またまたちょっとした騒動?(3)
妹が連れてきた彼氏は、僕とは違って意思が固く、ハッキリしているところに少しの嫉妬を覚えながらも好感が持てる。
良いヤツと出逢ったのだな、と兄として嬉しくもある。
まあ、僕の妹だからな。『イケメンボーイ』くんがそれほど好きになる気持ちも解る。
うん。見る目のある良いヤツだ……なんて。
そんなことを考えていると、思いもかけない助け船がでた。
「あなたはそんなこと考えて私と結婚したの?」
さりげない母の問いかけに、父は「ぐっ」と息をのんだ。
「ねえ、どうだったの?」
思いがけない母の逆襲に父は「いや、なんだな。その……」と歯切れの悪い返事を重ね、最終的には「私のことはいい!」と逆ギレする始末。
そこでいよいよ僕の出番だ。
「今はお互いに好きな気持ちが先行して、周りが見えなくなっているんじゃないかな。
まだ大学生だし、これからもっといろんなことを経験して学んで、もっと大人になってから結論をだしたって遅くないと思うよ」
って、僕が言うのもなんだけど。
一応、兄として格好のいい言葉を並べたわけだが。
「それに、今時のチャラチャラした大学生よりも誠実だと思うよ」
と、フォローも忘れずに。
どうだ、これで完璧だろう。
「そうね。まあ、そのことはすぐに結論をださなくても、おいおい考えていけばいいんじゃないの?」
母親も僕と同じ考えのようで。
「そうそう」
僕はニコニコと頷きながら父、母、妹、イケメンボーイくんと順に笑顔を投げかけた。
「さあ、ごはんが冷めちゃうわ。いただきましょう」
母が空気をパッと変えてくれたおかげで、一応この話は幕引きとなる。
父は少し渋い顔をしていたが、「まあ、そうだな」とひと言発した。
それからすっかり冷めた夕食をみんなで食べたわけだが。
その空気はなんというか、8月の蒸し暑さの中にひんやりとした冷気をまとっていた。
純粋な若者ふたりに兄は微笑ましく見守ることしかできないけれど、それでも彼らを応援したいと思った。
そして夕食後、帰っていくイケメンボーイくんを玄関先まで見送りに行った妹たちに、「僕はお前らの味方だからな」と声をかける。「ありがとうございます!」と言って深く頭を下げる彼の横で、嬉しそうに頷く妹の目にうっすらと光る綺麗な雫が見えた。
ああ妹よ。
ずっと変わらずそのままのお前でいてくれよ。
そう願う兄だ。
お読み下さりありがとうございました。
次話「あの日から(1)」もよろしくお願いします!