決断の時(3)
親友からのメール。
用件も言わずに『夕方に家に来てくれ』だなんて、なにか胸騒ぎがする。
早めに家を出ようとしたところに、尋常でない声色でかかってきた電話。
僕はその様子に驚いて、とにかくヤツの家に急いだ。
珍しいことに心配したんだよ。この僕がヤツのことを。
急いで駆けつけたのに……。
ドアから顔を出した、脳天気なヤツの言動に腹が立つ。
だからだろうか。
そんなヤツと会話をしながらも、ふと浮かんでしまう。
僕は彼女のような……。
今更考えても仕様がないが、なにかにつけ浮かぶのは彼女のことだ。
『エピローグデート』を終えて、一応けじめはついた……つもり。
だけど、あの日のことを想い出す度に胸の奥が締めつけられる。
やっぱり僕は彼女のような女性が好きなんだ。
落ち着きがあって、思いやりがある。優しさのかたまりのような。
いつも自分のことよりも相手のことを考えてしまう、そんな彼女。
結果、自分が苦しむことになろうとも、相手の気持ちを優先させてしまう女性。
もっと自分の想いをぶつけてほしいとも思ったが、それは僕の勝手な思いで、彼女に強要することではないし、そんな奥ゆかしい彼女だからこそ、好きにもなったのだと思う。
彼女と比べるわけではないが、やはり自分の想いを前面に出して猛アタック……なんてされると、こちらは引いてしまう。
ヤツとは正反対の……バカだな。
まだそんなことを考えているのか。彼女のことを。
「いいか、他の男はどうだか知らないけど、僕はそういうのは嫌いなんだ。しかも嘘までついて驚かせて」
軽い女性が好みだという男性も、世の中には多いだろう。
自分から行動を起こさなくても、相手から来てくれるなんてそんなに楽なことはない。
だが、僕はあくまでも自分から行動を起こしたい方なんだ。
なかなか上手く想いは告げられないし、上手く伝わるかも解らない。
それでも受け身でなく、好きな女性には男性の僕から、なんらかのアクションをしたいんだ。
考え方が硬いと言われるかもしれないが、24年間付き合ってきた性格はそうそう変わるものでもないし、大事にしたい。
「ごめんなさい、もうしません。だからそんなに怒らないで。お詫びにコーヒー淹れるから」
そう言うと僕の手を引っ張って、部屋に上がるように促す。
強引なヤツの態度に、つい思ってしまう。
僕は今でも彼女のことを想っている。
それ以外のひとはまだ考えられない。
「なにもなかったのならよかった。もう行くよ」
彼女のような女性が理想だ。
「怒ってるの?」
彼女のことを想い出に変えられるのだろうか。
「いや」
そのための時間って、どのくらい必要なのだろう。
お読み下さりありがとうございました。
次話「決断の時(4)」もよろしくお願いします!