第46話 誤解と誤解
山城国を治める大名ーー伊勢貞宗は、山城国の中心にそびえ立つ山城城の中で、優雅にも酒に浸っていた。
「ふぅー。相変わらず酒はうまいのー」
「そうですね。これほど高級なお酒をいただけるのは、貞宗様のおかげだと感謝しておりますよ」
「そうかいそうかい。ところで流魔よ。何やら外が騒がしいようだが、何か起きているのか心配で酒がまずくなる」
「解りました。すぐに兵を向かわせます」
流魔は席を外して部屋を後にする。
そして人がいないのを確認すると、流魔は指を鳴らす。その音を聞いてか、天井裏から二人の忍が現れた。
「元無。海良。もう始めてしまったのか?」
「はい。既に町民は混乱状態。それに放火の犯人は伊勢貞宗の刺客とまでデマ情報を流しています。つまりは。既に伊勢貞宗は終わった。ということです」
「解った。ではこの混乱に乗じ、本命を討つぞ」
「はい」
「俺は引き続き伊勢貞宗の監視をする。あとは任せたぞ」
「はい」
元無の透き通る返事が響き、海良は一言も発しないままその場を後にした。
「さあて、あとは任せたぞ」
流魔は振り返り、酒を楽しく飲んでいる最中の伊勢貞宗へと合流した。
「貞宗様。町民たちが下克上やら何やらで騒いでおるだけでした。我々も盛大に酒を飲み明かしましょう」
「そうじゃな。ではいただくとしよう」
引き続き酒を頬張る伊勢貞宗。
だが彼は知らない。
既に裏で、暗躍している者たちがいるということを。
ーー町の方では
火によって明るく灯された夜の町ーー山城国。
そこでは多くの者が武器をとり、山奥に位置する巨大な城ーー山城城へと足を進めていた。
「忌まわしき伊勢貞宗に死を。忌まわしき伊勢貞宗に死を」
何度も呟かれるお経のようなその一節は、町全体を憤怒と絶望で支配されていた。
誰もが家を失い、時には家族を失った者さえいる。
人が人でない、そう言い聞かせるように、人は人を殺すために武器を取った。
そしてその先陣をきるは、
「暁姫。凄いよ。こんなに兵を集めちゃうなんて。やっぱ流魔の作戦は凄いよ」
「そうはしゃぐな。居眠り小僧。うちらはただの陽動。本命はあいつでしょ」
「そうだったね。速くあいつが死んでくれるように、僕もっと噂まいて人たくさん集めてくるね」
「おい待て……」
暁姫の制止などに耳を貸さず、居眠り小僧はさささっとどこかへと走り出していた。
戦いの火花が各地で上がる中で、一人刀を構えてとある建物へと押し入っている者がいた。
「組長。な、何者かが、討ち入りに来ています」
「ふざけるな。こんな大火事だというのに、一体誰がそんなことを……」
"組長"そう呼ばれた男は、仲間を次々に斬っていくその女に目を移した。組長はその女を見るや、不機嫌だった顔が一層不機嫌さを増す。
「なるほど。混乱に乗じ、俺ら泥組の屯所に乗り込む理由なんかたった一つしかねえよな。な」
「まさか今日という日に火事が起こるとは。さすがの私も驚いたさ。だが今ここでお前を殺らなければ、さらに後悔してしまうことになる。もうそんなのは、嫌なんだ」
その女は刀を抜き、泥組の組長に刀を向けた。
それは組長も同じで、女へと刀を向けた。
「どっちが強いか、はっきりさせようぜ」
「ああ。さすがはぼったくり組長だ。だがここで、お前の命は断ち切らせていただく」
二者の刀が銀色に輝くその刹那、血飛沫が舞い散った。




