第2話 信長 進軍
1560年6月12日。12時20分。鷲津砦にて
畳が敷かれ、壁にある障子には子供がするような穴が開いている。そんな小さな一室に集まっている多くの武士。その武士たちに高らかに宣言する者がいた。
「ここ。鷲津砦を討ち取られるな。討ち取られれば、信長さまの作戦は水の泡となる」
鷲津砦に鳴り響く怒号。
この時、誰もがこの先の出来事を想像できていなかった。
「武士琉殿。こちらに来てください」
「何ですか」
小さな一室を離れ、俺は蘭丸に案内され鷲津砦の地下に行く。
下水道なのか、水が少し通っていて石で壁や天井をドーム状に囲んでいる。
「まさかこんな場所があったとは」
歴史や建物に詳しい俺だったが、このような場所は知らなかったので感激する。
「武士琉殿。こんな場所……無かったのですよ」
「ど……どういうこと?」
「来ます。構えて」
蘭丸の怒鳴り声。その瞬間、突如正面から何者かが蘭丸を襲う。
正面から高速で来た男の刀を蘭丸はすぐに刀を抜いて受け止める。
謎の男の白い刃と蘭丸の赤い刃が火花を散らす。
「蘭丸!?」
「安心しろ。僕は……まだ……」
強がっている蘭丸だったが、正面から来た男の刀をギリギリで捌いている感じだった。刀が交わる度、水が飛沫をあげる。
その男の顔はよく見えないが、その太刀の速さと戦闘能力は相当の強者。
腰に一本の白鞘の刀をぶらさげ、背中にクロスした二本の白い鞘の内、一本が抜かれている。つまりその刀を使っているのか。
「こりゃあ驚いた。まさか女が俺の太刀を捌くとは」
「貴様あああああ」
俺は窮地の蘭丸を救うべく、謎の男に斬りかかるも、刀を弾かれ天井に刺さる。
「邪魔だよ」
謎の男の太刀が俺を斬る……って
「斬るわけないだろ」
その男の刀は俺の首の横でピタリと止まった。
その男の顔をよく見てみると、見覚えのある若い男前の面。それに茶色く短い髪の上から装備している銀色の防具。そこに入った梅の花びらの紋章。
「前田殿!?」
このお方。前田利家。
過去に悪事を働き、現在は信長殿に出陣は禁止にされていたはず。
「何で戦場に?」
「信長が死ねば俺は戦場に戻れる。でも、あのお方がいたからここまで来れた。あのお方がいたから今生きてる。だから恩返しがしたいんだ」
前田家の当主。前田利家は心に決めていた。
織田信長になにかあったら、全力で信長を護ると。
だから彼は今、この戦場に一人で来ているのだと。
「それでは道は私、蘭丸が案内します」
「大きくなったな。蘭ちゃん」
利家は蘭丸の長い髪を整えるように頭を優しく撫でる。
「気安く触るな」
「蘭ちゃん。怖くなったな」
「もう」とそっぽを向いた蘭丸であったが、蘭丸は利家をこれから行く戦場に案内する。
「では行きましょう。あの場所に」
あの……場所?
12時40分。今川義元の城にて
今川義元の護衛。5000人。
対して織田信長率いる軍勢は3000。
今、信長が持つ二つの砦のうち、鷲津砦には100人。丸根砦には1人。
丸根砦を護る一人の武士。
その者の名は佐久間盛重。まだ19歳である。
12時50分。今川義元の城前にて
今川義元の護衛。4500人。
対して織田信長率いる軍勢は3000。
今、戦いの火花が散らされる。
「うおおおおおおおお」
織田の軍勢の叫び声が今川城に散らされる。
「織田の軍勢が攻めてきたぞ」
「進め。今ここで今川義元を、殺す」
織田の軍勢(3104人)
・・今川義元の城攻略隊(3000人)
・織田信長
・柴田勝家
・毛利良勝
・・丸根砦護衛役(1人)
・佐久間盛重
・・鷲津砦護衛役(100人)
・飯尾家
・・別動隊(3人)
・前田利家
・森蘭丸
・武士琉
今川の軍勢(3万人)
・・今川義元の護衛役(4500人)
・井伊直盛
・朝比奈家
・・丸根砦攻略隊(5000人)
・酒井忠次
・・鷲津砦攻略隊(5000人)
・本田忠勝
・・予備隊(1万500人)
・・魔王に戦況を知らせる部隊(5000人)