第37話 それぞれの思いが交錯する戦場で
武士琉と松平信一は刀を交えていた。
だが戦とは、経験の差が勝敗を大きく変えてしまう。
長きに渡って戦場を駆け抜けてきた松平信一の刀が、何度も武士琉の体に傷をつける。鎧越しに加えられる刀の一撃が、鎧を容易く破壊する。
「武士琉。たかが数個の戦場を生きただけのお前では、何も護ることなどできまい。それにあの戦場で多くを見捨てたその弱さじゃ、その男など護れまい」
武士琉の脳裏には過去のトラウマがよみがえった。
充満する血の匂い、弾け飛ぶ切断された腕の数々、時折踏みつけてしまう眼球の音には、嫌でも耳を塞いでしまう。
そんな地獄絵図のような光景の中で、少年は一人、死んでいた。
「ああ。このまま、死んでしまうのか……。皆……ごめん……。やっぱ俺は、無力だから、死んでしまうのだ。さようなら…………」
だがそこへ、一人の男が現れた。
「大丈夫か?私のもとに来るか?」
少年へ差し伸べられた太陽のように温かい手のひら、少年は温もりを追うように、いつしか戦場に戻っていた。
舞台は戻り、松平信一対武士琉の戦いが繰り広げている山森の中。
「武士琉。お前じゃ何も、救えない」
棒立ちの武士琉の心臓を目掛け、松平信一の刀が進められた。激しい血飛沫が舞い、武士琉の影に胸に一本の刃が刺さっている姿が見える。
勝利を確信したのか、松平信一は刀を握る手の力を弱めた。だがその瞬間、松平信一の刀を握り、松平信一は刀が抜けなくなった。
「まさか……なぜ生きている!?」
「俺は死なないんだよ。少なくとも、お前などには負けないんだよ」
武士琉は驚きのあまり体勢を後ろへ崩した松平信一の顔面目掛け、一発の拳を直撃させた。松平信一は吹き飛び、武士琉は刀を抜いて地へと捨てる。
転がった松平信一、彼をおいて武士琉と六角義治は走り出す。
「なあ。なぜ俺を殺さない?」
「死にたきゃ勝手に死ねばいい。俺は、知っている者の命はなるべくとりたくない。ただそれだけの理由で、俺はお前を殺さない」
「そうか……。お前、意外と変な奴だな」
「変か?」
「ああ。戦場ならば、俺はたとえ身内であろうとも容赦なく殺してきた。だからお前は少し変わっているよ」
口角を上げ、武士琉を称賛した。
武士琉は振り返り、一言放った。
「魔王は俺が倒す」
そう言って、武士琉は六角義治を背に走り出した。
武士琉が去った後のその場所で、松平信一は高笑いをして呟いた。
「さすがは武士琉という男だ。信長様が一目おいていたのも納得がいく。だが、魔王は俺が倒す……か…………。頑張れよ。武士琉」
武士琉という男の底無しの覚悟に微笑し、松平信一は戦意を失った。
「はあ。この勝負、ひとまずお前の勝ちでいい」
武士琉対松平信一
勝者、武士琉。




