親友宅にて(5)
彼女のことについてなにか話したそうにしているのだけど、親友の、『らしくない』態度に妙な胸騒ぎを憶える。
早く聞きたいような、でも聞きたくないような。
とりあえず聞いてみないことには始まらない。
「何だよ」
すると親友は、言いにくそうに話し出した。
どうも、これが今日オレを呼び出した本題のようだ。
「実は……彼女、結婚式取り止めたんだよ」
なんだって?
8月最後の日曜日に結婚式を挙げるって言ってたのに。
取り止めたってことは……。
「えっ、じゃあ、延期するの?」
結婚式を取り止めるなんて、それしか理由が浮かばない。
だが親友の返事は意外なものだった。
「いや、結婚式自体、白紙に戻したんだよ」
なんだって?
白紙に戻したってどういうことだ。
もうその相手とは結婚しないということか?
お互いあれだけの想いを乗り越えて、あの『エピローグデート』をしたっていうのに。
結婚式に向けての、前に進んでいくための『けじめ』をつけるために。
「何があったの?」
もう逆戻りはできない。理由が気になる。
すると溜め息をひとつついて、親友が話し出した。
「今朝、彼女が家に来て『どうしても好きじゃない人とは、結婚できない。今更断ったら、色んな人に迷惑かけることは解っているし、相手にも申し訳ないことは解ってる。頭では理解してるけど、心が追いつかない。色々考えたけど、やっぱり結婚はできない』って言うんだ」
僕にはどうも納得がいかない。
「そんなこと、今頃になって」
優柔不断な僕が言うのもなんだが、多くの人に迷惑をかけるのを承知で……なんて彼女らしくない。
好きじゃないひとと結婚しようと思ったんだろ?
全部解った上でそう決断したんじゃないのか?
「そうだよな。まだ悩んでる段階だったら相談に乗ることもできたけど。もう断って、両親と一緒に先方に謝りにも行ったらしいよ」
そっか。もうそこまで。
「ご両親にも、心配かけたんだな」
僕は視線を落とした。
すると親友は大きく息を吸い込んだと思うと、キッパリとした口調で聞いてきた。
「お前、どうする?」
親友にそう聞かれて咄嗟に答えられる訳もない。
寝耳に水とはこういうことを言うのか。
ふたりで話し合い『けじめ』の『エピローグデート』までしたというのに。
彼女が結婚を取り止めたからって、「はいそうですか」と言えるはずもなく。
自分がどうしたいのかもすぐには答えられない。
こころの中はどうにも複雑に糸が絡み合っているようだ。
一体どうしたいんだ。
僕は……。
お読み下さりありがとうございました。
次話「親友宅にて(6)」もよろしくお願いします!