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迷い

「私も学生の時、先生に相談しろと言われた事は何度もあった。でもそれは全部、自分の中で飲み込んで来た。言った所で何にも解決しないって悟っていたからだ。だから、私も久保の言いたくない気持ちは分かっているつもりだ」


 その時の先生は遠くを見つめていて、何処か悲しそうだった。


「でも、結果私は後悔したんだ。そして思った。あの時相談していたら違う未来もあったんじゃないかって。だから、生徒がもし言えないと言っても私は何も責めたりはしない。だが、出来るのなら手を差し伸べてあげたい。久保が未来で後悔しないように。今のままだといつか後悔するんじゃないかって先生はお前を見てそう思う」


 先生は優しい目で俺を見る。俺は先生の目を一瞬見てすぐに目を逸らした。先生の言葉を聞いて、この人なら頼ってもいいかもと一瞬思った。

 しかし、過去の記憶が脳裏を過る。言っても助けてくれなかった小学生の時の記憶。「それはちょっとからかってるだけよ」で済まして一切聞かなかった先生達。あの時から先生と言うものを信じるのは辞めて生きて来た。何かあっても自分で何とかしよう。それが無理ならぼっちになってやろう。そうすればきっと楽な筈だから。そう思って来た。今でもそう思っている。


「……」


 どう言うべきなのかまだ答えが出せず、黙ってしまった。


「まぁ、今すぐに言って欲しいって訳じゃない。お前も昔に何かあったんだろう。生徒指導でいろんな奴を見て来た私には分かる。だから、今じゃなくていい。お前が助けて欲しいって思った時に言ってくれればいいよ。その時は助けてやる」


 先生は缶コーヒーを一気飲みすると立ち上がった。先生は笑うと俺の肩をバシバシと叩いて笑った。


「先生、すみません……」


 今まで出会って来たどんな先生よりも俺の事を理解してくれている先生に打ち明ける事が出来なかった。今の俺には謝る事しか出来なかった。


「何で謝るんだ。お前は何も間違ってないよ。先生は助けがいるなら助けてやると言ったんだ。助けがいらないのなら、それはそれでいい事だ。今日のお前の文化祭の仕事はこれで終わりだ。今日は帰っていいぞ」


「はい」


 先生はうんと頷くと、缶を捨てて職員室に向かった。そして、何か思い出したかのように立ち止まり、俺の方に振り向いた。


「あ、そうだ。久保」


「何ですか?」


「お前、コーヒー苦手か?全然飲んでないじゃないか」


「は、はい。苦いのダメなんで」


「なら良かった。職員室に入って来た時の仕返ししてやろうと思ってたんだ。じゃ、気を付けて帰れよ」


「は、はぁ……」


 先生はそう言い残し歩き出した。先生が見えなくなった頃、俺は無言で缶コーヒーを開け、一口飲んだ。


「やっぱり苦げぇ」


 文句を言いつつ全部飲み干した。

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