ」
「安心しろ。たとえ命を懸けようとも、皆を救う」
根拠などない。
どうしてこの少年に勝てると豪語できるだろうか。
たとえ命を懸けたとて、敵う敵ではないのは重々承知。
けれど、ここで尻尾巻いて逃げれるほど、落ちぶれてはいないのだ。
体が折れようとも立ち上がれる。
たとえ死のうとも、気合いで生き返ってやる。
たとえ死ぬ。その選択が間違っていたとしても、ここで負けるわけにはいかないのだ。
戦え、戦え、戦え、
ーー戦え




