親友宅にて(2)
僕は玄関で「お邪魔します」とひと声かけ、促されるままリビングのソファーに座った。
見慣れた親友宅のリビング。妙に静かな空間。どうしたんだ?
辺りを見渡し、なにかいつもと様子が違うことにオレは気づいた。
僕がひと声かけたにもかかわらず、なんの返事も返ってこない。
いつもなら「いらっしゃ~い」と笑顔とともに出迎えてくれる彼女ちゃん。その隣には無邪気な笑みで、キャッキャとはしゃいでいる子供ちゃんの姿が。だけど今日は…………。
シーンとした部屋からは、いつものような彼女ちゃんの笑顔もなく、子供ちゃんの声も聞こえない。
がらんとした空間は、いつもより広く感じた。
「あれ? 彼女ちゃんと子供ちゃんは?」
いつも賑やかに迎えてくれるふたりの姿が見当たらないことに、僕は違和感を覚えた。
「ああ、実家に帰ってる」
サラッと言った言葉に「ああそうか」とも言えない。
突然の親友の言葉に、思ってもみなかった答えに、僕は動揺した。
「えー! あんなに仲が良かったのに。は、話ってそのことか? 一体何があったんだ。ケンカでもしたのか? だったら僕が間に入って……」
今まで心配かけてきた分、今度は僕が親友達の力になりたいと思った。
自分のことよりも、親友の悩みを聞くことを優先させたいと、こころからそう思った。
「まあまあ、落ち着けよ。早とちりだなぁ」
「へ?」
早とちりだって?
「お前、高校の時からそういうとこ、全然変わってないよな」
どういう意味だよ。
「それって、成長してないってことか?」
「かもな」
そう言って親友はひとり大笑いしているが、僕は気になってしょうがない。
「で、早とちりって何だよ」
「お前が来るんだったら、2人でゆっくり話ができるようにって、気を利かせて実家に帰っただけだよ」
「なーんだ」
なんだ、そうだったのか。ほんと、早とちりだ。
「ちょっと残念そうだな」
残念というかなんというか。
「折角、僕の出番だと思ったんだけどな」
そう言って笑い合った。
でも、出番がなくてよかった。
親友達になにごともなくて本当によかった。
そう思い、ホッとして息を漏らす。
すると親友は嬉しそうに言う。
「今日は飲もうぜ、いいだろ?」
でも……。
今日僕を呼び出したのには、なにか理由があったんじゃないのか?
彼女ちゃんが気を利かせて子供ちゃんを連れて実家に帰るほどの、よっぽど僕とゆっくり話したいなにか理由があったんじゃないのか?
「何か僕に話があったんじゃないのか?」
すると親友は一瞬頬を緩めるのをやめて、「飲みながら、追々話すよ」と言う。
飲みながら追々って。
飲みながらできるほどの話なのか?
でも、彼女ちゃんをわざわざ実家に帰してまでする話って、何だろう。いささか気になるが。
まずは……。
お読み下さりありがとうございました。
次話「親友宅にて(3)」もよろしくお願いします!