第4話 二つの砦
1560年6月12日。13時50分
今川軍は織田軍の進行を受け、二つの城を攻略しようとしていた。
13時55分。
今川義元指揮のもと、織田の砦、丸根砦と鷲津砦を囲んでいた兵達は一斉に砦を攻める。
14時00分。丸根砦にて。
丸根砦を護る者はただ一人。佐久間盛重。
彼は戦う。信長への恩を返すために。
1557年。冬のある日。
佐久間盛重という武士は冷たい雪の中、一人で座り込んでいた。
親は死に、友人はおらず、食べ物もない。
彼は孤独であった。
だが、佐久間盛重の前に、一人の武士が現れた。その者こそ未来の天下取り、織田信長である。
信長は佐久間盛重を城へ連れていくと、暖かい部屋に住まわせた。信長と楽しくお話をしながら。
だから……彼は…………
「僕は……戦う。信長様の、野望のために」
佐久間盛重は囲まれていた。何百という今川軍に。
それでも彼は諦めない。
刀を強く握り、歯をくいしばって立ち上がった。
「来いよ。雑魚ども」
「この数に囲まれて、生き残れると思うなよ」
「思ってないさ、そんなこと。僕は……僕はただ、信長のために命をとして戦った武士。そんな者になれればいいんだよ。だから、かかってこい。僕の名は、佐久間盛重」
「潰せ」
「おおおおおおおおお」
圧倒的大人数が佐久間盛重へと進む。
14時00分。鷲津砦にて。
鷲津砦にも命をとして戦う者がいた。
鷲津砦に兵力は100。だがしかし、戦う者は一人。
彼は何のために戦うのか。
それは……希望のために。
鷲津砦には100の兵がいる。だがしかし、その誰もが戦える力を持っているわけではない。
つまり、鷲津砦にはまだ若き兵しかいない。
20歳の者、17歳の者、10歳の者。さらにはまだ産まれたばかりの赤子。
戦とは、兵だけが死ぬとは限らない。戦いが起きればそこに暮らす民は巻き込まれる。
それが戦なのだ。
だがしかし、今、一人の男がその全てを護ろうとしている。若き才能を生かそうとしている。
たった二本の手。たった二本の足。たった一つの心臓。それだけで何千何万の手足を受け止める。
彼はこの戦場にて、百の首をはねる。
彼の名は……
「我が名は、飯尾定宗。若き者を護り、若き才能を育てる。今ここが我が修羅の場であるぞ」
誰もが恐れる戦場で、二人の武士は笑う。
「ああ、なんて良い人生だったんだ」と。
今、二人の武士が命を懸けて、信長に託そうとしている。
今この戦いこそが、最大最強の戦いである。