第50話 隕ちる石
京都の金閣寺。
それを眺めるようにして、二名の人外が空から真夜中の金閣寺を眺めていた。
「なあ。始まってしまったが、これでいいのか?」
「ああ。予想通り、いや、予言通りだったね」
「それよりも驚いたのは、どうして君はあの愚かな者を配下に従えたんだい?」
「おやおや。解っていないとは驚きだね。ならば教えてやろう。彼の願望は誰よりも上をいっている。というよりかは、彼の思想は条規を逸している。なぜか解るか?」
「いえ……」
「彼は、外の世界など知らない。だからこそ、彼は私が求めていた存在である。だからこそ、彼は今ここで死ぬ」
「結局死ぬなら、配下にした意味がないじゃないか」
「私は自分の至福を満たせればいい。だからたった一時でも、彼の思想は面白かった、ということだ」
「相変わらず君は面白いな。アイ」
「君もなかなかだとは思うがね。ウロボロス」
「では終わりにしよう。巨大隕石」
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ーー金閣寺周辺にて
首が宙へと投げ出され、まるで小石のように転がって地面には弧が描かれる。血がポタポタと充満する戦場にて、二人の忍はクナイを握る。
「海良。あと何人倒せばいい?」
「元無。そんなことを呟く暇があるのなら手を動かせ」
「相変わらずつれないな」
「当然だ。私は仕事をするためだけに三十六人衆に入った。仕事さえできれば、お前らとなど関わる必要がない」
「へいへい」
海良は次々と金閣寺の守護をしていた兵を無慈悲にも殺していく。
「ったく、弱い奴しかいないのかよ……。残念だな」
「なら楽しませてやろうか?」
深いため息を吐いた海良の前に現れたのは、紛れもない武将であった。
「名は?」
「京極高次」
「私は海良。三十六人衆の一人」
「では海良。君はここで死ぬけど、いい?」
「面白い。やれるなら、やってみな」
京極高次は刀を抜き、海良へと向けた。対して海良はクナイを二本携えて、京極高次へと構える。
一刀か、それとも二刃か。
血生臭さが漂う戦場にて、二者は刃を交えたもう。
「さすがは三十六人衆。だが、我が刀を初見で見切れる者などいない」
京極高次は刀を逆手持ちすると、まるで虎の速さで海良の間合いへと入った。京極高次は海良がその速さに驚いているものと確信し、少し無防備にはなるものの、刀を大きく振るって海良の首目掛けて振るった。そして首は跳ねられた。
この流れであれば、普通は海良の首が跳ねられるーーだが、現実とは強者が勝つようにできている。だからこそ、弱者に勝ち目などはない。
「まさか……」
「どうだい?敗北の味は」
京極高次はあの一瞬でカウンターを受けた。
大きく刀を振るったことが災いして?いや、そうではない。そもそも海良は京極高次を一度も見失っていない。だからこそ、間合いに入ってこられたのすら一秒も目を離さずに見ていたわけだ。
「京極高次。君の敗因は、忍に速さで挑もうとしたことだ。そりゃ当然、負けるよな。京極高次くん」
まるで弱者を見下すように放たれた言葉。
それを手向けとするように、京極高次の首は虹の上を転がるかにように弧を描いて宙を舞う。
「あーあ。弱かった」
再び深いため息を吐いた海良。それを横目に、元無は武士の首を斬り落としていく。
「私もあんな敵と戦いたいな」
「死をお望みかな?元無とやら」
「あ"あ"?」
酷く強く気圧すかのような重たい声に、気安く元無に話しかけた武士は握っていた刀を振るわして後方へと逃げようと足を進める。がしかし、糸らしき何かが足に絡まり、そのまま地面に転がった。
「あまり私を挑発するな。私はな、君のような雑魚には興味がないんだよ。それとも何か?君が私と対等に戦える力を持っているのか?あり得ない。君はね、弱者なんだよ。紛れもない、なんの力も持っていない弱者なんだよ。だからさ、ここで死んでよ。私の強さを証明するために、死ね」
元無が振り下ろしたクナイに貫かれ、転がった武士の顔には一本のクナイが刺さった。そして血みどろにまみれた死体が転がり、それを元無は蹴り飛ばした。
「相変わらず、君たち武士は弱すぎる」
弱さに落胆したのか、元無は積み上げられた死体の上に座った。
それを見ていた海良であったが、彼女はそれに何の口出しもせず、ただ目の前の武士を殺していく。
ーーああ、だから世界は、つまらない。




