第51話 やがて戦いは終わる
既に一揆が起こってから二時間ほどは経過していたであろうか。
未だに伊勢貞宗が見つからないことに腹を立てていた武士と町民たちは、今にも両者で争いを起こしてしまいそうな雰囲気に襲われていた。
「伊勢貞宗はお前ら武士がかくまっているんじゃないか?」
「何を言っている?俺たち武士は裏切り者にそんな慈悲はかけねーよ。まあ、お前らのような負け組町民には解らねーとは思うがな」
不満と怒りが交錯し、戦場には不穏な空気が漂っていた。
だがしかし、そんな空気を解消するかのように、一人の武士が男の首を持って彼らの前に現れた。
「お前ら。伊勢貞宗は、この俺、可児才蔵が討ち取った。これで全て終わりだ」
可児才蔵は伊勢貞宗の首らしきものを投げ、多くの死体が転がっている場所へと投げ捨てた。その中には、山本勘助の首らしきものも転がっていた。
「勘助。よく頑張ったな」
可児才蔵は勘助の首へと手を合わせ、静かにその場を後にした。
一体何が起こっているのか解らない武士と町民たち。彼らを代表するかのように、石田守成は刀を構えて前に出た。
「おい。どうしていきなり現れたお前が、伊勢貞宗の首を持って現れた?」
「偶然だ」
「どうしてわざわざこの場所にまで現れる必要があった?」
「気まぐれだ」
「ちっ。どうして伊勢貞宗の首を討ち取る理由があった。あいつの首は俺たちが討ち取るからこそ意味がーー」
「奇遇だな」
怒鳴ろうとした石田守成にそう言い放ち、鋭い視線を向ける可児才蔵に石田守成は口を閉じた。
「じゃあな」
可児才蔵は去り、その場を後にした。
怖じ気付いた石田守成は一日で二度も尻をつき、兵の前で醜態を晒すこととなった。だがしかし、兵は石田守成に残念さは感じておらず、石田守成の運のなさに哀れみを見せる。
「やはり石田守成様は運がない御方だ」
「魔族大名を倒せる実力をもっているというのに、会う相手が必ず運がないな。それも時に馬が病死し、しかもそれは戦の真っ只中。さすがに石田守成様は困り果て、だがその状況を打破するために馬に乗らず城を落としたのには感服すらするはず」
「だがしかし、運のなさは石田守成様を苦しめているのは事実だな」
石田守成の兵たちが陰口にようにそう呟く中、石田守成はどうして自分は弱いのだと皮肉に浸っている。それもそのはず、一日で二度も敗北の味を味わったのだ。
石田守成はめそめそと立ち上がり、とうとう戦場にいるというのに刀を鞘に収めた。
「守成様……」
兵たちは不安げな視線を石田守成へと送っている。
そんな中で石田守成は振り向き、背後にいる兵たちに言った。
「跡取りを任命する。石田一成。石田家当主は、お前だ」
全てを託した石田守成は、馬に乗って静かに自国の領土へと帰還する。
「これより、我々はい帰還する。進め」
やけに重たい足取りがまばらなテンポのリズムを刻み、馬の群衆が列を成して荒野を駆け抜ける。
石田守成の背後で馬を走らせる石田一成は、寂しい背中をした石田守成を眺めていた。そんな石田一成の隣へ、石田二成が馬を走らせる。
「大丈夫か?すごい暗い表情をしてるぞ」
「二成。守成はたしかに負けてしまったが、僕が父さんの跡を継いだところで更に悲惨なことが起こるだけだ」
「でもたくされたんだから仕方ないだろ。それにさ、胸張って戦えば、皆お前を認めてくれるって」
「でもなー」
少し乗り気ではない一成であった。とはいえ、継ぐことは確定したわけなので、石田一成は引き受ける他なかった。
「仕方ないか」
そう言い呟く。
そして山城国の燃え盛る町中では、武士琉が息詰まるような火炎の中を駆けていた。
「才可。いたら返事してくれ」
ーーその頃才可は……
左肩を押さえて血を吐き出す一人の女性。その女性の前に立つは、泥組組長、泥鼠。
「終わりかな。もう」
「泥鼠ぃぃぃいい」




