パンパク
おもいつくままにかきました。
ある朝のことである。
純子は食パンを口に咥えながら家を飛び出した。なぜなら、学校に遅刻しそうだったからである。ちなみに、咥えていたのが食パンではなくお魚だったら、純子はどら猫である。そうなると裸足で駆けてく主婦に追っかけられてしまうので、危ないところだった。
走りながら食パンを食べるには、英検2級ほどの技能が必要である。残念ながら、純子は英語が苦手だったから、食パンをうまく食べることができなかった。一口食べるたびにボロボロとこぼすので、純子の走る後にはパンの道が出来ていた。これで家までの帰り道が分かるので、一安心である。純子は英語はできないが頭は良いのだ。
だが、それは上手くいかなかった。誰が純子の完璧な作戦を看破し、妨害できたのか。
それは一頭のカバであった。
カバを反対にするとバカである。つまり、地面にしっかりと足をつけているカバは天才だったのだ。
純子は、「バカと天才は紙一重」という言葉を知らなかった。もし知っていたなら、
「バカの反対は天才じゃない! だからあなたは、天才なんかじゃないわ!」
と、カバを言い負かしただろう。
しかし、そんな仮定は無意味である。カバは自分が天才だということを疑わず、道に落ちたパンをパクパクと食べた。略してパンパクである。
パンパクするカバはワンパクであった。カバはどんどん食べるスピードを増していき、遂に純子に激突するように思われた。
ここで純子に電流走る……! このまま激突すれば犬死にっ……! 犬だっ……! このままでは犬っ……! そんな極限の状態で、純子の頭に一つの考えが浮かんだ。 それは、純子にとっては神からの掲示に感じられた。正に僥倖……! 圧倒的感謝……!
純子はカバと激突する……その瞬間。 純子はひらりと翻り、カバの背中に乗っていた。その姿の美しさは、なにものにも例えようがなかった。さながら荒野を往くウェスタンのカウボーイである。いや例えようがあるじゃねえか。
「ハッ!」
純子は手にした鞭をふるい、掛け声をあげた。普通の女の子は鞭を持っているはずがないが、純子は普通の女の子ではないので、鞭を持っているのが普通である。何が普通で何が普通ではないのか。それは哲学の分野なので、ここでは言及しない。
カバはいつの間にか馬に姿を変えていた。なぜなら、カウボーイが乗るのはカバではなく馬だからである。どうやら純子とカバの知恵比べは、純子の勝利で幕を閉じたらしい。
馬が駆ける。
風を切る。
景色が流れる。
カツラがとぶ。
鞭を振るう。
馬が駆ける。駆ける。駆ける。
いつの間にか純子は、光の速さを追い抜いていた。光は純子に追い付けず、純子は世界を振り切った。今や純子のいた世界は遠く離れ、無の世界を彼女は行く。彼女の生は、今や終わりに向かっていた。
しかし、無と混じりあっていくにつれ、純子は悟った。
(これは終わりじゃない。始まりなんだ。)
また新たな世界を作るのだ。自分が成し遂げられなかったことを、新たな自分に託すのだ。
純子は走り続けたまま、正面に自分のコピーを作り出した。そのコピーもまた走っており、こちらにむかって来る。
(さあ、創ろう! ……世界を!!! )
純子と純子のコピーは衝突した。光速度の衝突。そのあとには、宇宙ができていた。
永い時が経った。純子の宇宙には生命が生まれ、人間が生まれた。そして、純子という女の子が生まれた。
ある朝のことである。
純子は食パンを口に咥えながら家を飛び出した。なぜなら、そうしなければならない気がしたからである。決して遅い時間ではなかったので、純子は遅刻せずに学校についた。
純子は、何か得体の知れないものに突き動かされたと感じていた。そして純子はそれが、別世界の自分だと感覚で分かっていた。じゃあ得体の知れないものじゃねえじゃねえか。
すいこうもしてないです。