表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『今までも、これからも。』  作者: 藤乃 澄乃
第11章 戻らない時間
92/110

親友宅にて(7)

 そう。一番やっかいで、一番大事なこと。

 確かに僕は、彼女のことが好きだ。どうしようもないぐらいに。

 彼女も同じ気持ちだってことも知ってる。


 だけど、忘れちゃいけないことがあるんだ。

 忘れたくても忘れられない、一番やっかいで、一番大事なこと。


「記憶だよ。僕の記憶」


 どんなに想い出したくても、想い出せない。彼女との想い出。

 想い出せないから忘れちゃいけない。記憶がないってことを。


「お前、『今の自分が彼女に恋をした』って言ってたじゃないか」


「その通りだよ。だけど、僕には今の記憶しかないんだ。でも、彼女は違う。僕達が最初に出逢った頃からの、僕の知らない、彼女だけの記憶があるんだ」


 それは一番やっかいで。だけど一番大事なことなんだ。


「だからどうだっていうんだよ」


 親友には解ってもらえないかもしれないが。


「記憶が戻らない以上、一緒にはいられないよ。いくら話で聞いたって、想い出を聞いたって、ただの物語だ。それは、僕の記憶じゃないんだよ。今は良くても、いつかそのことで衝突することになると思う。お互いにそういうのは、かえって辛いよ。彼女と言い争いたくないんだ」


「彼女もそう言ってた」


「だろうね」


 ……だろうね。

 彼女ならきっとそう言うだろう。

 なぜだか解らないが、そんな気がする。


「もっと自分本位になってもいいんじゃないか?」


 自分本位に、か。


「それができたら、苦しまなくてすむね。でも、他人からみたらほんの些細なことでも、本人にはとても大きな問題ということもあるんだよ」


「それはそうだな。お前の言いたいことは解るよ。……じゃあ、記憶が戻れば問題はなくなるんだな」


 記憶が戻れば。

 今更記憶が戻ったとしてどうだ?


 記憶が戻れば……だけど、今となってはそんな簡単な問題じゃないんだよ。


「もっと前ならね。時間は進んでるんだよ。待ってはくれない。ましてや、戻すこともできやしない。……色んなことがありすぎたよ。この先、どうなっていくのかは解らないけど、大きな気持ちで見守っていてくれないか」


 もしかすると僕は逃げているのだろうか。

 いや違う。彼女とのことから逃げるなんて。


 でも、もう。

 記憶が戻ればまた……なんて考えることに。

 ……もう疲れてしまったのかもしれないな。


「解ったよ。でも、よく考えて、後悔しないようにな。どんなことがあっても、俺はお前の味方だ」


「色々心配してくれて、ありがとう。僕はいい親友を持って、幸せ者だ」


「そうか、さあ飲め」


 そう言って、親友はジンジャエールをグラスにいでくれた。



お読み下さりありがとうございました。


次話より『第12章 希望と絶望』に入ります。

次話「妹よ」もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ