気持ちが分かるよって言わせて欲しい
「た、橘さん?何で泣いて……」
橘さんがなく理由は全くない。自分が勝手にやって自分が勝手に目をつけられただけ。交通事故みたいなもんだ。自分が助けたくて助けただけ。そこに橘さんの感情は一切関与していない。だから、橘さんがなく理由は無いって言ってあげたい。でも、それが言える状況では無かった。
「何でって、分からないの?久保君が私のせいで傷付いているからだよ?」
「俺は傷付いて無いよ?あんなの気にしたら負けだからね。罵倒には慣れてるし」
そう。俺は高校になるまでぼっちを貫いて来た。今までにも「クズ」だの「死ね」だの直接言われた事だってある。最初は傷付くけど、数回も言われれば慣れる。気にしないようにすれば気にならない。人は慣れる生き物だから。だから今回も全然傷付いてはいない。気にしたら負けだ。
「そういう事じゃない……そういう事じゃ無いんだよ久保君……。人はね、傷付いてないって思ってても、心の奥では絶対に傷付いているんだよ。それを自分で傷付いていないって思ってるだけなんだよ?」
「そんなの、橘さんに分かるわけが……」
「分かるよ!!私にも分かるなんて簡単に言っちゃダメなのは分かってるの。でも、今回ばかりは分かるよ。だって私もそういう風に思ってるから。そう思う事が自分にとって楽って知ってるから」
橘さんは僕の両肩を持った手を離し、今度は僕の手を両手で掴んだ。こんな状況なのにドキっとしてしまった。
「だからね、久保君。私の前ではそんな風に思わなくていいんだよ。辛い時は正直に辛いって言って欲しいの。そうじゃないと私がぼっちだった意味が無くなっちゃう。同じぼっちを経験した人として、こういう時はその気持ち分かるよって言わせて欲しいの。ダメ……かな?」
先生や同級生に同じ言葉を言われていたら、間違いなく分かる訳が無いって言って話を聞か無かっただろう。でも、今話している橘さんは俺と同じでぼっちを経験している。説得力がある。これを否定するの同じぼっちの時間を経験した橘さんに失礼だ。
「ダメじゃないよ。うん、そうだね。その時は橘さんに正直に言う事にするよ」
「うん。そうして欲しい。って、あはは、おかしいな。私のせいで久保君が傷ついているのに、何で私が久保君にこんな偉そうに言ってるんだろ」
橘さんは涙をハンカチで拭きながらそう言った。僕は椅子から立ち上がり橘さんの両肩を掴んで言った。
「じゃあ、さ。橘さんに偉そうに言われたお返しに俺も偉そうな事一つ言うね」
「え?う、うん」
「橘さんは誰にも言わないで我慢する所があるから、何かあったら僕に言ってね?守る……とは確証できないけど、出来る限りの事はするからさ」
「ありがとう。久保君。そうする」
橘さんはもう涙を流していなかった。少し安心した。橘さんを泣かせたなんてぼっち部の人に知らされたら、もう僕の居場所は無い。
「じゃ、教室戻って机拭いて来るね」
先生が来る前にしないと質問でもされたら後が面倒だ。
「ま、待って久保君!」
僕が教室に向かおうとしたら、橘さんに手を掴まれた。
「ん?な、何かな?橘さん」
「あのね。久保君は前に……。ううん。何でも無い」
「???」
僕は何を言おうとしたのか気になったが今は証拠を隠滅する方が最優先だ。急いで教室に向かった。
久しぶりの投稿です!!
これだけ時間空いたので久しぶりにぼっちエピソードを。もちろん自分です。
今のこの環境で外に出られないってよく言うじゃないですか。私、日常と何も変わらないんですよね……そういう事です。また次回よろしくお願いします