第44話 国人
武士琉がいた場所は、多くの市民で賑わう藁と木でできた家が建ち並ぶ通り。
そこに武士はおらず、いるのは商売をしている者たちや、道の端っこで眠っている貧しい子供たち。
「なるほど。国一揆が起こるということか」
武士琉はあらかじめ推測をたて、周辺に魔族らしき者がいないかを観察する。も、そんな人影は一人も見当たらない。
「なるほど。今回は少し時間がかかりそうだ」
武士琉は腰に刀を差していることを確認し、周囲の人が全員和服を着ているのにも関わらず、一人鎧を纏って町を歩く。
だが道中、武士琉は一大事に気づく。
「腹減ったー」
武士琉はお腹はまるで牛でも吠えたかのように鳴り、それと同時に体の力がみるみる抜けていく。
武士琉はちょうど人気のない路地裏を通っていたため、助けてもらおうにも誰もいない。そんな不安に苛まれつつ、武士琉は建物に壁に背をぐったりとつけ、静かにため息を吐いた。
「蘭丸。いつになったら、お前に会えるんだ……。寂しい……ああ。もう一人は、苦しいな……」
昼間の空に浮かぶ孤独な太陽を眺め、武士琉は半ば諦め欠けていた。
だがしかし、一人の幼い少女が、堂々たる笑みをこぼして武士琉に近づいてきた。
「お主。何をしているのだ?」
見れば見るほど幼く、そしてまだ小さい子供である。
白く透き通るようなワンピースからは、まるでこの時代の人ではないかのような雰囲気を漂わせている。
「子供?冷やかしか?」
「何を言っている。私はお前を助けようとしているんじゃないか。しかも親切で話しかけてやってるというのに、この武士は」
「すまんすまん。ところで、飯食いたいのだが……何か食べるものないか?」
「あるよ。はい、チョコレート」
「は!?」
少女が肩から提げている茶色いカバンからは、銀色の紙に包まれた紅茶色をした板チョコというチョコレートであった。
「こんな時代にチョコレート!?」
「食わぬのか。なら私が食うぞ」
少女は口にチョコレートを運ぶ、がそれを遮り、武士琉はチョコレートを奪って口いっぱいに頬張った。
美味しそうに食べる武士琉を見て、少女は笑みをこぼした。
「ところでお前、名は何だ?」
「俺は武士琉。君は?」
「よくぞ聞いてくれた。我が名は藤条亜李葉。その名はいつか、世界一の武将ーー藤条紅真の妹の名として広く示されると私は確信している」
自信満々で少女は言った。
だがしかし、武士琉は首をかしげて少女へと聞き返す。
「藤条紅真?聞いたことない名だが、そんなに強い武将なのか?」
「何を言うか。我が兄、藤条紅真は素晴らしき才能を持った武将である。しかもいつかの戦場で強い武士を倒したと手紙で書いてあったのだ」
「なるほど」
武士琉は大体のことを察した。
手紙、ということを聞いた途端、それは彼が言う見栄なのだと解っていた。藤条紅真という男を過去の自分に照らし合わせ、武士琉は恥ずかしさのあまり顔を殴りたくなる羞恥に襲われる。
「どうした?武士琉」
「大丈夫大丈夫。で、その兄とやらは今戦場にいるのか?」
「いや。たしかもうすぐ戦が終わるから、帰ってくると思うよ。けど、またすぐ戦場へ行っちゃうらしいけどね」
と、寂しげに少女が言うと、僕が寄りかかっている建物の戸を誰かが叩いた。
「すまんな。客人が来たみたいだ」
少女はそう武士琉に言い、玄関へと足早に向かった。
しばらくの沈黙の後、少女の驚いたような声が響き渡った。
何があったのかと玄関の方へと足を進めると、全身に包帯を巻いた一人の男が、所々負傷してはいるが、動ける具合の女性の肩にもたれ掛かっていた。
「お兄ちゃん!」
包帯まみれのその男は、まさかまさかの少女の兄であった。
「亜李葉……。ただいま……」
力無い声でそう言うと、包帯まみれの男は倒れた。
「お兄ちゃぁぁぁぁあああん」




