表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同居人はお嬢様  作者: 夏川 流美
1/3

プロローグ

「優希。私の部屋の机の上に置いてある本、持ってきて」


 短く返事をして彼女のもとを離れる。車が余裕で走れそうな広々とした廊下を歩いて、彼女の部屋に向かう。こうして小さなことでもパシリにされるのは日常だった。けれど、前の暮らしを考えれば、このくらいへちゃらだ。


 人身売買がこの世界で可能になってしまったのは、俺が生まれるずっと前だと聞いている。本当の両親は妹を宝石のように可愛がり、疎まれた俺は人身売買をしているところに売られた。女に買われ、男に買われ、夫婦に買われ。買われるたびに人ではない扱いをされ続け、結局は飽きたと言ってまた売られた。顔中に消えないタバコの跡が付き、背中にはハンマーで殴られた痣が残っている。


 殺されると思いながら生きてきた。いっそ死にたいと思いながら生きてきた。今は金持ちのお嬢様、西条美月に買われ、平和な日々を過ごしている。もう、見物にされる狭い檻の中になど、戻りたくはない。それでも、いつ暴力を振られて、いつ捨てられるか。俺は、怯えて過ごすしかなかった。


「あら優希さん。またお嬢様にお願い事でもされたの?」

「香織さん、こんにちは。部屋から本を持ってきてほしいと言われて」

「いつもありがとうね。大変でしょう」


 掃除用具一式をまとめて持ち運び、ロングスカートのメイド服を身にまとう彼女は、この屋敷のメイドだった。そんなことないですよ、と笑って返す。いつもと変わらぬ、優しい笑顔を浮かべる香織さんに会釈して、部屋に向かう。目的の本は、部屋に入ってすぐに見つかった。分厚く、表紙に女の子の後ろ姿が描かれている。早く美月に持っていかねば、小言を言われてしまう。と、俺は足早に美月のもとに戻った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ