決断の時(6)
不思議なもので、彼女のことは忘れて、こんなにも想ってくれているヤツとやり直す……いや、新しく初めてみるのもいいんじゃないかと思えてきた。
ヤツの目を見つめると、その瞳は揺れていて、ついその気になってしまいそうな自分がいる。
こんな状況でどうすれば?
優柔不断な弱い自分がまた顔を覗かせる。
そっと目をつぶり待っているヤツ。
本当の恋人にしてほしいと。
彼女とはこの先どうにもならないことは明白だし、いつまでも引きずっていても仕方がない。
一歩前に踏み出すためにヤツと。
ヤツとこのまま……。
その方がお互い丸く収まる。
ヤツとこれから……。
僕はそっと目を細めながら、ヤツとの距離を縮め……。
「ごめん」
でも……やっぱりできない。
「どうして……」
理由は……。
「ごめん、やっぱ僕にはできないよ」
たかがキスぐらいと思うかもしれないが、愛情のないキスなんて今の僕にはできない。
「謝らないで、私はそうなってもよかったんだから。お願い」
「ごめん」
僕は目を逸らした。
「どうして……」
理由を言わなくちゃいけないよな。
もうこれ以上自分の心に目を背けちゃいけない。
「お前を愛せない」
ヤツには申し訳ないが、ハッキリと言うことがお互いのためなんだと思う。
「それでもいい」
なん……だって?
そんなこと。
「いや、愛が無いのに無理だ」
僕にはできない。
「彼女の、彼女の代わりでもいいから」
そんなことまで口にするくらい僕のことを想っていてくれるのは嬉しいが。
「バカヤロウ! 何言ってんだ」
それを口に出されると。
「だって」
なぜか無性に腹が立つ。
「誰も。誰も誰かの代わりなんかできない。皆それぞれが、自分自身でしかないんだ。もっと自分を大事にしろ!」
少し声を荒らげてしまったが、どうしても解ってほしかったんだ。
するとヤツは泣き出した。
「ごめんなさい、浅はかだった。だから嫌いにならないで。本当にごめんなさい」
解ってくれればそれでいいんだ。
「嫌いにはならないよ。煮え切らなかった僕にも責任はある。辛い思いをさせてごめん。でも……だから、恋人ごっこはもうおしまいだ。やっぱりお前とは、友達以上の関係にはなれない。いいな」
ハッキリと言いすぎたかもしれないが、ここで言葉を濁してしまうと、また同じことの繰り返しになる気がして、キッパリと言うことにした。お互いのために。
するとヤツは小さく頷いた。
「もっと早くにそうすべきだった。優柔不断でごめん」
本当に優柔不断で申し訳なかったと、心からそう思う。
そう言って、ヤツの家を出た。
お読み下さりありがとうございました。
次話「決断の時(7)」もよろしくお願いします!