第16話 武士琉の子
ーー1560年6月13日。1時00分。
鷲津砦にて
今の俺じゃデュラハンには勝てない。
どうすれば、この子を生かしてこの場所から逃げることができる?
武士琉は必死に頭を働かせるも、その答えは到底思い付くはずもない。
頑丈すぎる体を持つデュラハン。そんな彼に、しかも魔王が認めた七名の魔族。そのデュラハンには、勝てることなど、そう簡単な話ではなかった。
「だい……じょうぶ。私は……もういい。私は……死にたい。だから……逃げて」
武士琉の腕に抱えられた少女は、武士琉の服の袖を掴みながらそう言っている。
魔王の子は自分の命を懸けて、武士琉を助けようとしてる。
本当に優しい子だな。だから……
「なあ少女よ。お前に名を与える。お前の新しい名だ。だから……だから少しは生きたいと思え」
「で……でも」
「安心しろ。死ぬときは一緒だ」
「そんなの……」
武士琉を心配する少女へ、武士琉は優しく言った。
「お前の名は御経。名前に意味はない。でも……お前を見たらスッと思い浮かんだ」
魔王の子は目を赤くし、涙をこらえている。
「御経。お前はこれから……魔王の子じゃなく…………俺の子として生きろ」
武士琉は少女の頭をなで、涙を堪えている御経へと優しい温もりを与えた。
「終わったか?」
「うるさいな。デュラハン」
「駄目。戦えば、殺される」
御経は武士琉に抱きつく。
「やめて。もう……いいから。だから……私がやる」
「御経?」
御経の目は白色に染まっていた。
彼女から放たれる純白のオーラは、魔族のものではない。もっと神聖なる何かのものであった。
「ルーズ、どうした。お前は失敗作なんだ。お前に力など備わってない。わかったらとっとと降参しろ」
御経は武士琉の腕から降り、ゆっくりとデュラハンへと歩む。
「御経。何をするんだ?」
「私は御経。武士琉の子。だから私は武士琉のように強い。武士琉のように諦めない。でなきゃ武士琉の子じゃない」
武士琉は御経をただ静かに見つめている。
御経の自信に満ちた目を見ていると、武士琉は過去の自分を思い出す。だから……託したくなったのだろう。
「いけー。御経」
御経は天へと両手を仰ぎ、呪文のようなものを唱え始める。
「蒼白なる怒りの雷よ。蓮獄なる魂の炎よ。我が力の全てを懸けて、我らが敵を打ち砕け。『怒雷魂炎』」
雷と炎が少女の両手から放たれ、棒立ちのデュラハンを襲う。周囲へ扇動と戦慄が駆け、白煙が鼻をすするような刺激を放っている。濃い煙が辺りを埋めつくし、焦げた匂いが鼻を刺激する。
「デュラハンは?」
「やりましたよ、武士琉。私は……やりました」
御経は倒れる。
俺はすぐに駆け寄り、御経を抱く。
「武士琉……」
今にも死にそうな声を出し、御経は武士琉を見上げる。そんな御経へ、武士琉は優しく言葉をかけた。
「さすがは、我が娘だ」
「でしょ、武士琉」
御経は笑った。
武士琉は御経を抱きしめ、彼女の強さを痛感した。
「帰るぞ。御経」
ーー1560年6月13日。1時10分。
デュラハン 対 武士琉&御経
勝者 武士琉&御経




