第45話 山城国一揆
藤条紅真は目を覚ました。
視界の中にいるのは、妹の亜李葉、ここまで運んでくれた加堂才可、それと知らない一人の男であった。
「亜李葉。その男は……誰だ?」
「この人は武士琉っていうの。家の壁で今にも死にそうな雰囲気で転がってたから助けてあげたの」
「そうか。お前は優しいな」
紅真が亜李葉の頭を撫でると、亜李葉は大人しくなって照れて笑みを浮かべる。
「亜李葉。戦利品、たくさん持ってきてからな」
そう言って、紅真は亜李葉を心配させまいと笑顔を振る舞った。
亜李葉はその笑顔に違和感を感じつつも、笑顔で喜んだ。
ほのぼのとした空気が流れている中、物騒な物音とともに戸が強く叩かれた。
「はーい」
亜李葉が出ようとするのを制止し、武士琉は戸へ行き、扉を開けた。
「藤条はーん。兄貴帰ってきたらしいの。だったらとっとと金返してくれまへんか」
「誰だ?」
「どうも。わしは泥組組長の泥鼠っちゅうもんでな、お前が今いる藤条家から金を返しにもらいにきてん」
玄関口でもめていることに気づいたのか、亜李葉と才可が武士琉の隣へと現れていた。
「武士琉。亜李葉を連れて紅真の守りをしてやってくれ。この人の対応は私がする」
彼女が武士琉と通りすぎた瞬間、おびただしいまでの殺気が彼女の方から放たれたのを武士琉は肌で感じた。
一瞬体に電流でも流されたのかと勘違いするほどに、その殺気は恐ろしかった。
「では外で話しましょうか」
武士琉が亜李葉を連れて戻ったのを見て、才可は腰に差している刀に手を当てつつ、泥鼠の目を鋭い殺気を纏わせながら睨んでいる。
獣など住んでいないと思っていた泥鼠であったが、まさか狂暴な者がいることに少し驚きを見せる。
だが外に出る足は止めず、建物の側面の方に入って裏路地で、二人きりで話をする。
「で、借金っていくらだっけ?」
「そうですねー。ざっと十両でっせ」
「は!?十両だと!?何をすればそんなに金をお前らに貸された?」
十両。
それはあまりにも大きな数字であり、一般家庭には、そもそも両などという単位がつく小判など有しておらず、せいぜい銭という単位の金銭しか存在していない。
「ちっ。さすがは京都に名を轟かせるほどの大悪党、泥組組長泥鼠。その堂々さたるは、呆れるものもあるほどだ。で、本当はいくらなんだ?」
「本当に十両だって言ってるんだよ。で、出せるのか?それとも出せないのか?」
泥鼠は刃は短い懐刀を取り出し、才可の腹に軽くちょんと当てている。
「殺しちゃうぞ」
才可は刀を抜いて首を跳ねようとする衝動に襲われるも、ここは堪え、話し合いで解決しようと、手ではなく口を動かす。
「解った。私は十日後、兄上から刀や鎧を買うための資金を渡される。その金額は十両には満たないが、その半分、つまりは五両用意できる。残りの五両は次の戦に出向いた後に返す。だから、また十日後家に来てくれ」
「話が解るじゃねーか。だが、十日後家を出て逃げるなんて真似は許さねーぞ」
「そんなこと、考えもしなかったよ」
才可は泥鼠への悪態をつき、泥鼠は嘲笑いを浮かべてその場を去った。
「じゃあまた十日後、金、たんまりと用意しとけよ」
ご機嫌かのようにして泥鼠は足を進め、どこか遠くへと去っていった。
才可は息を吐くようにして壁に座り込み、疲れたというように空を見上げた。
「十日……。この期間で、泥組を潰さなければ……」
焦りに支配される加堂才可。
そんな彼女らがいるここーー山城国では、密かに何かが始まろうとしていた。
ーー1485年金閣寺にて
「足利殿。先ほど町を通りかかった武士が報告してきたのですが、町が……三十六人衆という謎の集団に燃やされたとのことです」
その頃、市民は怒りに包まれた。
今まで従えていた大名の手によって、町は燃やされたのだと。
そうして始まった一つの一揆。
ーー1485年山城国一揆ーー開戦




