親友宅にて(1)
優柔不断だった僕も、やっとヤツとのことに終止符を打つことができた。
ヤツには申し訳ないが、お互いのためには良かったのだと思う。
あのまま互いにごまかしながらずるずると日にちが経てば、きっと後で嫌な思いをするときがくるだろう。
これでよかったんだ。
もっと早くにこうしていれば……。
いや、今だからこそきっぱりと言えたのだろう。
優柔不断も卒業だな。
ヤツの家を後にし、夕暮れ迫る街並みを親友宅に急いだ。
ひとつ心配ごとが片付いてもホッとはしていられない。
残暑厳しい日曜の午後、久々に親友からきたメール。
理由も告げずにただ『来てくれ』だなんて。アイツらしくない。
学生時代とは違い、お互い仕事も忙しいし、親友には彼女ちゃんと子供ちゃんとの家庭もある。
なのに突然家に来るようにだなんて。
家を出る直前にヤツから緊急だとの電話がかかり、ヤツの家に向かったのだが。
親友が僕に電話では話せないことって何なのだろう。
彼女ちゃんとの間になにかあったのだろうか。
なにか胸騒ぎがする。
今まで僕は親友には助けられてきた。
今度は僕が親友の力になりたい。
大急ぎで親友宅に着くと、しびれを切らした親友が家の外をウロウロしながら待っていた。
夕方と言いながら少し遅くなってしまった申し訳なさに、心が痛む。
親友は遠目に僕を見つけるなり走って来た。
「遅いぞ!」
「ごめんごめん、ちょっとあって」
まさかここでヤツとのことを言うわけにもいかず、言葉を濁した。
「ちょっとって何だ」
それを聞き逃す親友ではない。
「いや、話すほどのことじゃ……」
話すほどのことではないというか、話せないよな。
僕の優柔不断武勇伝なんて。
そんな僕をしばらく見つめて少し怪訝な顔をしながらも、切り替えた様子で親友は言葉を発した。
「まぁいい、話は後でゆっくり聞く」
いや、話すつもりはないのだけど、とも言えずに「ああ」と頷いた。
それを見て親友は駆けてきた道を家の方へと歩き出した。
僕もその後をついて行く。
「さ、入れ」
親友はそう言いながら僕を自宅に招き入れてくれた。
僕は玄関で「お邪魔します」とひと声かけ、促されるままリビングのソファーに座った。
お読み下さりありがとうございました。
今話より『第11章 戻らない時間』に入りました。
次話「親友宅にて(2)」もよろしくお願いします!