親友宅にて(3)
彼女ちゃんを実家に帰してまでする話って、何だろう。いささか気になるが、
まずは……。
「まずは乾杯だな」
嬉しそうに冷蔵庫に向かう親友には悪いが。
「そうだな。いつもだったらそう言いたいところだけど」
「なんだ?」
冷蔵庫から取り出した缶ビールを片手に振り向きながら、眉を顰めた親友が聞き返す。
「やっぱり僕は、今日は飲むのやめておくよ」
「おいおい何だよ、付き合い悪いな」
そうだけど、仕方がないんだよな。
「本当は飲みたいんだけど」
僕がそう言うと「なら、飲もうぜ」と言ってきたが、「残念だけど」と答える。そして断る理由を簡単に言う。
「明日朝一番で大事な会議があるんだ。お前と飲んで羽目を外して、寝坊する訳にはいかないからな」
「相変わらず真面目だな」と苦笑いを浮かべた親友は「ま、そこがお前のいいとこだけどな」と付け加えた。
僕がニヤリとして「そうだろ?」と言うと「自分で言うか!」と返してくる。
こんな親友とのやりとりは、やはり僕には大切な時間だ。
「じゃ、今日はジンジャエールで」
「高校生か!」
親友のナイスつっこみに笑い合って、乾杯をする。
それからしばらく僕達ふたりは、本当に高校生みたいに久し振りにジンジャエールではしゃいだ。やっぱり気が置けない親友といると、いつでも学生時代に戻れる。
「ところで、今日ちょっとあったって、何があったんだ? 言ってみ」
さっき外で、ここに来るのが遅くなった言い訳に、さらっと親友に言った言葉をまだ覚えていたのか。
「言ってみろ」と言われて、「はい、そうですか」と言える話でもない。
「いや、わざわざ言うほどのことでも……」
僕は言葉を濁した。すると親友は……。
「言ってみろ、ヤツのことだろ」
「え」
親友は、僕のことは何でもお見通しなんだな。コイツにはかなわない。
観念した僕は、渋々ヤツとのこれまでのいきさつを話した。優柔不断な情けない僕の武勇伝を長々と。僕が話し終わるまで親友は黙って聞いている。そして最後まで聞き終わると、親友はふうと大きなため息とともに、ゆっくりと口を開いた。
「本当に、お前は優柔不断だな。好きでもない奴に気を持たせるようなことを言って、その気にさせて傷つけて」
親友は僕の長々とした優柔不断武勇伝を、バッサリと斬ってくる。
しかし、短くまとめられた長々とした経緯に、返す言葉もない。
「反省してる。僕は彼女と離れることになって、辛くて切なくて。きっと自分を見失ってたんだよ」
「そうだな。だからといって、ひとを傷つけていいということはないぞ。それはお前のこころの内側の問題なんだから、他人には関係ない」
本当にその通りだ。腑甲斐なかった自分に嫌気がさす。
「ヤツには悪いことをしたと思ってる。だから今日、きっぱり別れてきた……っていうか、そもそも僕たちは付き合ってもいなかったわけだけど」
「そうだな」
「だから、ヤツにはっきりそう言ったんだ。これ以上期待を持たせたままというのもよくないし、このままじゃお互い前に進めないと思って」
「そうだな」
「たとえヤツとどうにかなったとしても、彼女のことを忘れられるとは思えない。そんなつもりでヤツと付き合うなんて、どうしても僕にはできなかった。今はただ優柔不断で前に進むことを躊躇っていた自分に腹が立つよ。もっと早くに態度を決めていれば、ヤツもそこまで思い詰めることはなかったのかな、なんて」
僕がそう言うと、親友は少しの間黙った。
この沈黙の時間が妙に居心地が悪い。
しばらくして、徐に口を開いた親友の言葉に、僕は一瞬耳を疑った。
お読み下さりありがとうございました。
次話「親友宅にて(4)」もよろしくお願いします!