またまたちょっとした騒動?(1)
気づけば以前にも訪れた夢の世界。
――全てが真っ白な世界――に佇んでいた僕。
遠くで手招きする〈女神のようなその差し出した手〉を追いかけて、結局は以前と同じくもう少しのところで目が覚める。
だけど、いつかこの手が届くと信じてみよう。諦めずに追いかけてみよう。そう思った。
もう後悔しないために。
日曜の朝。
僕はいつものように目覚まし時計の凄まじい音で飛び起き……たわけではなく、珍しく自室のドアの外から聞こえる、柔らかく、しかし弾んだ声音によって白い世界から呼び戻された。
「おはよう。もう起きてる?」
ん? 誰だ?
もう少しで届きそうだったのに。
意識が現実の世界に近づいてくる。
「ねえ、起きてる?」
可愛い声の主の言葉に、もう少し寝かせておいてほしかった僕は答える。
「いや、まだ寝てる」
「もう! お兄ちゃん!」
声を発したのが間違いだったか、「返事するぐらいだから起きてんじゃん」とか「早く支度して」などと続けざまにいろんな言葉を投げかけられて、もうゆっくり寝ていられない状況に。
いや、もし妹の声を無視していたとしても、結局は僕が起きるまで喋り続けていたに違いない。
「お前、今日はデートだろ? 早くしないと遅れるんじゃないのか? 僕は予定なしだから、もう少し寝かせてくれよ」
「そうよ。だから早く起きてほしいのよ」
なんでそうなるかな?
僕には関係ないはずだけど?
「お前のデートと僕の早起きにどんな関係があるんだよ」
すると妹は急に小声になり、恥ずかしそうに言う。
「今日のお弁当の味見をしてほしいの」
は? なんで僕が?
味見なら父でも母でもできるだろうに。
「それって、毒味ってことか?」
寝起きのぼやけた頭がつい余計なひと言を口走らせる。
そして僕が言葉を発するや否や、部屋のドアが勢いよく開け放たれた。
「もう! ごちゃごちゃ言ってないで早く起きて協力してよ。毒味なんて失礼な! 美味しいに決まってんじゃん」
「はいはい」
まあ、妹の料理の腕前が見違えるように上達しているのは、昨日の夕飯で実証済みだが。
なんというか、ものの言い方が心なしか母親に似てきた気がする。
……ということは、あまり長引かせない方が身のためということだな。
僕は渋々……いや、喜んで妹が『イケメンボーイ』くんのために、腕によりをかけて作ったご馳走の味見をすべく部屋を後にした。
リビングに行く前に、ちゃんと歯を磨いてから。
でないと、今度は母親にまた細かい指摘をされるから。
男はつらい生き物だ。
お読み下さりありがとうございました。
次話「またまたちょっとした騒動?(2)」もよろしくお願いします!