第3話 今川 逃亡
1560年6月12日。12時50分
信長が豪雨の中、兵を進める。
向かった先は、今川城。魔王に従っている今川義元がいる城だ。
豪雨の中に兵達の足音が今川城に響く。
「信長が攻めてきたぞ」
「我が行こう」
この男。名を、井伊直盛。
彼は槍の天才で、今までに討ち取った首は500を超える。
「彼が行くなら安心だ」
誰もがそう確信していた。
井伊直盛の背中を、兵たちは誇らしげに見つめていた。
信長の軍勢が門を壊し、今川城に進行する。
信長はひたすら進む。
だが槍が飛んでくる。
「誰だ」
「今のを避けるとは、お前が信長か?」
「運が悪かったな。この私が、織田信長。未来の天下取りである」
「天下取り。アホかお前。お前は今、ここで死ぬ。俺の名は井伊直盛。槍の名将だ」
織田信長は刀。井伊直盛は槍。
間合いでは井伊直盛が有利である。だが修羅場を乗り越えた数は、信長の方が上であった。
お互いの武器がぶつかる度、火花が散る。
周りの者は、ただ静かに見ることしかできなかった。
幾度の武器が交わる中、決着がつく。
信長の刀が井伊直盛の右腕を突き刺す。すかさず二手、三手と攻撃を繰り返す。信長は四手目で刀を井伊直盛の心臓に突き刺し、井伊直盛は意識が遠のいていく。
膝をつけた井伊直盛。織田信長は、井伊直盛の首をはねた。
「今ここで、井伊直盛を殺した。これぞ我が愛刀。 藤鮫」
「おおおおおおおお」
ここから信長軍の猛攻が始まる。
来る敵全てを払いのけ、全てを倒す。
今川軍の誰もが止めることはできない。
13時10分。『今川の間』にて
「今川様。信長軍がすぐ近くまで来ております」
「はあ。そち、何をしておるのじゃ」
「何を?」
「撤退の準備をせー」
少し間をあけ、今川義元に仕えている兵は返事をする。
「はいっ」
13時15分
今川義元は撤退を開始し、既に城の外に逃げていた。
13時20分
信長達は『今川の間』に着く。
だが既に誰もいない。
信長は焦る。このままでは、魔王軍の援軍がこの戦場を包囲し、逃げ場をなくされてすぐに負けてしまうと。
長い道を歩き、必死に戦った。誰もが疲れている。
つまり、今ここが決着をつける場でないと負ける。それは誰もが分かっていた。
だが今川義元は逃げていた。
これが何を意味するか。それは、"信長軍の死"。
13時30分
信長軍。今川城から撤退を開始。
彼らは敗北する。
それは誰も追ってなかったらの話だ。信長ですら敗北を感じていた。だが今川を知り尽くした者が、今川を追っていた。
彼らの名は、森蘭丸。前田利家。そして、武士琉。